忙しいのに利益が出ない中小製造業への生産性向上の打ち手~IE手法で日本の中小製造業の底力を引き出す~

工程能力1.33とは簡単に何?~数値で見る品質管理の基本:工程能力指数を知る~

 日本の中小製造業は、いま大きな転換点にあります。受注はある、仕事もある、現場も忙しい。にもかかわらず、「売上は増えているのに利益が残らない」「残業が多く、社員が疲弊している」「人が採れない、育たない、定着しない」といった声は少なくありません。

これは単なる現場の頑張り不足ではなく、付加価値の稼ぎ方と、現場の仕事の進め方の両方を再設計すべき局面に入っていることを意味します。

中小企業庁は、人口減少下で我が国全体の付加価値を継続的に増やすためには、従業員一人当たり付加価値額、すなわち労働生産性(=付加価値額/従業員数×労働時間)を高めることが必要であり、単純な人員削減ではなく、分子である付加価値額を増やすアプローチがより重要だと示しています。

生産性という言葉は、しばしば「人を減らすこと」「早く作ること」「コストを削ること」と誤解されます。しかし本質はもっと広く、もっと経営的です。日本生産性本部は、生産性(=成果_産出・アウトプット/投入_インプット)を「生産諸要素の有効利用の度合い」と定義し、投入に対してどれだけ有効な産出を得られたかを見る考え方だと説明しています。

製造業の現場で考えるなら、生産性向上(=付加価値額粗利/総労働時間)とは「同じ人数・同じ時間で、より高い価値を生み出すこと」であり、さらに言えば「品質・納期・安全を守りながら、利益と賃金の原資を増やすこと」です。

ここで重要なのは、現場改善だけでは不十分だという点です。

工程のムダを削減しても、受注する仕事自体の採算が悪ければ、利益は残りません。逆に、高付加価値な仕事を受けても、段取り替えが多く、待ちや運搬や手直しだらけでは利益になりません。だからこそ、生産性向上は、分母側の「効率の向上」と、分子側の「付加価値の向上」を同時に考える必要があります。

そこで今回は、日本の中小製造業の底力を引き出すために、生産性向上をどのように捉え、どう進めるべきかを、IE(インダストリアル・エンジニアリング)手法の視点から整理します。ぜひ皆さまの目の前の一歩を進めるきっかけとして役立てていただければ嬉しいです。

目次

生産性向上とは何か?本質は「効率」と「付加価値」の両輪

生産性向上を考えるとき、まず押さえるべきなのは「労働生産性」です。
実務では、次のような式で考えると分かりやすくなります。

 1人当たりの付加価値額 =(営業利益+人件費+減価償却費)÷ 従業員数
 時間当たりの付加価値額 =(営業利益+人件費+減価償却費)÷ 総労働時間

ここで重要なのは、生産性向上を「人を減らせばよい」という短絡的な話にしてはいけないということです。中小企業庁も、分母である従業員数を減らすことで見かけ上の生産性は上がり得るが、それだけでは付加価値の増加にはつながらないと指摘しています。

つまり、本質は次の二つにあります。

① 効率の向上(分母の最小化)

時間短縮、工程短縮、段取り短縮、移動削減、仕掛削減、手待ち削減、情報伝達のロス削減などを通じて、同じ時間・同じ人数でより多くの成果を出すことです。IE手法が最も力を発揮する領域でもあります。

② 付加価値の向上(分子の最大化)

より利益率の高い製品構成への転換、短納期対応力の強化、品質安定による価格競争からの離脱、設計提案力の強化、試作対応力の向上、小ロット多品種への収益的な対応などにより、「選ばれる理由」をつくることです。

中小企業庁のガイドラインでも、生産性向上は「効率の向上」と「付加価値の向上」の両輪で進めるべきだと示されています。

なぜ中小製造業にとって生産性向上が重要なのか_生産性向上の本質を考える

日本の中小製造業は、高い技術力や現場対応力を持ちながらも、利益構造の弱さに悩んでいる企業が少なくありません。大企業製造業が労働生産性を高める一方で、中小企業では製造業・非製造業ともに横ばい傾向が続いていることが、中小企業白書でも示されています。(2023年中小企業白書第1部第3章第3節)

この状況で、生産性向上は単なるコスト削減策ではありません。
それは、次のような経営課題を解くための鍵です。

  • 利益を確保する
  • 賃上げ原資を生み出す
  • 労働時間を適正化する
  • 人材の定着率を高める
  • 設備投資や教育投資の余力をつくる
  • 価格競争から脱却する

製造業版の生産性向上をあえて式で表すなら、次のようになります。

 生産性向上 =(付加価値の向上 + 革新ビジネスの創出) ÷ 効率の向上

この式(付加価値_分子を最大化し、効率_分母を最適化)のポイントは、「現場改善」と「営業・商品・顧客価値づくり」を切り離さない点にあります。現場だけでは賃上げ原資は生まれません。営業だけでも利益は残りません。両方を接続してこそ、真の意味での経営品質向上になります。

厚生労働省も、生産性向上によって生まれた余力を、労働時間削減や賃上げに結びつける好循環を重視しています。(生産性向上ヒント集_令和6年3月)

忙しさを我慢して回す経営には限界があります。日本の中小製造業には、まだ伸びしろがあります。問題は「弱い」ことではなく、現場の技術力、改善力、顧客対応力を、付加価値と利益に転換する経営の仕組み化が不足していることです。ここにIE手法の価値があります。

IEは、現場の努力を数字に変え、数字を利益に変え、利益を賃金と投資に変えるための橋渡しの技術なのです。

生産性向上に向けて、まず「目的と目標」を明確にする_忙しいのに儲からないを変える

改善活動がうまくいかない会社には共通点があります。
それは、「何のために改善するのか」が曖昧なまま進めてしまうことです。

「残業を減らしたい」
「効率を上げたい」
「DXを進めたい」

これらは方向性として間違っていません。しかし、これだけでは改善テーマとしては不十分です。重要なのは、どの課題を、どの水準まで、いつまでに改善するのかを具体化することです。

たとえば、

  • 段取り時間を3か月で20%短縮する
  • 月末残業を半年で30%削減する
  • 見積から出荷までのリードタイムを25%短縮する
  • 不良損失を1年で半減する
  • 一人当たり付加価値額を3年で15%向上する

といったように、経営目標と現場指標を結び付けておく必要があります。

また、初回ヒアリングでは、事業ドメインの確認も不可欠です。
どの顧客に、どの製品を、どの強みで、どんな価値を提供しているのか。
どの仕事が利益を生み、どの仕事が現場を疲弊させているのか。
ここを曖昧にしたまま現場改善だけを進めても、儲かる体質にはなりません。

業務の全体像を見える化する_見える化が利益を生む

生産性向上の出発点は、現場を「見える化」することです。
J-Net21は、「見える化」とは問題を常に見えるようにし、問題が起きてもすぐに解決できる環境、さらには問題が起きにくい環境をつくる取り組みだと説明しています。(ビジネスQ&A_「見える化」とはどういうことなのでしょうか?)

業務の全体像を見える化することで、次の二つの効果が生まれます。

第一に、業務の流れが分かりやすくなること。
第二に、矛盾点・問題点が見えてくることです。

たとえば、見える化を進めると次のようなことが明らかになります。

  • 加工時間より待ち時間のほうが長い
  • 工程間の運搬が多い
  • 特定の担当者しかできない作業がある
  • 品質判定基準が曖昧で手戻りが多い
  • 情報伝達が紙・口頭・Excelで分散している
  • 設備停止の原因が記録されていない

ここで役立つのが、IE手法のひとつである工程分析です。日本IE協会は、工程分析を「生産対象物が製品になる過程、作業者の作業活動、運搬過程を図記号で表して系統的に調査・分析する手法」と定義しています。そして、活動の種類とつながりを明確にし、プロセス全体にムダがないかを検討することを目的としています。 (現状を分析するIE手法_工程分析)

つまり、見える化とは単なる図解ではなく、改善のための診断技術なのです。

効率の向上に効くIE手法とは何か_IE手法で現場を変える

IEとは、Industrial Engineering、すなわち工業経営・生産性向上のための管理技術です。JMAC(日本能率協会エンジニアリング)は、IEを人・モノ・設備・情報のワークシステムを設計・改善・運用する基礎的手法と位置付けています。

中小製造業の現場で特に有効なのは、次のような手法です。

工程分析

モノや人の流れを追い、工程全体の構造を把握します。工程数、停滞、運搬、検査、待ちなどを明らかにし、どこにムダがあるかを見つけます。

動作分析

作業者の動作を細かく見て、ムダな動きや不自然な姿勢、探す・持ち替える・歩くといったロスを減らします。

時間研究・標準時間設定

作業に必要な時間を測定し、標準時間を設定します。標準時間は、生産計画、人員配置、原価把握、進捗管理の基準になります。

稼働分析

人や設備が実際に何に時間を使っているかを明らかにし、停止・手待ち・段取り・付帯作業などのロスを把握します。

見える化・標準化

属人化を防ぎ、誰が作業しても一定の品質とスピードを確保できるようにします。中小企業白書でも、標準化や業務プロセスの見直しは、生産性向上とIT活用の前提条件だと示されています。(2018年中小企業白書第2部第2章第1節)

改善の順番を間違えない――ECRSの原則_標準化が強い工場をつくる

改善活動では、「もっと早く」「もっと頑張って」という発想に流れがちです。しかしIEでは、改善には順番があります。日本IE協会が示すECRSの原則です。

  • E:Eliminate(排除)
  • C:Combine(統合)
  • R:Rearrange(交換・変更)
  • S:Simplify(簡素化)

この順番が重要です。

まず考えるべきは、その作業をなくせないかです。
次に、まとめられないか。
その次に、順番や担当を変えられないか。
最後に、もっと簡単にできないかを考えます。

たとえば、帳票入力が三重にあるなら、入力速度を上げる前に、入力自体を減らすべきです。
工程間の運搬が多いなら、運搬の工夫より先にレイアウトを見直すべきです。
段取りが長いなら、気合いではなく、事前準備や治具配置の見直しをするべきです。

改善とは、作業者に負荷をかけることではなく、ムダな仕事を引き算することなのです。

生産性向上を成功させる会社の4つの共通点_現場改善を経営成果へ

中小製造業で生産性向上がうまく進む会社には、いくつかの共通点があります。

共通点1:現場を責めず、仕組みを見直している

問題が起きたときに「誰が悪いか」ではなく、「なぜそうならざるを得ない工程なのか」を見る姿勢があります。

共通点2:改善を数値で追っていること

段取り時間、停止時間、不良率、リードタイム、仕掛量、残業時間、一人当たり付加価値額などを継続的に見ています。

共通点3:三つ目は、改善を標準化していること

一度よくなっても、標準手順や教育に落ちていなければ元に戻ります。属人化を防ぐには、標準化と教育が欠かせません。

共通点4:現場改善と経営課題をつなげていること

ただ工数を減らすのではなく、その成果を利益、賃上げ、納期対応力、採用力につなげています。

まとめ:中小製造業の底力は、まだ引き出せる_人手不足時代の生産性向上

生産性向上とは、単なる効率化ではありません。
人を減らすことでも、現場を追い込むことでもありません。
それは、限られた人材と設備の中で、より高い付加価値を生み出し、利益を確保し、その成果を賃金・教育・設備投資へ還元する経営の再設計です。

日本の中小製造業には、現場力があります。改善力があります。顧客に食らいつく粘り強さがあります。足りないのは、その底力を数値に変え、標準に変え、利益に変える仕組みです。IE手法は、そのための極めて実践的な技術体系です。

これからの時代に必要なのは、「忙しい会社」ではなく、儲かる仕組みを持ち、社員が育ち、顧客から選ばれ続ける会社です。生産性向上とは、その入口であり、経営品質向上への本道でもあります。日本の中小製造業が持つ真の強さを、いまこそ現場改善と付加価値創造の両輪で、次の成長につなげていきたいと考えています。

参考文献・出典

・中小企業庁:企業が生み出す付加価値と労働生産性

・中小企業庁:2023年版 中小企業白書 第3節 生産性の現況

・日本生産性本部:生産性とは

・中小企業庁:中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン

・厚生労働省:生産性向上のヒント集

・日本IE協会:工程分析

・日本IE協会:ECRSの原則

・J-Net21:「見える化」とはどういうことなのでしょうか?

・JMAC:IE・標準時間設定コンサルティング

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この記事を書いた人

電子部品メーカーでの技術開発や工場立上げに加え、総務部長としての事業撤退対応、約20年の品質保証責任者など、38年間製造現場と向き合ってきた「経営品質」の専門家です。技術と経営の両面からものづくりを捉え、現場の言葉で語れる「参謀」として伴走します。不具合の根本解決や、歩留まり改善による収益力向上、人材育成まで幅広く対応。「まず現場を見せてください」の姿勢で、貴社の底力を共に引き出します。

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