製造業の価格交渉術|お客さまの「パートナーシップ構築宣言」を最強の武器に変える交渉の極意

製造業の価格交渉術|お客さまの「パートナーシップ構築宣言」を最強の武器に変える交渉の極意

お客さまのホームページや名刺の端っこで、矢印が握手をしているような「パートナーシップ構築宣言」のロゴマークを見たことはないでしょうか?

実は「パートナーシップ構築宣言」とは、取引相手との健全なパートナーシップを構築していくことを宣言して、企業イメージをあげようとしている会社が宣言するものなんです。

こういうのを知った瞬間、「どうせ大企業の綺麗事でしょ」「『共存共栄』なんて言いながら、ウチみたいな下請けの厳しさなんて結局分かっちゃいないんだよ」と、鼻で笑ってしまうのは我々の悪いクセです、笑。でも、そりゃそうですよね。 これまで散々厳しいコストダウンを要求されてきたのですから、そう冷めた目で見てしまうのも当然と言えば当然の流れです。

でも、もし「パートナーシップ構築宣言」を「ウチには関係ない」と思うのであれば、少しだけ待ってください。 実はあの宣言、私たち受注側(町工場)にとって、重い扉を開けて価格交渉を切り出すための「最強の通行手形」になり得る可能性を秘めているのです。

そこで今回は、我々コンサルタントがよく言う「下請けいじめはダメだ」といった綺麗事は一切抜きにします。 あの宣言の裏側に隠された「取引先の弱み(絶対に宣言を守らなきゃいけない裏事情)」を容赦なく暴露し、正論で角を立てることなく、したたかに相手を値上げのテーブルへと着かせるための「超実戦的な使い方」をご提案します。

「あの建前、こうやって逆手に取って使えばよかったのか」 読み終える頃には、そう思っていただける一面をできるだけわかりやすく解説していこうと思います。

それでは今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いくださいませ。

目次

「パートナーシップ構築宣言」とは?

さて、それはこの聞きなれない「パートナーシップ構築宣言」が一体何なのか、その基本的な仕組みを簡単におさらいしておきましょう。お役所言葉で難しく聞こえますが、要するに私たち町工場にとって非常に有利な「約束事」が書かれた制度のことです。

大企業と下請けが「共に成長する」ための国のお墨付きルール

「パートナーシップ構築宣言」とは、2020年に国(内閣府や経済産業省など)が旗振り役となってスタートした制度です。

親事業者(発注元)が、下請け企業(受注側)に対して「立場の弱さを利用した無理な押し付けをやめ、お互いに協力して共存共栄を目指します」と、外部に向けて公式に宣言するものです。専用のポータルサイトに会社の代表者の名前で登録され、あの握手をしているロゴマークを名刺やホームページで使えるようになります。

下請けにとって一番重要な「価格交渉の約束」

宣言書にはいくつか守るべきルールが書かれていますが、私たち製造業の現場にとって一番重要なのは「取引対価の決定(価格交渉)」に関する約束です。

具体的には、「労務費や原材料費、エネルギーコストが上がった時は、下請け企業と定期的に協議して、適切な価格転嫁(値上げ)に応じます」という内容が必ず盛り込まれています。

つまり、相手の企業は「世の中のコストが上がったら、逃げずにちゃんと話し合いのテーブルに着きますよ」と、自社の社長の名前で国や社会に対して誓約しているわけです。

日本商工会議所も推進!実は身近な「経済界の肝いり施策」

「国が始めた制度」と聞くと、霞が関の遠い話のように感じるかもしれません。しかし実はこの制度、皆さまの地元にもある「商工会議所」の親玉である日本商工会議所(日商)や、経団連といった経済界のトップが、国と一緒になって立ち上げた肝いり施策なのです。

皆さまも日頃から経営相談などで馴染み深い、あの地域の商工会議所も推進に一枚噛んでいると知れば、「あー、あそこが関係しているのか!」と少し親近感が湧きますよね。決して遠い国の綺麗事ではなく、商工会議所をはじめとする身近な経済団体が、本気で町工場などの適正取引を守ろうとして作った極めて実戦的なツールだということを、まずは知っておいてください。

なぜ「パートナーシップ構築宣言」を出すの?知っておきたい宣言した取引先の裏事情

でも正直、すべての取引先がこの「パートナーシップ構築宣言」を出しているわけではありません。出している企業もあれば、出していない企業もあります。ではなぜそもそも「パートナーシップ構築宣言」という社会的に健全ではある一方で、自社の交渉行動を縛り付けるだろうルールをわざわざ自ら宣言するのでしょうか?その裏事情を把握しておきましょう。

彼らだって「国からの評価」や「補助金」が欲しい

そもそも、なぜ世の中の中堅・大企業がこぞって、わざわざこの「パートナーシップ構築宣言」を出しているのでしょうか?

「社会的にいい会社に見られたいから」

もちろん、それもゼロではありません。しかし、企業が動く本当の理由はもっと生々しいところにあります。ぶっちゃけた話をすると、最大の目的は「補助金」と「国からの評価」です。

例えば、「ものづくり補助金」のような国が主導する数千万単位の大きな補助金を申請する際、この宣言を出している企業は審査で特別に有利になる(加点される)という強力なメリットが用意されています。

さらに、親会社や行政から「お前たちもちゃんと下請けの面倒を見るように宣言を出せ」という、事実上の強いプレッシャー(同調圧力)をかけられているという実態もあります。

つまり、彼らもただ善意で宣言しているわけではなく、自社の利益と立場を守るために「宣言を出さざるを得なかった」というのがリアルな裏事情なのです。

だからこそ「約束破り」は相手の急所になる

「なんだ、結局自分の会社のためじゃないか」と思われるかもしれません。でも、実はここが最大のチャンスなのです。

相手の会社にとって今一番怖いシナリオは何でしょうか?

それは、「国に対して『共存共栄で下請けを大事にします!』と宣言していい顔(加点)をしているのに、裏では下請けに無理なコストダウンを強要している」という事実が表沙汰になることです。

大企業の購買部門のリアルな内情として、窓口に座っているバイヤーたちは、上層部やコンプライアンス部門から**取適法下請法)違反や、宣言に泥を塗るようなトラブルだけは絶対に起こすなよ」と耳にタコができるほど厳しく言われています。

そう、彼らは「宣言してしまった手前、無下な対応ができなくなっている」のです。

これこそが、単なる「お願い」を「対等の協議」へと引き上げる、私たちが交渉で使える最大のレバレッジ(てこの原理)になり得ます。

現場で使える!「宣言」をチラつかせて相手を動かす交渉術

相手の裏事情と「絶対に守らなければならない急所」が分かったところで、いざ本番です。では、実際の商談の席で、この「パートナーシップ構築宣言」をどのように使えば、角を立てずに交渉のテーブルへ着かせることができるのでしょうか。ここでは、絶対にやってはいけないNGな切り出し方と、相手を味方につける「必殺の切り出し方」をご紹介します。

NG行動:「宣言してるんだから上げろ!」と詰め寄るのは厳禁

相手の「弱み(建前)」を握ったからといって、いきなり強気に出るのは絶対にやめてください。

「御社、HPでパートナーシップ構築宣言を出してますよね? なのになんでウチの値上げは認めてくれないんですか!」

このように、相手の矛盾を突いて論破しようとしたり、脅すように詰め寄るのは三流のやり方厳禁です。

前章でお伝えした通り、目の前にいる担当者も板挟みのサラリーマンです。法律や宣言を盾にして担当者のプライドを傷つけたり、逃げ道を塞いだりしてしまうと、かえって相手は心を閉ざし、「あそこは面倒な業者だ」と今後の関係が冷え込む最悪の結果を招いてしまいます。

必殺の切り出し方:「御社の方針に、うちも協力させてください」

一流の営業マンや経営者は、相手の建前を決して攻撃しません。逆に、相手の建前を「大いに褒めて、それに乗っかる」ことで交渉をスタートさせます。

商談の冒頭の雑談で、こんな風に切り出してみてください。

「先日、御社のホームページで『パートナーシップ構築宣言』を拝見しました。あの『共存共栄』という素晴らしい方針に、弊社も末長くお力添えしたいと強く思っております。つきましては、今後も御社が求める品質と納期を維持していくために、本日は我々との取引における適正価格についてご相談させていただきたく…

いかがでしょうか。

「御社の素晴らしい方針(宣言)を実現するために、ウチも協力しますよ。だから、そのための相談(価格改定)に乗ってくださいね」というロジックです。

「自分で宣言した素晴らしい方針」を大義名分として持ち出され、しかも「あなたの方針に合わせて協力したい」とまで言われているのですから、どんなに厳しいバイヤーでも無下に断ることはできません。相手のメンツを完全に保ちながら、スムーズに値上げの土俵へと引きずり込むことができる、これが必殺の交渉術です。

敵の懐に飛び込もう!ポータルサイトを事前調査する

では先ほどお伝えした「相手を褒めて、乗っかる」という最高の切り出し方を確実に成功させるためには、訪問する前にちょっとした「仕込み」をしておく必要があります。実は、お客さまが国に対してどんな約束(宣言)をしているのか、その詳しい内容は誰でもネットで調査できてしまうのをご存知でしょうか? 丸腰で戦いに挑むのではなく、事前に「相手の手の内」をしっかり調べておくことで、交渉の主導権を完全に握ることができます。

相手が「自分で書いたルール」を調べ上げる

交渉に行く前夜、必ずやっていただきたい5分で終わる作業があります。それは、ネットで「パートナーシップ構築宣言 ポータルサイト」と検索し、登録企業リストからそのお客さまの会社名を探し出すことです。

実はこのサイトには、宣言した企業については企業名だけでなく、お客さま自身が国に提出した「価格決定のルール」がPDFデータでバッチリ公開されているのです。

そのPDFを開いてみてください。そこには「労務費やエネルギーコストの上昇を考慮して協議する」とか、「少なくとも年に1回は下請け企業と定期的な協議を行う」といった、非常に具体的な約束事が明記されています。言わば、相手が自分で作った「攻略本」がネット上に無料で落ちているようなものなのです。

「御社が書いた通りに相談に来ました」というスタンス

このPDFの内容(相手の約束事)を頭に入れたら、あとは本番の商談で実践するだけです。 先ほどの「必殺の切り出し方」に重ねて、笑顔でこう伝えてみてください。

「御社の宣言文に『定期的な協議を行う』とありましたので、本日はありがたくお時間をいただきました」

人は、他人から押し付けられたルールには反発しますが、「自分が過去に言ったこと(自社で書いたルール)」は絶対に否定できません。 「御社が自分で書いた通りに、相談に来ましたよ」というスタンスをとることで、どんなに手強いバイヤーであっても、交渉のテーブルをひっくり返すことはできなくなります。

補足:もし相手が「宣言」を出していない企業だったら?

「検索してみたけれど、ウチの取引先の名前はなかった…」 もちろん、すべての企業がこの宣言を出しているわけではありません。しかし、その場合でもこの切り口を諦める必要はありません。むしろ、別の角度から揺さぶりをかけるチャンスです。

相手が宣言を出していない場合は、日本企業が最も弱い「他社の動き(同調圧力)」の情報を提供するのが効果的です。商談の雑談の中で、こう切り出してみてください。

「最近、〇〇業界(相手の業界)の企業様でも『パートナーシップ構築宣言』を出されるところが増えていて、弊社にも定期的な価格見直しのお声がけをいただく機会が増えているのですが、御社内ではそういった法改正や宣言に向けた動きはございますか?」

この一言で、担当者の心に「ウチの会社は世間の流れから遅れているのか?」「他社はちゃんと下請けと協議しているのか」という焦り(プレッシャー)を生み出すことができます。「ウチの都合」ではなく「世間のスタンダード」を武器にすることで、宣言のない企業相手でも堂々と交渉のテーブルを作ることができるのです。

一方でまさかとは思いますが、開き直る企業もいるとは思います。しかし、そことは中長期的にお付き合いを控えるための事業方針の変更をオススメします。すぐには無理かもしれませんが、10年後には取引はしない、とそのための戦略をしっかり組み立てていきましょう。ご相談には乗れますよ → 全国のよろず支援拠点なら無料です。

【経営者・営業担当へ】価格交渉はただの「値上げ」じゃない。これは「共に生き残る」ための調整です

ここまで、相手の「建前」を逆手に取って交渉を有利に進めるテクニックをお伝えしてきましたが、最後に一つだけ、交渉のテーブルに着く前に皆さまの心の中にとどめておいてほしい「考え方の話」をさせてください。

安売りは、お客さまへの裏切りになる時代

「少しでも安く納めることが、長年お世話になったお客さまへの恩返しだ」

「ウチがちょっと我慢すれば、丸く収まるんだから」

もしそんな美学を持っているなら、厳しいことを言うようですが、今日この瞬間にその考えは捨ててください。利益が出ないギリギリの価格で我慢し続けることは、もはや恩返しではなく「お客さまへの最大の裏切り」になる時代です。

なぜでしょうか。利益が出なければ、古くなった機械の修理や更新もできません。若い職人を雇って技術を継承することもできません。そしてある日突然、「社長、申し訳ありません、もう限界で御社の部品は作れません」と会社を畳んでしまう。

これこそが、お客さまの生産ラインを完全にストップさせ、多大な損害を与えてしまう最悪の裏切り行為なのです。

私たちは下請けではなく「製品を一緒に作るパートナー」です

取引とは本来、発注側が偉くて受注側が我慢を強いられるような「主従関係」ではありません。お互いが持つ独自の技術と資金を持ち寄り、最終的なユーザーにより良い製品を届けるための「チーム戦」なのです。

私たちが価格交渉で求めているのは、決して社長が贅沢をするための「わがままな利益」ではありません。お客さまに対して、「これから先10年も、御社に高品質な部品を確実に供給し続けるための維持費(チケット代)」を求めているのです。

「パートナーシップ構築宣言」のマークは、決して大企業だけのものではありません。「ウチは下請けだから」と卑下する必要は一切ありません。

「我々の技術で、御社の製品を一緒に作るんだ」という誇りを胸に、文字通り堂々とお客さまの「パートナー」として交渉の席に着いていただければと思います。

記事を締めくくる、読者の行動を後押しする「まとめ」のパートを作成しました。要点を押さえ、太字で力強く強調しています。


まとめ:パートナーシップ構築宣言は、両社を正しい未来へ導く羅針盤

お客さまが掲げる「パートナーシップ構築宣言」は、決して私たち受注側を騙すための飾りや、大企業の単なるポーズではありません。相手が背負っている社内事情やプレッシャーを正しく理解し、それを「対話のきっかけ」として賢く使うための最強のツールなのです。

「価格交渉は怖い」「関係が悪化したらどうしよう」と悩む前に、まずは今すぐ、お手元のスマホで主要な取引先の宣言文を検索してみてください。

彼らが国に対して何を約束し、自らどんなルールを定めているのか。その「相手の手の内」を知るだけで、あなたの胸にある「交渉への怖さ」は、必ず明日への「確かな自信」へと変わるはずです。

ぜひともパートナーシップ構築宣言を活用して、取引先と御社との未来の交渉をするきっかけにご活用ください。

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この記事を書いた人

 大手総合電機メーカーで20年間経験を積んで平成22年に独立。10年間で600社を超える中小企業支援、そして自らも小売業を立ち上げて業績を安定させた実績を持つ超現場主義者。小さなチームで短期的な経営課題を解決しながら、中長期的な人材育成を進める「プロジェクト型課題解決(小集団活動)」の推進支援が支持を集めている。

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