前回の記事ではこれまでの調査研究活動で明らかになったことを整理しました。それらをまとめる過程で、中小製造業の事業競争力の強化を成功させるためにはいくつかのポイントが重要であることが解ってきました。そのため今回はデジタル化を進めるために押さえておくべき要点について、事業競争力の強化を成功させるための3つの留意点として解説しましょう。
【前回の記事】
留意点1:組織的な改善活動に慣れていること
上記の5つのステップはIT化あるいはDXを進めるために必要なプロセスを具体的に説明したが、実際には製造業がチームで品質的な問題解決を図るQC活動でトレースするQCストーリー=問題解決の型とほぼ同じとなっています。参考のためのQCストーリーのステップを以下に示します。
上記の4つのステップ数は諸説ありますが、もっとも数を減らせばほぼこの4ステップに集約されます。このQCストーリーでは取り組みテーマが決定している前提で進めるため、問題解決の目的が明確となっており、IT・DX化への最初のステップで言う(1)目的の明確化は通常省略されている状況で進みます。上記の1.現状と把握と目標を設定は(2)あるべき姿の決定=ゴールを明らかにすることと同意であり、2.要因の解析と3.対策の検討と実施は(3)問題点と会計策の検討と(4)設計・システム構築が含まれており、4.標準化と管理の定着は(5)運用開始とモニタリングが機能的に合致することを踏まえれば、ステップの区切り場所が違うものの、ほぼ同じ過程を示すものです。
そのためQC活動が日常的に行われている組織においては、このIT・DXを進めるだけの素地は備えていると言えます。これはQC活動だけにとどまらず、5S活動であってもプロジェクト組織活動であってもタスクフォースなどであっても、この問題解決の型は同様にPDCA、つまりチームを成長させるサイクルをトレースする取り組みとなっているんです。従って、組織的な改善活動が日常的に行われている会社では、デジタル化を進められるだけの習慣があることになります。
逆説的に説明するなら、これら改善の習慣をいずれも持っていない組織は、デジタル化を進められるだけの組織力を持っていないことになるんです。要するに自職場を自ら改善できるチカラを持たない組織にはデジタル化を進めることは不可能である、と。そのため、そのような職場が最初に取り組むべきは、自立的な問題解決能力を高めるための仕組みづくりから進めることが重要となりますよね。
留意点2: デジタル化を進める目的が明らかになっていること
前回の記事ではデジタル化を進めて実現を目指す理想像として3つのスマートモデルが存在することを明らかにしました。自社をそのスマートモデルのような素晴らしい会社へと進化させるためには、それを経営トップが先導する会社、またそれらの実現が経営方針に落とし込まれている会社ほど、実際にデジタル化を進めている実態を以前の記事で紹介しました。
これらはどんなに理想的な姿を描いていたとしても、目指す目的=意義が明らかでなければ推進パワーが高まらないことを意味しています。これは別に、なにもデジタル化に限ったことではなく、過去に実績を残した理想モデルを追求するよりも、個々の価値観に準じた個性を活かすことが重視される現代の経営に求められる組織的機能だと言えます。
市場環境の変化スピードがテクノロジーの高まりに準じてどんどん加速してる環境下では、過去の成功事例を参考にできる情報鮮度も短くなってきている。つまり情報量が増えれば増えるほど、それを活用・処理・実行できる能力が求められる構図です。しかし経営者やリーダー層など少人数の気づきやアイデア、行動力で経営変革を成し遂げてきた成功体験によって、その能力が不足している問題に対処できていない。そのため従業員一人ひとりの気づきやアイデア、行動力をフルに活用できる組織スタイルが現代の経営には求められるというわけです。
従業員それぞれの価値観に準じた、つまり異なった視点を持つ個性により、問題点が自然と多角的に見つかり、そのうえで重要課題として絞ったうえで対策を講じる。このように組織的な問題解決能力を活かすことが大切ですが、この重要課題を絞る過程において、その個々の価値観によって判断基準がバラバラになる問題に直面することになります。それを解決するのが、何のためにデジタル化を進めるのか?=目的の明確化になります。
これまで各社が重要視してきた事業目的は、社是や綱領などの企業理念として定義されている会社もあれば、口伝のみの会社もあります。長年大切にしてきた当社独自の信念を徹底した先にある未来像をゴールと置き、市場・競合環境に順応した事業戦略が当社の最適な正常進化プランであるなら、それを誰もが理解できるよう明文化した設計図が経営計画なのです。この情報社会でIT活用を戦略として選ばない会社が少数派であるなら、まず実行したくなるワクワクな経営計画を従業員と共に策定し、その実現に向けた組織的な取り組みの中にデジタル化施策を織込むことからスタートすることが、多くの人材パワーを集約できる組織的な仕組みを育むことにつながるはずです。
留意点3: 社外の専門家の存在と能力を活用すること
これまで解説した(1)の組織的な改善活動に慣れることについても(2)の改善に取り組む目的の確認についても、もし現時点でノウハウが社内にない場合は、迷わず社外の専門家の活用を勧めたいと思います。確かに自ら知識を習得しながら試行錯誤して現場に落とし込むことが理想です。しかし、そのノウハウの蓄積が完了するまで施策が進まないことを覚悟する必要があります。この専門家活用を勧めるのは、多くの中小製造企業にその時間的余裕がないと捉えているからなんです。
以前の記事の中小製造業に対する現状把握によれば、売上高・営業利益はコロナ禍の影響も大きく、今後3年間も決して明るくない見通しである反面、国策により施行された各種給付金や金融支援によって倒産件数はバブル期以降の低水準を記録していると伝えました。しかしその水面下ではこの大きな環境変化に追従しようと試行錯誤する企業と、あまりの変化に衝撃を受けて今後の事業展開に迷って動けていない企業との格差が拡大していることが推測できます。前者は自力で成長する期待が持てる一方、後者も専門家の支援によってカバーが可能ですよね。
また有効な施策と成り得るデジタル化の現状は、定型業務の効率化面では会計管理や情報共有システムの導入などは一定程度進んでいる半面、生産管理、勤怠管理の導入率については中小企業白書のデータと比べて兵庫企業は15~20%程度低い状態です。その一方で将来の効率性を定義するAI/IoT導入などの自動化に向けての取り組みは、全国的には2割程度、兵庫県下の企業においては1割程度と大きく遅れているとのこと。
そのデジタル化を進めた企業では、社員の意識改革と経営層のITへの理解促進の取り組みに次いで、方針の策定や明確化を重要視してきたとの統計が出ている。つまり経営層の意思決定から事業戦略・方針の策定、それらによる従業員の意識改革などの経営改革を進めるためのノウハウが必要だというわけなんです。
そのため外部専門家を活用して第三者目線で事業戦略・方針を再点検すると同時に、その専門ノウハウについて実践を通して社内にインストールする。つまり他社で成功している実施方法を真似ることから始めて、後に徐々に自社の独自ノウハウへと応用進化させる2ステップ戦略を選択することで、事業成長の時間短縮を図ることが可能となるというわけです。おわかりですよね。
まとめ
今回はいくら便利なITツールを導入してデジタル化を進めて効率的な業務プロセスの実現に成功したとしても、組織的な改善能力が備わっていなければ、獲得成果が限定的になることを指摘しました。でも逆に言えば、改善能力の高い組織がデジタル化を進めれば、改善速度と成果ボリュームを飛躍的に向上させることが期待できるはずですよね。次回はその理由と応用例について説明します。ぜひお楽しみにお待ちください。
※ なお、本調査内容の詳細は、兵庫県中小企業診断士協会において報告会を開催します。ご興味のある方はぜひ以下からお申込みをどうぞ。
それでは今日はここまでです。今後とも宜しくお付き合い下さい☆
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