多品種少量生産の宿命を打ち破る「外段取り」×「Man-Machine分析」で設備投資ゼロ・稼働率倍増を実現

dandori

前回は、工場全体の「流れ」を見る工程分析(6つの状態)や、お金をかけずに現場を楽にする改善のフレームワーク「ECRS(イクルス)の原則」、そして現場と一緒に客観的データを見る「スマホ動画の活用」について解説しました。

現場を巻き込む正しいマインドセットが整い、全体の大まかなムダが見えてきたら、いよいよ現場の「稼働率」と「生産速度」を劇的に引き上げる具体的なIE(インダストリアル・エンジニアリング)手法の実践に入ります。

今回向き合うテーマは、多くの中小製造業が最も頭を抱えている課題「多品種少量生産・短納期化に伴う、機械の停止時間と手待ち時間」です。

「品種が増えて段取り替えが増えたから、稼働率が落ちるのは仕方がない」 「高額な自動化ロボットや最新のNC加工機を導入しなければ、これ以上の効率化は無理だ」

そう諦める必要はありません。今回は、設備投資を一切行わず、「人」と「機械」の時間の使い方を科学する2つの強力なIE手法「外段取り化」「Man-Machine(マン・マシン)分析」を組み合わせた、2段構えの改善ステップを解説します。

目次

はじめに――設備ではなく「時間の設計」を変える

中小製造業を取り巻く環境は、年々厳しさを増しています。人手不足の深刻化、原材料・エネルギー価格の高騰、そして顧客ニーズの細分化に伴う多品種少量・短納期生産へのシフト。これらは一過性のブームではなく、製造業が生き残るための前提条件となりました。

顧客ニーズの細分化と短納期化が進むほど、製造現場では品種切替が増えます。品種が増えれば、金型、刃具、材料、プログラム、検査条件などの変更も増え、そのたびに機械が止まります。売れるものを柔軟に作ろうとするほど設備稼働率が下がる。これが、多品種少量生産が抱えるジレンマです。

しかし、解決策は必ずしも高額な複合加工機やロボットではありません。最初に見直すべきは、今ある人と機械の「時間の使い方」です。本稿では、機械停止時間を短くする「内段取り・外段取り」と、人と機械の動きを時間軸で組み直す「Man-Machine分析」という2つのIE手法を組み合わせます。設備能力を増やさずに、停止と手待ちを同時に減らす実践的なアプローチです。

「内段取り・外段取り」を徹底的に分ける

多品種少量生産の現場において、最大の生産性阻害要因(ボトルネック)となるのが「段取り替えに伴う機械の停止時間」です。まずは、この停止時間を極限まで削り落とします。

なぜ段取り替えが「負のループ」を引き起こすのか?

前回解説したIEの「工程分析(6つの状態:加工、運搬、貯蔵、滞留、数量検査、品質検査)」を思い出してください。製品の価値が高まり、お客様がお金を払ってくださるのは、唯一「加工」の瞬間だけです。

材料を探す、図面を読む、刃具を取りに行く、機械を調整する、検査の結果を待つといった時間は、必要であっても製品そのものの価値を増やしてはいません。IEの視点からは「1円の価値も生み出していないムダ」と定義されます。 とりわけ段取り替え中は、能力を持った機械が止まったままです。

段取り時間が長い現場では、「切替が面倒だから同じ品種をまとめて作ろう」という判断が起こります。一見すると合理的ですが、必要量を超えて生産すれば、次工程の前に仕掛品がたまります。在庫が増えると置き場、運搬、数量管理、品質劣化、設計変更による陳腐化のリスクも増えます。さらに、大ロット生産の間は別品種が待たされ、短納期対応が難しくなります。

つまり、段取りが長いからまとめて作る、まとめて作るから仕掛品と待ち時間が増える、流れが悪くなるから納期を守るためにさらに前倒しで作る、という負のループです。多品種少量生産を強みに変えるには、段取り回数を減らすのではなく、「何度切り替えても困らない短い段取り」を作る必要があります。

「内段取り」と「外段取り」の明確な定義

「段取り時間を短くしろと言われても、作業者の手を素早く動かせるのには限界がある」 そう思われるかもしれません。しかし、IEの段取り改善は「作業者に急いで動けと強いる(労働強化)」ものではありません。

段取り替えの作業は、性質によって以下の2つに明確に分けることができます。

  • 内段取り(In-setup): 機械を「止めなければ絶対にできない」作業
    (例)加工済みの金型・刃具の取り外し、新しい金型・刃具の取り付け、位置決めの締め付けなど
  • 外段取り(Out-setup): 機械が「動いている間(前ロットの加工中)」にできる準備・片付け作業
    (例):次ロットの図面や作業指示書の確認、材料・工具・治具の事前引き取り、前ロットの完成品バリ取りや測定、治具の事前予熱、NCプログラムの呼び出し準備など

多くの現場では、この区別が曖昧です。

前ロットの加工が終わって機械を止めてから「さて、次の品番は何だっけ?」と次の指示書を読み、「あの工具はどこに置いた?」と工具棚へ歩き、必要なボルトを探し、材料の所在を確認・・・といった具合です。これらは本来、「外段取り(機械が動いている間)」にできるはずの作業を、機械を止めた状態(内段取り)でやってしまっているという決定的なムダです。

段取り短縮の第一歩は、手のスピードを上げることではありません。「機械を止めて行う作業(内段取り)」の中から、「事前にできる作業(外段取り)」を徹底的に抽出して外へ追い出すこと重要なのは、現状のやり方を基準に「これは内段取りだ」と決めつけないことです。「現在、停止中に行っている作業」と「停止しなければできない作業」は同じではありません。場所、情報、道具の置き方を変えれば、停止前に実施できる作業は想像以上に多くあります。

段取り時間を半減させる「ECRS適用4ステップ」

具体的にどのように段取り短縮を進めるのか、「ECRSの原則(E:排除、C:結合、R:入れ替え、S:簡素化)」に沿った4つのステップで解説します。

ステップ1:段取り替えの全手順をスマホ動画で撮影する(現状の可視化)

まずは現場の協力・同意を得た上で、段取り替えが始まってから次の合格品(1個目)が出るまでの一連の動きを、スマホやデジタルカメラでノーカット撮影します。記憶や印象では省かれてしまう「数十秒の探索」「短い往復」「確認の待ち」が映像には残ります。ストップウォッチを手に威圧的に監視するのではなく、「現場のやりにくさを一緒に見つけて、楽になる手順を作ろう」というスタンスを徹底してください。

ステップ2:作業をリストアップし、「内段取り」と「外段取り」に分ける

撮影した動画を作業者本人と一緒に再生しながら、行われている作業を1つずつカードやリストに書き出します。「これは機械を止めないとできない作業か?」「前もって準備できる作業か?」を話し合い、明確に色分け(可視化)します。 「刃具を外す」「刃具を棚へ戻す」「次の刃具を探す」を一括して“刃具交換”と書かず、動作単位まで分けます。機械停止が必要な作業だけを赤、運転中にもできる作業を青にすると、赤の中に紛れ込んだ青が見えてきます。

ステップ3:内段取りを外段取りへ変換する(ECRSのR:入れ替え)

機械が止まっている間に行われていた作業のうち、「外段取り」に分類されたものを、すべて「前ロットの機械が動いている時間(自動加工中)」へ移動させます。

  • 次ロットの材料、工具、測定器、作業指示書は、あらかじめ機械の横の台(段取り台車など)にセットしておく。
  • パラメータの入力値やNCプログラムの頭出しは、事前に確認しておく。

この「入れ替え(Rearrange)」を行うだけで、機械の停止時間は劇的に削り落とされます。 次ロット用の台車を作り、図面、材料、工具、治具、測定具を一式で揃えるだけでもかなり効果があります。

ステップ4:内段取りそのものを簡素化する(ECRSのS:簡素化)

どうしても残ってしまった機械を止めなければできない「内段取り」の作業に対して、最後に簡素化を行います。

  • ボルト締めからの脱却(ワンタッチ化): 何回転も回さなければならないボルト留めを、ワンタッチレバー、カム式クランプ、マグネットチャックなどに変更する。
  • 工具の共通化: 取り付けボルトのサイズを統一し、持ち替えるスパナや六角レンチの種類を1種類にする。
  • 調整作業の排除: 定規や目盛り、熟練工の「勘」で位置合わせをしていたものを、ストッパーや位置決めピンを設置して「突き当てれば一発で位置が決まる(調整いらず)」仕組みにする。

たとえば、従来40分かかっていた段取りを観察した結果、工具・材料探し8分、指示書確認4分、治具清掃3分、実際の脱着と調整25分だったとします。前半15分を外段取りへ移せば、機械停止は25分になります。さらにクランプのワンタッチ化と位置決めの共通化で10分短縮できれば、停止時間は15分です。新設備を買わなくても、停止時間は40分から15分へ、6割以上短縮できます。

Man-Machine分析で稼働率を極限まで高める

外段取り化によって「機械が動いている間に、次の準備をする」という考え方が理解できたら、次に生じるのは次のような疑問です。

「前ロットの機械が動いている間に外段取りをやると言われても、作業者は機械の横についていなければならないのでは?」

「具体的に『いつ』『どのタイミングで』外段取りをやればいいのか分からない」

日々の仕事の中で、その外段取りを“いつ”行えばよいのか。別に準備担当者を置けば人件費が増え、加工が終わる直前に慌てて始めれば安全や品質を損ないます。この実行時間を科学的に見つける道具が、「Man-Machine分析(人・機械分析/マン・マシン・チャート)」です。

機械の横で「じっと待つ」作業者

工場の中を観察していると、次のようなシーンに度々遭遇します。

「最新のNC加工機がガタガタと音を立てて自動加工を行っている横で、作業者のAさんが腕を組み、じっと機械の挙動を眺めている」

一見すると、Aさんは真面目に機械の安全を見守っているように見えます。しかし、IEの視点から言えば、機械が自動で削っている間、人間が横でじっと立っている時間(手待ち時間)は、「1円の価値も生み出していないムダな時間」です。 Aさんがサボっているわけではありません。「自動運転中に何をすればいいか明確な指示がない」「急にトラブルが起きたら怖いから離れられない」という、作業設計の不備が原因なのです。

Man-Machine(人・機械)分析とは何か?

Man-Machine分析とは、「作業者(Man)の動き」と「機械(Machine)の動き」を共通の時間軸の上で見える化(チャート化)し、両者の組み合わせを最適化するIE手法です。

縦軸に「時間(秒単位)」をとり、左側に「人の動き」、右側に「機械の動き」を棒グラフのように並べて描きます。この分析を行うことで、現場の作業サイクルは以下の「3つの時間」に分解されます。

  1. 人の単独作業時間: 人間だけが作業している時間(例:部品のセット・取り外し、バリ取り、測定など。この間、機械はストップしている)
  2. 機械の自動運転時間: 機械だけが動いている時間(例:NC切削加工、自動成形など。この間、人は手が空く)
  3. 連動作業時間: 人と機械が一緒に動いている時間(例:手動送り操作、ボタンを押しながらのセットなど)

Man-Machine分析の目的は、人・機械チャートを描くことで「機械の自動運転時間(手が空くスキマ時間)」と「人の単独作業時間(機械停止)」の重なり具合を正確に把握することにあります。

外段取り×Man-Machine――2つの手法がつながる瞬間

Man-Machine分析によって、例えば「機械が自動加工を行っている3分間、人間の手が完全に空いている(手待ち)」という事実がチャート上で数値化されます。

内段取り外段取り分類では「機械を止めずにできる仕事」を見つけます。Man-Machine分析は、その仕事を実行できる「機械の自動運転時間」を見つけます。つまり、外段取りという仕事の箱を作り、Man-Machine分析で見つけた時間のスロットへ入れるのです。これはECRSのC(Combine:結合)に当たります。

改善前:1サイクル合計:19分(機械停止時間:9分)

機械
自動加工(10分)前の加工品のバリ取り(3分)
機械の横で手待ち(7分)
停止(7分)[内段取り]
取り外し、次ロットの工具・指示書を探して準備(7分)
停止(2分)[内段取り]
材料セット・起動(2分)

改善後(外段取り × Man-Machine):13分(機械停止時間:わずか3分)

機械
自動加工(10分)前の加工品のバリ取り(3分)
[外段取り]
次ロットの工具・指示書を事前準備(6分)
監視(余裕時間)(1分)
停止(3分)[内段取り]
取り外し・ 材料セット・起動(3分)

いかがでしょうか。作業者に急いで走らせたわけではありません。「機械が動いている10分間」の裏側に、「人間がやるべき外段取り」を時間的パズルのように綺麗に当てはめただけです。

まとめ:工場に眠る「時間の埋蔵金」を掘り起こす

日本IE協会が定義するように、IEとは「価値とムダを顕在化させ、資源を最小化することでその価値を最大限に引き出す見方・考え方」です。

多品種少量生産の時代において、「段取り替えがあるから稼働率が落ちるのは仕方がない」と諦める必要はありません。高額なロボットや新型機を購入しなくても、今ある「人」と「機械」の時間の組み合わせ(Man-Machine分析)を変えるだけで、工場にはまだまだ大きな伸びしろ(埋蔵金)が眠っています

まずは明日、工場の中で一番高いNC機械や加工機の前に立ち、自動運転中に作業者がどんな動きをしているか、優しく観察してみることから始めてみませんか?

機械が自動運転している間、作業者は何をしているでしょうか。次ロットの図面、工具、材料、治具は、加工が終わる前に準備できているでしょうか。その観察から、設備投資ゼロの生産性向上がはじまります。

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この記事を書いた人

大手電機メーカーでの設計開発や生産管理を経験した専門家です。過去に自社が優れた技術を持ちながら事業停止に至った原体験から、「経営者の孤独」に寄り添い、従業員との架け橋になることを決意しました。年間100社以上の現場訪問で培った高いヒアリング力を活かし、対話を通じて「真の課題」を引き出します。経営者と現場の間にある認識のズレを解消し、組織が一体となってビジョンを実現する「働きがいのある職場づくり」に伴走します。

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