IEの第一歩:お金をかけずに現場を「楽」にする「ECRSの原則」とボトルネックの見つけ方

前回は生産性向上に向けての正しいマインドセットについて解説をしました。(マインドセットについては、こちらの記事も参考にしてください。)

この正しいマインドセットが整ったら、いよいよ具体的に実践していきましょう。今回は、難しい数式や高額なシステムを一切使わず、明日から現場のメンバーと一緒に始められる「お金をかけずに知恵を出す」IE手法の第一歩をお伝えします。

目次

日本IE協会が示す、IE(インダストリアル・エンジニアリング)の真の定義

具体的な実践方法に入る前に、まずは「IEとは何か?」という定義を共有しておきましょう。IEと聞くと、人によっては「ストップウォッチを持って現場の作業時間を秒単位で計測し、作業者を監視する細かな手法」というイメージを持つかもしれません。しかし、それはIEのほんの一部、道具の側面に過ぎません。

日本IE協会では、IEの本質を次のように定義しています。(出典:日本IE協会公式ホームページ)

「IEは、価値とムダを顕在化させ、資源を最小化することでその価値を最大限に引き出そうとする見方・考え方であり、それを実現する技術です」

この定義の中で最も重要なのは、IEとは単なる手法ではなく、「見方・考え方」そのものであるという点です。

現場に潜む「価値」と「ムダ」を明確に分け(顕在化)、お金や人手などの資源を最小限に抑えながら、お客様に届ける価値を最大化する。それによって、働くメンバー全員が「楽に、安全に、誇りを持って働ける職場」を作る。これこそが、IEの真の目的なのです。

まずは「全体の流れ」を見る:どこが現場の足を引っ張っているか?

IEの「見方・考え方」を身につけるために、まずは工場全体の「流れ」を見ることから始めましょう。これをIEでは「工程分析」と呼びます。

製品工程分析 6つの状態のうち価値を生み出すのは?

私たちが普段、工場で何気なく行っていることは、IEの厳密な基準では以下の「6つの状態」に明確に分類されます。

  1. 加工: 原材料の形を変えたり、組み立てたりする作業(ネジを締める、金属を削るなど)
  2. 運搬: 物を次の工程や倉庫へ移動させる作業
  3. 貯蔵: 製品や材料が、倉庫などに計画的に保管されている状態
  4. 滞留: 工程の間で、次の作業を待って一時的にストップしている状態(仕掛在庫)
  5. 数量検査: 不良品が混ざっていないか、数が合っているかを数える作業
  6. 品質検査: 寸法や精度が合格基準を満たしているかをチェックする作業

ここで重要なのは、製品の価値が高まるのは、唯一『1. 加工』の瞬間だけであるという冷徹な事実です。ネジが締まる瞬間、刃物が金属を削る瞬間にだけ、お客様はお金を払ってくれます。

もちろん、品質を保つための検査や、出荷を待つための貯蔵はゼロにはできません。しかし、作業者がどれほど汗を流して重い部品を運んでいても(運搬)、次の工程の前に部品が何時間も出しっぱなしで放置されていても(滞留)、それは製品の価値を1円も上げていないのです。

「現場はみんな忙しそうに動いているのに、なぜか生産性が上がらない」という場合、この価値を生み出さない5つの状態、特に工程間での「滞留(手待ち・仕掛)」や長距離の「運搬」に多くの時間を奪われているケースがほとんどです。

ボトルネック工程を見つける

流れを見る上で絶対に外せないのが「ボトルネック」という概念です。

ボトルネックとは、一連の製造工程の中で「最も処理能力が低く、時間がかかる工程(一番遅い工程)」のことです。工場の全体の生産量は、どれだけ他の工程が優秀であっても、このボトルネック工程のスピードで完全に決まってしまいます。

ボトルネックを見つけるのは簡単です。現場をぐるりと見渡したとき、
・なぜかいつも手前に物が『滞留』して山積みになっている工程
・その次の工程の人が、物が入ってこなくて『滞留(手待ち)』を余儀なくされている場所
を探してください。

改善活動を始めるとき、全体をまんべんなく直そうとしてはいけません。まずはこの「ボトルネック工程」を特定し、そこにリソースを集中させることが、最少の努力で最大の効果を出すための鉄則です。

現場を楽にする最強の改善フレームワーク「ECRSの原則」

ボトルネック工程が見つかったら、次はその工程のムダをどうやって排除するかを考えます。ここで登場するのが、IEにおける最も強力で、かつ現場のメンバーも一緒に考えやすい改善のフレームワーク「ECRS(イクルス)の原則」です。

ECRSとは、改善を検討するときの「4つの視点」の頭文字を取ったもので、必ずこの順番(E → C → R → S)で検討しなければなりません。

ECRSの原則とは

ECRSそれぞれについて見ていきます。

【E】Eliminate(排除):そもそも、その作業をなくせないか?

最も効果が大きく、お金もかからない究極の改善です。「昔からの慣習だから」「なんとなく前やって良かったから」という理由だけで続けている作業はありませんか?

事例: 製品を次の工程に渡す前の「念のための二重チェック」をやめ、最初の加工段階で不良品が出ない仕組み(ポカヨケ)にする。不要な日報の記入項目を無くす。

【C】Combine(結合):一緒にできないか?

別々に行われていた工程を一つにまとめたり、同時に行ったりすることで、移動や持ち替えのムダを無くします。

事例: これまで「加工が終わった後に、別の場所へ運んでバリ取り(検査)」をしていたのを、加工機のすぐ横で、加工の待ち時間(手待ち時間)を利用してその場でバリ取りを同時に行う。

【R】Rearrange(入れ替え):順序やレイアウトを変えられないか?

作業の順番を入れ替えたり、機械や材料の配置を変えたりすることで、人の歩行距離や物の移動距離を短縮します。

事例: 作業者が工具を取りに行くために毎回3歩歩いていたレイアウトを見直し、作業者の手の届く範囲(手元)に工具棚を配置し直す。

【S】Simplify(簡素化):簡単にできないか?

ここで初めて「ツールや設備」の検討に入ります。作業を複雑にするのではなく、誰でも簡単にできるように簡素化します。

事例: ネジを何回転も回して固定していたジグ(治具)を、レバー一つでワンタッチ着脱できる方式に変更する。

ECRS順序の重要性

「カイゼン」と聞いて、多くの現場でやってしまいがちな失敗は、いきなり「S(簡素化・ツールの導入)」から始めてしまうことです。「生産性を上げよう!」となった瞬間に、「新しい自動化ロボットを入れよう」「高機能なデジタルツールを買おう」とシステム会社に相談してしまうのです。 しかし、そもそも無くせる作業(E)や、一緒にできる作業(C)に対して高いお金を払って自動化システムを導入しても、それは「ムダな作業を高速で自動処理しているだけ」であり、本当の生産性向上には繋がりません。

「まずは無くせないか(E)」「一緒にできないか(C)」「順番を変えられないか(R)」を徹底的に考え抜き、どうしても残るコアな作業に対してだけ「ラクにする方法(S)」を考える。この順番を守ることこそが、「お金をかけずに知恵を出す」中小製造業に最適なIEの本質なのです。

現場を巻き込む「IE流・動画観察」のススメ

「ボトルネックの探し方」と「ECRSの原則」という武器が手に入ったら、ぜひ現場のメンバーと一緒に実践してみましょう。ここで、現場の警戒心を完全に解き、むしろお宝探しのゲームのように巻き込むための具体的なテクニックをご紹介します。それが「スマホ動画の活用」です。

現代の観察ースマホ動画撮影

かつてIEの現場観察といえば、管理職がストップウォッチとバインダーを持って作業者の後ろに立ち、険しい顔で時間をメモするというスタイルが一般的でした。これでは現場が「監視されている」「サボりを見つけられて評価を下げられるのではないか」と萎縮し、反発が起きるのも当然です。

現代の改善は違います。以下のステップで試してみてください。

ステップ1:同意を得る

ボトルネック工程の作業者に、「あなたを監視するためではなく、この工程にどんな『やりにくさ(ムダ)』が隠れているかを一緒に見つけるために、作業を動画で撮らせてほしい」と趣旨を伝えます。

ステップ2:スマホで撮影する

三脚などでスマホを固定し、一連の作業(サイクル)を3〜5回分、手元や足元が映るように数分間撮影します。

ステップ3:「一緒に」動画を見る

撮影後、その作業者本人と一緒に動画を再生します。「監視」ではなく「頼る」スタンスで、同じ画面を見つめるのです。

現場担当者自身が気付きを得て改善する

撮影した動画を一緒に見ながら、リーダーはこう声をかけてみてください。

「あ、今、一瞬ピンセットを取るときに手が迷っているね。これ、置き場所が少し遠いんじゃない?」
「この部品を裏返すの、片手だとやりにくそうだね。何か受け皿みたいなジグがあったら楽になる?」

動画という客観的なデータ(事実)を一緒に見ると、作業者自身も「あ、本当だ。自分では気づかなかったけど、毎回ここで無駄な動きをしていて疲れるんだな」と納得してくれます。1回わずか2秒の「工具を探す迷い」や、5センチの「無駄な手の伸ばし」であっても、1日に何百回、何千回と繰り返されれば、それは累積で数十分のロスになり、作業者の肩こりや疲労の最大の原因になります。

「あなたを楽にするために、この2秒のムダをECRSで無くせないか、一緒に知恵を貸してほしい」。そうアプローチされた現場は、「それなら、ここの棚の向きをこう変えたらもっとスムーズだよ」と、一番現場を知っているプロフェッショナルとして、自ら素晴らしいアイデアを次々と出してくれるでしょう。

まとめ:豊かな時間の使い方を目指して

日本IE協会の定義は、次の言葉で締めくられています。

「仕事のやり方や時間の使い方を工夫して豊かで実りある社会を築くことを狙いとしており、製造業だけでなくサービス産業や農業、公共団体や家庭生活の中でも活用されています。」

私たちが目指す生産性向上は、ただ目の前の製品を1秒早く作るためのものではありません。仕事のやり方を工夫し、現場の負担を減らし、働く人たちの時間の使い方を豊かにしていく。その結果として、会社が存続し、地域や社会へ貢献していく。これこそが、中小製造業が目指すべき持続可能なカイゼンの姿です。

まずは明日、工場の中で一番仕掛品がたまっているボトルネック工程に足を運んでみてください。そして現場のメンバーに「最近、ここの作業で一番やりにくいところや、面倒な動きってどこ?」と優しく声をかけることから始めてみませんか? 現場と一緒に動画を観て、ECRSの視点でお宝(ムダ)探しを始めるその瞬間から、あなたの工場は生産性向上へ確実に動き始めます。

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この記事を書いた人

大手電機メーカーでの設計開発や生産管理を経験した専門家です。過去に自社が優れた技術を持ちながら事業停止に至った原体験から、「経営者の孤独」に寄り添い、従業員との架け橋になることを決意しました。年間100社以上の現場訪問で培った高いヒアリング力を活かし、対話を通じて「真の課題」を引き出します。経営者と現場の間にある認識のズレを解消し、組織が一体となってビジョンを実現する「働きがいのある職場づくり」に伴走します。

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