前回は、「企業経営を脅かす品質問題の原因」についてお話を進めてきました。どちらかと言いますと、企業が整えなければならない体制づくりのことでした。
今回は、それを風土にしていくには何が必要なのかを深堀してお話をさせていただきます。
カイゼン思考で人が育つ
中学入試の国語などの問題で「じんざい」を漢字で書きなさい。という問題が出た際には、入試では「人材」と書かなければ試験には落ちます。本当に正しいでしょうか?ということを考えてみたいと思います。「人は財産なり」、「人こそ宝の経営」としたとき、「じんざい」は「人財」とも表現できます。
「人材」という言葉は、「材」という字には、もともと原料や材料という意味でつかわれることがあります。また、「人財」に使われる「財」という字には、「宝」や「値うちのあるもの」という意味があり企業にとって大切なひとを指す言葉になります。
「人材」と「人財」の違いを考えることは、人材育成全般に関わることであって、日本の経営風土にも求められることでもあります。「人材」は、どこまでも材料とすれば、第5次産業革命(AI、IoTの時代)では人のやることはAIに変わられるということにもなります。
これは、本当でしょうか?産業革命は機械が人間の織物を手助けするところから始まり、とうとう人間の仕事のほとんどを肩代わりされるレベルにまで達しつつあります。そのため「人間の仕事がAIに奪われるのではないか?」という不安もささやかれていることも事実です。
「2045年問題」ではホーキング博士が、AIなどの技術が、自ら人間より賢い知能を生み出すことが可能になるシンギュラリティが2045年に起こると予測され人間の能力を超えるといわれています。
プログラムを組み24時間365日止まることなく、正確に確実にその通りできることができるようになるということです。
技術の発展により失われる仕事もありますが、一方で産業革命によって新しい仕事の需要やビジネスの機会を生むチャンスを与えてくれることもあります。
人は、防衛本能が働きますと「作り方をこのようにした方がいい」「プロジェクトでこのように進めよう」など、AIでは考えられないことができます。決められたことをきっちりそのまま進める。
トヨタカンバン方式など「カイゼン」という言葉は英語でも日本語でも使われており、ボトムアップで生産効率を高めることが人にはできます。これこそ財産としての「人財」という表現となり、仕事をするうえで役立つ能力を備えている人を指す言葉として生かされていくのだと思います。
ひとつの言葉で「答えは自分の中にある」教えられたことを正確にそのまま進めるのではなく自分で考えながら行動、経営、工程カイゼンを進めることが財産としての人財を育てていくことにつながってくるのです。
小集団活動は、実はイノベーションだった
小集団活動とは、職場で少人数のグループをつくり、自主的に実務に関連する目標や計画を立て、実行していく活動である。
少人数のグループが、全社的品質管理活動の一貫として自己啓発及び相互啓発を行い、QC手法を活用して職場の管理改善を継続的に全員参加で行っていく活動があります。また、各職場が主体的に実施する場合もあります。
目的は、明るく楽しく毎日やりがいのある職場を構築することです。仕事は、より早く、より安全に、より安価で、より楽に、より楽しく、より正しく、行うことです。また、その効果は、チームワークの向上、リーダーの育成、現場のモチベーション(やる気)の高揚などにつながり、もちろん品質の改善、コストダウン、納期短縮・安定化等の効果にもつながってきます。
私は、この小集団活動こそが「イノベーション」であると実は思っています。
小集団活動の流れを確認するとそのことが見えてきます。
例えば、小集団活動の流れとして、11のプロセスから構成されており、それは3つのグループに分けることができます。
オープニングとしての
①イントロダクション
②ワークショップガイダンス
③アイスブレーク
④テーマ設定
本論としての
⑤ブレインストーミング
⑥貼りだし法(親和図法)
⑦ドット投票
⑧ストーリー化
クロージングとしての
⑨全体の振り返り
⑩情報のシェア
⑪まとめ
です。
本論では、意見出しにより発散と収束を繰り返し見える化や評価・選択のプロセスを踏んで深堀していきます。特に、④テーマ設定では、共感マップとしてチーム全体のテーマを設定し、⑤ブレインストーミングでは、自由奔放・大量発想・積極的にメンバー全体のアイデアを出し合います。それをQC手法である⑥貼りだし法(親和図法)によりコミュニケーションをとって、チームで⑧ストーリー化(プロットタイプ化)を進めて行きます。
この流れは、デザイン思考5つのステップ「共感・定義・アイデア・プロットタイプ・テスト」に相当していることが解ります。
風土を醸成するには
風土を醸成させるにはかなりの時間を要します。風土のお話に触れますと、あわせて「組織慣性」という言葉にも出会います。
私の理解は、「人が構成する組織は、真剣に変えようとしないかぎり元の状態から変わらない。」ということです。他からの力が加わらないかぎり、現在の運動(活動)状態が変化しないことを慣性ということだったと思っています。
組織のなかで何かを進めようとします。例えば5S活動を進めようとすると次のステップで進めることになります。
第2ステップ 「決めて、守る」段階
第3ステップ 「徹底する」段階
第4ステップ 「習慣化する」段階
第5ステップ 「風土・文化になる」段階
「組織定着のコツ」は、2ステップの「決めて、守る」段階まで スムーズにいきます。活動の初期はスピード感が肝心です。スタートしてから3か月間で第3ステップ「徹底する」の段階まで一気に持っていくことはできます。
しかし、「徹底する」ことをしばらく”意識”してやり続けることが必要です。これが、徐々に”無意識”に頭と体が勝手に動くようになると、第4ステップの「習慣化する」に到達したといえます。
習慣化の段階まで持っていければ、個々の社員の無意識レべルまで浸透してきます。ここまでくると、もとの状態には戻りにくくなります。これが風土・文化としていくための入り口になります。「習慣化する」には「3,4年かかる」と言われいます。
このお話は、人を育み、利益をもたらす 会社を強くする習慣―――枚岡流「徹底3S」9つのルールより引用させていただきました。
つまり、組織の中で風土を醸成するには何もしなければ何も起こらない。また、何か起こそうとするとこだわりを持った活動で長い期間かかることがわかります。日本における品質風土を確立することは「こだわりを持って長い期間をかけること」が重要であることを改めて知る機会になります。
これからの体制について
日本は現在、2008年人口減少局面に入り、踊り場2011年より激減しています。2018年問題では、新卒・学卒が激減。人手不足が顕著になってきました。
今後は、どのような人材を「活用」していくのか?5つのグループ女性、外国人、障害者、高齢者、第二新卒活用が考えられます。
我々は、「人材」としての材料でいいのか?活用だけではなく活躍社会を創造していく必要があります。活用は材料。創造することで財産としての「人財」になっていくと考えます。
2040年にかけて生産労働人口が激減していきます。また、消費する人口も減少します。2040-2050年 1億2000万人から9000万人へ3000万人分は減少します。一方、高齢者は激増していくといわれています。高齢化進みますと、働くうえで品質を維持していくための体力も減少することが懸念されます。待ったなしの状況が続いてやってきます。
いまこそ、長い時間をかけて醸成してきた日本的品質管理をベースとした「品質を優先する風土」をよみがえらせていくことが求められていると考えています。次回からは、日本的品質管理について少し詳しく見て行こうと思っています。