日本的品質管理について、振り返ってきました。品質を理解するうえでは大切な考え方です。
今回からは、少し製造現場に目を向けて品質問題についてお話をしていきたいと思います。
付加価値とは
付加価値とは、ものづくりの世界でよく使われる言葉ですが、日常会話などではあまり使われることはないと思います。
しかし、付加価値の有り無しによってものを良くするカイゼンの取り組む方向は異なってくると思います。これは、付加価値がひとつのものさしの役割をしているからだということです。
付加価値とは、顧客目線での価値が生産プロセスで付加されるということをいいます。
一般的には、商品やサービスが本来持っている価値に、プラスアルファで付け加える価値のことです。つまり、お金を生み出しているところです。
例えば、他社と似たような製品を販売した時に、顧客に選ばれることがなければ顧客への価値(Value)提供はできません。このような場合は、単純に価格が安いお金を生み出しにくい製品が顧客に選ばれる価格競争となり、一定レベルでのたたき合いで価値が評価されないことに巻き込まれてしまいます。
そのようにならないために、競合他社と差を付けた「価格」以外で、選ばれる理由を製品に機能として付けることが、付加価値になります。
設備が物を加工しているときには、設備はその機能を発揮することに付加価値はあるでしょう。
しかし、人の作業では付加価値の無い作業も結構多くあります。
例えば、「材料を運ぶ」「製品を片付ける」これらの作業に付加価値はあるでしょうか。顧客目線で見れば、付加価値はありません。機械への製品装脱着は、機械加工を施すために必要な準備段階なので付加価値を多少は生み出しています。
製品を容器に入れる作業は、付加価値はありません。顧客からみれば、作業者の「選ぶ」「考える」「整理する」「記録する」といった作業も付加価値のない仕事となってしまいます。
そのように意識してみますと自分の工場の付加価値作業の比率はどの程度なのか、気になってきますでしょう。一般的には20~30%程度だと言われております。
この程度だと考えると、工場で付加価値を生み出しているところは半分以下がほとんどだということになります。付加価値の意識がなかった人は、意識的に付加価値の有り無しを考えいくことがカイゼンへの入り口になるということにつながってきます。
付加価値を視野に入れたカイゼンの取り組み
付加価値のある作業と付加価値のない仕事でカイゼンの取り組みはどう変わるでしょう。
付加価値のある仕事は、スピードアップや、まとめ生産を考えるなどが、一般的に思い当たるところです。機械でやる作業でも人手でやる作業でも発想は同じだと思います。
世間を見渡してみますと、付加価値は、コトやモノの「希少性」と「必要性」によって決まってくるように思います。
例えば、任天堂のゲーム機が出現し、年末・年始を中心に家庭内でゲームを楽しむ人が増えました。「ゲームばかりしないで勉強しなさい!」という母親に対して身体を動かすことで楽しめるゲームということでファンをつくり味方に付けたことが成功の理由と聞きました。
爆発的なヒットにより、ゲーム機の生産が追い付かず市場に出回らなくなったことで、ゲーム機の付加価値がどんどん高くなっていたということがありました。古くは、「たまごっち」でも同じようなことがありましたね。
ここでの「希少性」は、利用可能なケースが少なくなる状態であり、「必要性」とは、それがないと楽しくない状態のことだとすれば流れは理解いただけると思います。
まずは、「必要性」はなにかと考え続けるところから、人があまり思いつかないことにまで行きつけばカイゼンの取り組みも変わってくるのではないでしょうか。
陥りやすいことではありますが、付加価値のある仕事は、分業してまとめて作りたいと発想します。そのために機械は大型化・高性能化し、高い投資となっていきます。高い機械で造るといいものができると思ってしまいます。
また、人手作業の場合にはできるだけ作業を絞り、まとめて作りたいと考えるものです。ものづくりに携わる70~80%の人が付加価値のある作業の効率化に焦点を当ててはいるのです。
分業は付加価値を生むか
時代の背景もあってか、「付加価値は多様化」という言葉がなんとなく当てはまるような気がします。
そのためか、過度な分業思想がはびこり非効率な生産につながっていることはよくあるケースです。また、大型化によるまとめ生産、スピードアップといったカイゼンは技術力が必要で、誰でもできるという訳ではありません。
専門的な技術者と大きな資金が必要となり、時間もかかります。更に注目すべきポイントは、過度な分業のために付加価値のない作業が増えるという逆転現象も発生することがあります。
専門的な技術者は、この付加価値のない作業が増えることに気づかないことがあります。部分的に効率が上がっても工場全体、会社全体では非効率になっていることもあります。
『部分』ではなく『全体』として最適な状態を目指すためには、各プロセスの順序や相互関係、相互依存性を整理しておくことは重要です。
そのことをISOでは、『プロセスアプローチ』として説明しています。
一方、付加価値のない作業の改善はどのように取り組むかですが、カイゼンのECRSはご存知でしょうか。実は、このカイゼンのECRSは、付加価値のない作業に対して行う発想であることを知っていてほしいのです。
Eliminate排除、Compliment結合、Replacement置換、Simplification簡素化の頭文字でECRSといいます。これを順番・手順に従って行っていくとカイゼンの効果が期待できるというものです。まず、やめられないかと考えることからスタートします。
付加価値のある作業はやめることはなかなかできないものです。しかし、付加価値のない作業であれば一工夫でやめることができます。
例えば、容器に入れる作業、容器を使わなければ、やめることができます。ものを取りに行く作業、近くにあれば、やめることができます。整理する作業も、ものが少なければやめることができます。
このようにお金を使わずに一工夫することでカイゼンはおもしろいようにできるのです。
全員参加が付加価値を最大化させる
大切なことは、このカイゼンのECRSの発想が難しくなく誰でも使えるようにすることです。
カイゼンを実質的に進めていこうというときに誰でも参加できるということはとても重要な意味をもっています。
欠点のないカイゼンアイデアはなくて、全て長所・短所を持っています。それを見極めていくことは大事です。
手段とすると、「小集団活動の実践」です。
インタビューや観察を通じて、共通する問題点を抽出してメンバー間の共感を持つことです。そのためには問題の定義を明確にしておかなければならない場合も出てきます。次に、ブレーンストーミングを生かして解決のアイデアを多数出していき問題発見を進めます。
そこから、アイデアを絞り込んだ後で改良を見込んだ模型としてのプロットタイプを作成して解決の方向性を模索して行きます。
最終的には、このプロットタイプをテスト実行計画として問題解決につなげていきます。
カイゼンは一回で効果を発揮できることは少なく、1つのアイデイアを作業者全員が実行し、そこから更なる改善提案をして、アイデイアを磨き上げて、完成していくことが多いです。
そのため誰もが参加できて皆で工夫を加えていくことが重要になってきます。
付加価値のある作業の改善というよりも、付加価値のない作業に対して全員参加で取り組むことがもっとも大切で、その取り組みが軽視するべきではありません。
セル生産、トヨタの流れ生産は徹底的に付加価値のない仕事の軽減に焦点を当てています。生産性を上げるには、付加価値のある仕事の効率化も必要ですが、付加価値のない仕事を減らすことを先行して徹底してこそ、その効果も発揮できると思います。
優先すべきは、全員のアイデイアを結集させて付加価値のない作業の効率化を図ることだと考えています。