前回は、製造業にとって大切な標準遵守、つまり標準を徹底して守ることでどのようなことが起きるかというということを改めて確認しました。
今回は、品質不祥事に目を向けてISO9000の活かし方についてお話をしていきたいと思います。
ISO9000企業が審査を受けるときに考えること
私の記憶では日本企業にISO9000が普及・浸透してきたのは2000年を過ぎてからだと思っています。
ISO 審査員の方や関心の高い人によると、ISO9001 の初版は1987年に発行され、1994年に第1回目の改正、2000年に2回目の改正、2008年に3回目の改正が行われ、そして今回2015年9月23日には4回目の改正がされたとのこと。私は、2回目の改正から付き合っていることになります。皆さんは、いかがでしょうか?
私も自社工場のISO審査に同席したことがあります。審査員は、まず現場確認したのちに規格の要求事項を適合させて評価を行っています。もちろん不適合があればそのことに対して不適合を発行します。特に、そのときに社内で問題としていたことは「メジャー不適合」がなかったか?ということが一番の関心ごとでした。
「メジャー不適合」とは、ISOが要求する規格と現場の違いを照らし合わせて規格の考え方に合っていなければ指摘をするというシステムです。これは、審査員の考え方にもよりますが、システム通りでなければダメという解釈としてとらえることもできます。では、本当に規格通りにしていれば品質は良くなるのでしょうか?
品質の不祥事に目を向けてみますと、何故、企業の品質不祥事が頻発するのか、ISO9000関係者も関心が深い問題かと思います。
ISO9000企業の現場で起きていること
不祥事に対してISO9000をどう活用すれば、一連の不祥事に歯止めがかかるのでしょうか?
ISO9000の権威である飯塚先生は、超ISO企業研究会のメールマガジンで次のように語られていらっしゃいます。
「不祥事が蔓延する背景に,品質管理のドーナツ化現象があります。戦後、製造業を飛躍的に発展させたTQC(日本的品質管理)が、原価低減,在庫削減などの改善に使われるようになり、品質のための品質管理がおろそかになったことによりドーナツ化現象が起きている。」ということです。ドーナツ化とは「中心がない」という意味です。
このことにはおおいに納得できるところがあります。
以前もお話をしたかもしれませんが、私は以前電子部品のメーカーに勤めていました。
品質のクレーム担当をしていましたので、製品を供給して不具合が発生しますと営業と一緒に顧客へ技術的説明に参ります。説明に向かう先は、受入部門や品質部門に向かうことが多いのですが、必ずそこには不具合に対して対応する「鬼の担当者」がどこにもいらっしゃいました。
その人たちからの厳しい問題の追及に、我々品質担当者はある意味育てていただいたようなものですが、先ほどのドーナツ化現象によりそういった部門がなくなってしまったことにより、緩い関係が始まったように思います。
ちょうどそのころに品質保証のためのTQCが意識され出し,ISO 9000が普及し始めました。
ISO 9000は,仕様通りの製品を提供できる能力があることを「実証」することに力点を置いており、品質保証のしくみにフィットしていることが確認できます。手順の存在の証拠としての手順書,実施した証拠としての記録など文書類が重要視され、何かあった場合には,応急対策と再発防止策で対応しています。
先日もあるところで「品質不良の再発防止」について、セミナーを行いました。その時にも日本的品質管理とISO(品質マネジメントシステム)の違いについてお話をしました。出席者の方がほとんどISO(品質マネジメントシステム)を活かせていないという回答でした。とても残念な状態だと感じます。
ISO9000をどう活用すれば、、
では、何故、そのような仕組みが整備されているにも関わらず、活かせることができなくて不祥事が頻発するのか、
その原因は、「遵法精神が未だに希薄な点」にあるということが言われます。
ISO9000をうまく生かすためには、「ABCのすすめ」なんてことを飯塚先生は言われます。
ABCっていろいろあるのですが、ここでの意味は,「(A)当たり前のことを,(B)ばかにしないで,(C)ちゃんとやる」ということです.
「(A)当たり前」とは,望ましい結果が得られる優れた方法を知っているということです.
「(B)ばかにしない」とは,望ましい結果が得られる理由を知っているということです.
そして「(C)ちゃんと」とは,やるべきことは誰も見ていなくも愚直にやるという意味です.
基本はこの辺りにあるようです。
サッカー日本代表の元監督の岡田武史氏は,「勝負の神様は細部に宿る」とよく選手やスタッフの人達に伝えていたそうです.
負け試合を分析してみると,ちょっとした手抜きが発端になっているとのこと。
やるべきことは,些細に見えても,多少つらくても,きちんとやる,これが基本だというのです。「小さなこと、細かいことをおろそかにしてしまうことで、大きな目標を逃してしまうことがある。だからこそ細かいこと一つ一つにこだわって物事に取り組むことが大切である」。
この考え方の擦りこみが組織を変えるための基本的な考え方です。ISO9000の活用においてもしっかり理解しておかなければならないことです。
品質不祥事に対するISO9000の考察
「守破離」という言葉は、ものごとを学ぶ基本的な姿勢、または取り組む順序を意味します。
守(型の遵守)をおろそかにしてしまっては,破(工夫・改善),離(型破り)は不可能です.
型を身に着け,その本質的部分を維持しながら「型破り」の域に到達していくのが名人や名選手と言われるような人々ではないでしょうか。
水泳の世界でも、池江璃花子さんが「無事に五輪が開催できて、また戻ってくることができて本当にうれしいです」と涙ながらに語っていました。守るべき基本を守りつつ,努力によりある側面についての最適化を図った結果の姿なんだと思います.
ISO9000も本質的部分を維持しながら自社に合った「型破り」の域に到達していくことを考えるべきです。ISO9000にしても道具にすぎません。ISOの使い方を間違えれば、両刃の剣にもなります。目的に沿って使いこなせているかを、使う人が考えなければ、有効なものにならない。
勿論、そのように考えている人はISO関係者でもたくさんいるとは思いますが、あなたはどうお考えでしょうか?