前回は、「日本メーカー同士のあいまいな取引慣習」についてお話をしました。今回は、「企業経営を脅かす品質問題の原因」について進めていきたいと思います。まずは入り口として品質についてお話をいたします。
品質とは?
品質とは、「お客様と約束した内容を守る度合い」ということが言われています。これをもう少し深く掘り下げて腹落ちできるようなお話をしていきたいと思います。
「品質がいい」とか「品質が悪い」ということは、何かの度合いや程度によって計られることになります。例えば、あるプロジェクトを運用する際に、プロジェクトの出来栄えとして完了するまでの時間(日・時間)や処理できた件数(件)などの「ものさし(単位)」でもって表現することができます。そのことで、早くできたとか処理がたくさんできたなどの評価や判断をすることができます。この評価や判断がつければ、次に取るべき方法、ここをこのように進めようとか、ここはこのように改善しようということが明確になってきます。品質の場合も、具体的な「ものさし(単位)」を示すことで次の取るべき方法や改善が見えてくるのです。さきほどの品質とはの説明から「ものさし(単位)」は、「約束した内容を守る」こととなります。
ここで、約束について確認しておきます。約束とは「当事者の間で取り決めること。」ということが一般的に言われています。品質を考えた時の当事者の間とは、ものづくりを行う会社とサービスを提供する会社では取り決める内容は異なります。
例えば、家電製品をつくる会社を例にとりますと、お客様は、製品へどのよう機能を備えているかやどの程度の耐久性があるかを求められます。また、コンビニエンスストアのようにサービスを提供する会社では、いつでも、どこでも商品が手に入る利便性やスイーツなどのプレミア感のある商品を手に入れて味わえる満足感などが求められます。また、コンビニエンスストアでは、同じ商品を対象にしていても、その人の立場・役割によっても品質の意味・解釈が異なってきます。フランチャイズ形式をとっていますので、コンビニエンス本部(フランチャイザー)ではお客様が欲しい品を必要なものを必要なだけ取り揃えることを計画・実行して、その結果お客様に喜ばれることが必要となります。店舗(フランチャイジー)では如何に効率よくお店のオペレーションを進めてお客さんに気持ちよく買っていただくかなど、見る視点によってさまざまな品質に対する取り決めは多様に拡がってきます。
これらのことを売り手と買い手の視点に立ってみてみると、品質とは「当事者間で約束した内容を取り決めて、それを守る」ということになります。
問題の原因について
問題とは、現状とあるべき姿のギャップであると理解しています。現状は、どうやって的確に把握するかということであって、あるべき姿は、どうやって頭の中に描くかということが大切になります。キャップによって、ムダやロスを起こることがあります。
このように見てきますと問題を明確にしていくことは、まずは現状をしっかりと把握することです。現状を把握することは、製造業に長年勤めました私にとっては「データでもってものをいう。」「データなくして発言権なし」といいわれてきたように、データでもっと現状を把握することになります。データは、数値データや言語データからできています。数値データには、時間や長さのように連続値として量れるものとしての「計量値」と一日の売上や不良数など数えるものとしての「計数値」があります。また、その他にも言葉をデータ化した言語データがあります。言語データは、最近よく使われるようになってきています。例えば、ポストイットにサインペンでキーワードを書き出し、それを模造紙などに貼り付けていきます。そのあと似たような言葉をグルーピングして新たな発想を考え出していく手法、品質管理手法では親和図法やKJ法などとして使われています。このようにして現状はデータでもって的確に把握することができます。
次に、あるべき姿を描くことです。このあるべき姿は頭の中に描くことになります。これが相手には見えてこないことがあります。たとえば、お客様と約束した内容が「半径の誤差0.2mm」といった数値であれば、その通りの品質を実現する製品を作ることになります。しかし、その測り方や基準の見方などあるべき姿が同じ「品質」と言っても、「お客様(買い手)視点の品質」と「供給者(売り手)視点の品質」に差が出てくることがあります。
問題の原因については、データでもって現状を明確に把握できたとしても、あるべき姿を頭の中に描くことが当事者の間で異なるとそれが大きな問題として現れることになります。
なぜ企業経営を脅かすのか
近年、企業の品質不正問題が毎年のように起きています。このように見ていくと検査における不正が目に留まります。
2020年_デンソー製の燃料ポンプ部品の不具合
2019年_大和ハウス工業の2000棟を超える住宅で建築基準法違反
2018年_旭硝子の子会社で検査を一部実施せず出荷
2017年_日産自動車やSUBARU(スバル)による「無資格者の完成車検査」
2016年_三菱自動車 – カタログ燃費の詐称及び不正計測
2015年_東洋ゴム – 免震パネル、防振ゴムなどデータ偽装
2015年_タカタ (企業) – エアバッグ不具合
最近、ニュースでも報じられている三菱電機では、検査不正問題は、経営トップの引責辞任にもつながりました。調査結果や再発防止策の公表は9月になるので、その報告を待ちたいとは思います。
私は、これらの品質不正問題を耳にするにあたって、ものづくりおける「検査」に関する考え方が、2000年を境に変わってきたと考えています。品質不正が発覚した企業は、声をそろえて「検査偽装が原因と思われる品質問題はなかった」「安全であり、品質面も所定の性能を満たしている」というようにお応えされます。これは、私は事実に近いことだと肯定的に捉えています。
ものづくりにおける「検査」の捉え方が変わってきたのです。日本における品質は、工場などの現場での取り組みがはじまりと言えます。そのため、もともとは品質という言葉も、部品の品質、製品の品質といったハードウェアに由来します。しかも数値で管理できるような物理的な要素を意味するものが大半でした。そのなかで品質を計る手段として検査を取り入れたのです。当初検査は、製品の出来栄えを計る「ものさし(単位)」として機能していました。生産における前工程(フィードバック)と後工程(フィードフォワード)へ情報を提供する役割を果たしていました。最終検査でもって製品を保証することが大前提になっています。
また、ものづくりは「MADE IN JAPAN」に代表されるように工程で作り込まれていますので、実質検査とは「判定」というものではなく、情報提供の手段(オペレーションコスト)として考えられてきました。ところが、2000年度にISO9000が導入されることになり、検査は国際的な考え方となり、規格・コンプライアンス(法的要求事項)へと解釈が変わってきたものと思っています。そのため、コンプライアンス違反は企業経営を脅かすことにつながってきたのです。
原因を明らかにするには
品質という言葉が一般的となり、また社会(マーケット)でも幅広く必要とされてくるようになってきました。その解釈の幅、適用する範囲がかなり多様化してきています。そのため、品質という言葉に「従来の製造現場などにおける品質」と「マーケットなどにおける広い意味でのサービス品質」という、解釈や意味合いの幅が出てきています。先ほど確認しました通り、製造現場における品質の考え方も時代とともに変化していることを確認してきました。「品質の変遷」を学びなおすことは大変重要なことであることにも気づきました。
もともと品質という言葉は、「当事者間で約束した内容を取り決めて、それを守る」ために数値で管理することからスタートしてきました。そこに管理(Control)という考え方により、よい状態であるように保つことが進められてきました。その中には「ものさし(単位)」としての検査も手段として取り入れて行きました。これが品質管理(QC)ということになります。その中で、お客様からの要求も厳しくなってくるなか、品質の持つ意味合いも企画・設計段階の上流工程から販売・サービスなどのお客様に近い工程にまで拡大することで全社的品質管理(Total Quality Control)へと変わってきました。またその後、さらにお客様の要求が多様化することに対してより柔軟に対応するため、品質の範囲拡大やレベル向上を進め、管理・統制といった意味合いが強いControlという言葉を、より目標管理する意味も含めたManagementという言葉に置き換え、TQC(Total Quality Control)からTQM(Total Quality Management)へと更に言葉としては変化を遂げてきました。
このように「品質の変遷」を学びなおすことで、TQM(Total Quality Management)を実践し、あるべき姿を頭の中に描くことが当事者の間で明らかになってくれば品質問題の原因を更に明確にしていくことができると考えます。