繰り返す不良と「いたちごっこ改善」の堂々巡りを終わらせる中小製造現場が徹底すべき3つの思考法

繰り返す不良と「いたちごっこ改善」の堂々巡りを終わらせる中小製造現場が徹底すべき3つの思考法

「また、この不良か…」。

先月、チームで知恵を出し合って対策したはずの問題が、再び目の前に現れる。あの時の努力は、一体何だったのか。そんな、頑張りが報われないと感じる瞬間に、あなたの心は折れそうになっていませんか?

一生懸命に対策をしても、なぜか対策しても再発する。日々のトラブル対応に追われ、本当にやりたいはずの現場改善が進まない。あなたのリーダーとしての情熱と努力が、まるで空回りしているかのような、もどかしい感覚。

もし、あなたが今、そんな「品質改善の堂々巡り」の真っ只中にいるのなら、今回の内容は、まさにあなたのためのものです。

安心してください。その堂々巡りの原因は、あなたの能力や、チームの意識が低いからではありません。それは、ただ、闇雲にアクセルを踏み込んでいるだけで、進むべき正しい道筋を示す「正しい考え方=思考の地図」を持っていないからなのです。

そこで今回は、その「正しい考え方=思考の地図」となる、非常にシンプルでありながら、驚くほど強力な「3つの思考法」を、あなたにお渡しします。この3つの考え方を身につけることで、あなたは、なぜ不良が繰り返されていたのかという根本原因を理解し、チームの力を正しい方向に導き、そして、打った対策を確実に成果へと結びつけることができるようになります。

もう、報われない努力に、心をすり減らすのは終わりにしましょう。この3つの思考法を武器に、「ただ、しゃかりきに頑張るチーム」から、会社を勝利に導く「成果を出すチーム」へと進化する。そのための、確実な第一歩を、ここから一緒に踏み出していきましょう。

それでは今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いくださいませ。

目次

なぜあなたの現場改善は進まないのか?多くのリーダーが陥る「頑張りの空回り」3つの罠

では、具体的に、私たちの貴重な頑張りを「空回り」させている罠とは、一体何なのでしょうか。

これからお話しする3つの光景は、責任感が強く、真面目なリーダーであるあなたほど、無意識のうちにハマってしまいがちなものです。あなたご自身の毎日を、少しだけ振り返りながら、読んでみてください。

罠① 目の前の火消しに追われ、「その場しのぎの対策」で一日が終わる

「リーダー!A機械が止まりました!」。その声に、あなたはすぐさま現場に駆けつけ、応急処置を施し、ラインを復旧させる。安堵したのも束の間、今度は「B部品の在庫がありません!」と別の場所から声がかかる…。

一日が終わり、振り返れば、あなたはクタクタになるまで走り回っていました。確かに、あなたはたくさんの問題を処理し、その場その場を乗り切った「頑張った感」はあります。

しかし、これが一つ目の、最も厄介な罠です。その日、あなたの現場は、昨日より少しでも良くなったでしょうか?A機械が明日また止まらないという保証はありますか?B部品の欠品が再発しない仕組みは作れましたか?

答えは、おそらく「ノー」でしょう。あなたは、燃え盛る炎の勢いを、一時的に弱めただけなのです。火元そのものには、一切手をつけられていません。この「その場しのぎの対策」の繰り返しは、リーダーの貴重な時間を奪い、根本的な問題解決を、静かに、しかし確実に先送りさせていきます。

罠② すべての問題と戦おうとして、「根本原因」を見失う

あなたの頭の中には、常にたくさんの「解決すべき問題」がリストアップされているはずです。 「再発する不良、軽微な設備トラブル、乱雑な作業場、非効率なモノの流れ…」など。そして、真面目なあなただからこそ、「どれも大事な問題だ。すべて、同時に解決しなければ」と考えてしまいます。

しかし、その誠実さこそが、二つ目の罠なのです。

あなたのチームの時間、体力、そして集中力は、無限ではありません。限られた戦力です。10個の問題と同時に戦おうとすれば、一つの問題に注げる力は、当然10分の1になります。その結果、すべての対策が中途半端になり、結局、何一つとして「完治」には至らない。

まるで、無数のアリの行列を、一匹ずつ叩いているようなものです。叩いても叩いても、アリは次から次へと現れる。なぜなら、その行列の先にある「アリの巣(根本原因)」を、見つけ出せていないからです。すべての問題と平等に戦おうとすることで、私たちは、最も叩くべき、たった一つの「根本原因」を見失ってしまうのです。

罠③ 「勘と経験」に頼りすぎ、「事実」を正しく捉えられていない

長年、その現場で汗を流してきたあなたには、誰にも負けない「勘と経験」という、強力な武器があります。「この音は、あの部品が摩耗しているサインだな」「この不良のパターンは、きっと材料のロットが変わったからだ」。その直感は、多くの場合、正しいでしょう。

しかし、その最大の武器が、時としてあなたの視野を曇らせる、三つ目の罠になることがあります。

あまりに自分の経験に自信があるため、「原因はこれに違いない」と、思い込みで結論を急いでしまう。そして、その結論ありきで、物事を見てしまうのです。部下に「材料を調べてみろ」と指示を出す。しかし、もし本当の原因が、機械の微妙な温度変化にあったとしたら?あなたの指示は、チームを的外れな調査へと導き、貴重な時間を浪費させてしまいます。

あなたの貴重な経験は、問題解決への「近道」を示してくれることもあります。しかし、その道が本当に正しいかどうかは、「データ」や「測定値」といった、誰もが反論できない客観的な「事実」という名の地図で、確認しなければならないのです。その確認を怠った時、私たちは、知らず知らずのうちに、間違った道へと突き進んでしまうのです。

品質改善の堂々巡りから抜け出すための「思考のロードマップ」

これまでに見てきた3つの罠。

もしかしたら、「これは、まさに自分の職場のことだ…」と、少し耳が痛い思いをされたかもしれません。しかし、ご安心ください。ワナの正体が見えれば、そこから抜け出すための道筋もおのずと見えてきます。

ここからは、その堂々巡りのループから完全に抜け出し、あなたの頑張りを、確実に成果へと繋げるための「思考のロードマップ」をお渡しします。もう、闇雲に進むのはやめにしましょう。この地図を頼りに、一歩ずつ、着実に前進していくのです。

このロードマップは、大きく3つの思考法で構成されています。それは、旅の計画を立てるプロセスに、非常によく似ています。

まず、【思考法①:消費者指向】で、私たちは一体どこへ向かうべきなのか、旅の「目的地(正しい方向性)」を定めます。

次に、【思考法②:重点指向】で、目的地へ至るための、最も重要で、最もインパクトの大きい「攻略ルート(取り組むべき課題)」を見つけ出します。

そして最後に、【思考法③:三現主義】で、道に迷わないための、正確な「地図とコンパス(事実に基づく対策)」を手に、確実な一歩を踏み出すのです。

この3つの思考法は、それぞれが独立しているようで、実は深く、そして有機的に繋がっています。一つひとつ、順番に身につけていくことで、あなたの品質改善へのアプローチは、驚くほどクリアで、パワフルなものに変わっていくはずです。

では、まずはすべての土台となる、旅の「目的地」を定める思考法から、見ていきましょう。

【思考法① 目的編】なぜ、部下の品質意識は低いのか?チームのベクトルを合わせる「消費者指向」

思考のロードマップ、その最初のステップは、旅の「目的地」を定めることです。そもそも私たちは、誰のために、何のために、この品質改善活動を行うのでしょうか。その根本的な問いに、チーム全員が同じ答えを持つこと。それが、すべての始まりです。

あなたの部下が、どこか品質問題に対して他人事で、「どうせ検査課が見てくれる」と考えているとしたら、その原因は彼らの意識が低いからではありません。それは、自分の日々の仕事と、その先にいる「お客様」の顔が、全く繋がっていないからです。

この、断絶された意識を繋ぎ合わせ、チーム全員の力のベクトルを「お客様の満足」という、たった一つのゴールにピタリと合わせる。そのための思考法が「消費者指向」です。

「後工程はお客様」の本当の意味とは?品質を”自分ごと”に変える第一歩

私たちは、「後工程はお客様」という言葉を、単に「次の工程に迷惑をかけるな」という意味で使いがちです。しかし、本当の意味はもっと深く、そして温かいものです。自分の仕事を受け取ってくれる次の仲間、そして、最終的にお金を払って製品を使ってくれるお客様が、「本当に喜び、満足してくれるだろうか?」と、想像力を働かせること。

この想像力こそが、品質問題を、他人事から、自分自身の問題、つまり**”自分ごと”**へと変える、最も重要で、確実な第一歩なのです。

この、すべての品質改善の土台となる「消費者指向」の考え方と、それを現場に根付かせる具体的な方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

▼詳細はこちら

『【品質管理の考え方①】なぜ同じ不良が繰り返される?現場で働く全員が重視すべき「消費者指向」という基本』

【思考法② 課題特定編】何から手をつけるべきか?最小の努力で最大の結果を出す「重点指向」

旅の「目的地」(お客様の満足)が定まったら、次はその目的地へ向かうための、最も賢い「ルート」を選ぶ番です。

しかし、私たちの目の前には、無数の問題が広がっています。チョコ停、作業の遅れ、在庫の欠品…。すべてが重要に見えて、「一体、何から手をつけるべきか?」と、途方に暮れてしまいますよね。

真面目なリーダーほど、すべての問題と全力で戦おうとして、結果的にエネルギーを分散させ、どの問題も中途半端に終わらせてしまいます。この「頑張りの空回り」から抜け出すための思考法が、「重点指向」です。

不良の8割を生み出す「真犯人」をデータで見つけ出す方法

あなたの現場で起きている問題は、決して平等ではありません。実は、全不良の約8割は、たった2割の原因から生まれている、という法則があります(パレートの法則)。

「重点指向」とは、あなたの勘や経験だけに頼るのではなく、簡単な「データ」を手がかりに、そのたった2割の「真犯人」、つまり、最もインパクトの大きい根本原因を正確に見つけ出し、そこにチームの全戦力を集中させる、極めて賢い戦術です。

最小の努力で、最大の結果を出す。この、成果を出すリーダーに必須の仕事術と、その具体的な実践方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

▼詳細はこちら

『【品質管理の考え方②】なぜ、頑張っても現場が良くならない?多忙なリーダーのための「重点指向」という仕事術』

【思考法③ 実践編】なぜ、対策したのに再発するのか?事実に基づき根本を断つ「三現主義」

旅の「目的地」を定め(消費者指向)、最も重要な「攻略ルート」も特定した(重点指向)。さあ、これで改善は成功したも同然だ!...

しかし、ここで多くのリーダーが、最後の、そして最も根深いワナにはまります。それが、「対策したのに、なぜか問題が再発する」という、悪夢のループです。

なぜ、正しい課題に、正しいチームで取り組んだはずなのに、根本的な解決に至らないのでしょうか。その原因は、あなたの対策そのものが間違っていたからではありません。対策の大前提となる「事実」の捉え方が、あなたの思い込みや経験則と、ほんの少しだけズレていたからです。この、恐ろしいズレを生み出すのが「見たつもり」の罠です。

「見たつもり」の罠から抜け出し、再発防止を確実にする現場観察の技術

この「見たつもり」の罠から抜け出し、再発を確実に防ぐための最後の思考法が「三現主義」です。

これは、難しい理論ではありません。「現場」に足を運び、「現物」をその目で観察し、誰の目にも明らかな「現実(事実)」を掴むという、極めてシンプル、かつ科学的なアプローチです。

あなたの「勘」や「経験」という主観を一度横に置き、揺るぎない「事実」に基づいて根本原因を特定し、対策を打つ。この、当たり前だけれども多くの人が実践できていない現場観察の技術こそが、あなたの改善活動を「その場しのぎ」から「恒久対策」へと進化させる、最後の鍵なのです。

再発防止を確実にするための、具体的な「三現主義」の使い方、そして現場観察の鉄則については、以下の記事で詳しく解説しています。

▼詳細はこちら

『【品質管理の考え方③】事実に基づく管理=なぜ、対策したのに問題が再発する?「見たつもり」で終わらせない”現実”を直視する三現主義の正しい使い方』

明日からできる!品質改善の確実な“はじめの一歩”

ここまで、3つの強力な思考法を学んできました。もしかしたら、「頭では分かったけど、何から手をつければいいか…」と、少し圧倒されているかもしれません。

ご安心ください。偉大な旅も、靴紐を結ぶという、小さな最初の“はじめの一歩”から始まります。

ここでは、今日学んだ3つの思考法を、明日、あなたの現場で実践できる、驚くほど簡単な3つのステップに凝縮しました。まずは、このうちの一つからでも構いません。ぜひ、試してみてください。

ステップ1:まずは顧客の「声」を現場に貼り出してみる(消費者指向)

明日、あなたの会社の品質管理部門や営業担当者に連絡して、一枚だけ、お客様からの「手紙」や「メール」をもらってください。それは、厳しいクレームでも構いませんし、感謝の言葉なら、なお素晴らしい。

そして、それをただ、現場の掲示板の一番目立つ場所に、黙って貼り出してみるのです。

メンバーは、それを見て「なんだろう?」と足を止めるでしょう。そこに書かれた生々しいお客様の「怒り」や「喜び」に触れること。この小さな行動が、これまで無機質な「部品」を作っていた彼らの意識に、「この部品の先には、感情を持った人間がいる」という事実を、静かに、しかし深く刻み込みます。

これこそが、「消費者指向」の小さな種を蒔く、はじめの一歩です。

ステップ2:次に最も多い不良を「1つだけ」数えてみる(重点指向)

次に、あなたのポケットからメモ帳とペンを取り出してください。そして、今日一日、あなたの現場で最も多く発生していると感じる不良の種類を「たった一つだけ」に絞り、それが発生するたびに「正の字」で数を数えてみるのです。

キズ不良なら、キズ不良だけ。寸法不良なら、寸法不良だけです。

一日が終わる頃、あなたはその「正の字」の数に驚くかもしれません。これまで「たくさんあるな」と漠然と感じていた問題が、具体的な「数」としてあなたの目の前に現れます。この、たった一つの問題の「重み」を、勘や経験ではなく、事実として認識すること。

これこそが、「重点指向」の考え方を、あなたの頭にインストールする、はじめの一歩です。

ステップ3:そして不良品を「3分間」無心で見つめてみる(三現主義)

最後に、その日発生した不良品(現物)を一つ、あなたのデスクの上に置いてみてください。そして、スマホのタイマーを「3分」にセットします。

その3分間、あなたは他のことを一切考えず、ただ、その不良品を無心で、じっと見つめるのです。先入観も、対策案も、犯人探しも、すべて忘れてください。

すると、不思議なことに、これまで見えていなかった何かが見えてくるはずです。傷の向き、色の僅かな違い、手触りの違和感…。あなたの脳が「見たつもり」というフィルターを外し、そのモノが発している、ありのままの「事実」を捉え始める瞬間です。

これこそが、「三現主義」の神髄に触れる、はじめの一歩なのです。

まとめ:あなたは「ただ頑張るリーダー」から「成果を出すリーダー」へ

ここまで長い記事を、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

これまでのあなたは、誰よりも現場を愛し、誰よりも汗を流す、尊敬すべき「頑張るリーダー」だったはずです。しかし、その頑張りだけでは、なかなか抜け出せない「堂々巡りの罠」に、もどかしさを感じていたのではないでしょうか。

しかし、もう大丈夫です。今のあなたは、その罠から抜け出すための、強力な「思考の地図」を手にしています。

これからのあなたは、ただ闇雲に頑張るのではありません。「成果を出すリーダー」として、チームを賢く導くのです。

  • 「消費者指向」でチームの心を一つにし、進むべき「目的地」を指し示し、
  • 「重点指向」で無駄な戦いをやめ、最も効果の大きい「一点」に力を集中させ、
  • そして「三現主義」で事実を正確に捉え、「確実な一歩」で道を切り拓いていく。

その偉大な変化は、何も、難しいことから始める必要はありません。先ほどお伝えした、3つの「はじめの一歩」を、思い出してください。

お客様の声を一枚、壁に貼ってみる。

不良を一つ、数えてみる。

不良品を三分、見つめてみる。

その、今日からできる小さな行動こそが、あなたを、そしてあなたのチームを、新しいステージへと導く、最も確実な一歩なのです。

さあ、顔を上げてください。あなたのリーダーとしての、新しい物語が、今日、ここから始まります。


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この記事を書いた人

 大手総合電機メーカーで20年間経験を積んで平成22年に独立。10年間で600社を超える中小企業支援、そして自らも小売業を立ち上げて業績を安定させた実績を持つ超現場主義者。小さなチームで短期的な経営課題を解決しながら、中長期的な人材育成を進める「プロジェクト型課題解決(小集団活動)」の推進支援が支持を集めている。

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