皆さんの現場では、日々ヒトと設備を巧みに組み合わせて、お客さまに届ける「価値」を作り出していますよね。その中で、作業をスムーズに進めるために、頭の中でパズルを組み替えるように段取りを工夫している方も多いはずです。
「人によってやり方が違うのは当たり前」という声も聞きますが、実はその「違い」の中にこそ、現場を楽にする最高のヒントが隠れています。私たちが普段、無意識に、あるいは職人としての勘で行っている工夫を、チーム全員の「共通の武器」に変える。そんな魔法のような道具が、今回紹介する「タイムスタディ」です。
これは決して、誰かの作業を監視して急かすためのものではありません。むしろ、今の環境のまま、理不尽な忙しさを解消し、みんながスマートに仕事を回すための「裏技」です。それぞれ職人として自他ともに認めるAさん、Bさん、Cさん、それぞれの「いいとこ取り」をして、現場最強の手順を自分たちの手で作り上げていく。そんなワクワクする改善の進め方、知りたくありませんか?
今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いください。
タイムスタディとは?——スマホ動画から始まる「改善の見える化」
「タイムスタディ」なんて言うと、なんだかストップウォッチを持った人が後ろに立って、作業を監視するような嫌なイメージを持つかもしれません。でも、本来のタイムスタディはそんな窮屈なものではありません。
私たちが普段、無意識に、あるいは長年の勘で使い分けている「ちょっとしたコツ」や「無駄のない動き」。それを数字という共通の言葉に置き換えて、チーム全員が「あ、そのやり方いいね!」と納得できるようにするための、いわば「現場の知恵の棚卸し」なんです。
ワークユニット(要素作業)への分割
まず大切なのは、一連の流れをバラバラにしてみることです。私たちは毎日、流れるように作業をこなしていますが、その中身は小さなパーツの組み合わせでできています。この小さなパーツのことを「ワークユニット(要素作業)」と呼びます。
例えば、ある部品を組み立てる作業なら、こんな風に分けられます。
- 部品Aを棚から取る
- 固定治具にセットする
- ネジを3箇所締める
- 完成品を箱に入れる
「手を伸ばす」「つかむ」といった細かすぎる話ではなく、あくまで「ストップウォッチで無理なく測れる、意味のある一区切り」で分けるのがコツです。こうして作業を分解することで、「全体の時間は同じでも、ネジ締めはAさんが早いけど、部品を取るのはBさんの方がスムーズだな」といった、パズルのピースごとの違いが見えてきます。
スマホ動画を最初の一歩にする理由
「よし、測ってみよう」となった時、一番やってはいけないのが、誰かが横に立ってジロジロ見ながら時計を回すことです。これでは見られている方も緊張しますし、ついつい「見せるための動き」になってしまって、普段のリアルな工夫が見えなくなってしまいますよね。
そこで、自分たちのポケットにあるスマホを使いましょう。
- 緊張感がない: 三脚やマグネットホルダーでスマホを固定して「撮りっぱなし」にすれば、数分でカメラの存在なんて忘れて、いつものリズムで仕事ができます。
- 0.1秒まで正確: 目視で時計を見るのと違い、動画なら「手が触れた瞬間」を正確に捉えられます。
- 振り返りができる: 「今の動き、何が良かったんだろう?」と思ったら、何度でも再生してスローで確認できます。
特別な機材はいりません。私たちが普段使い慣れているツールを使うことが、一番確実でスマートな改善の第一歩になります。

動画から「オペレーションリスト」を立ち上げる
撮影した動画を観ながら、それぞれの要素作業に名前をつけて、かかった時間を書き出していく。この作業を「オペレーションリスト(作業手順一覧)」の作成と呼びます。
これは決して、会社に提出する報告書ではありません。「自分たちの動きを客観的に見るための作戦ボード」です。
動画をスロー再生すると、面白いことがわかります。「ここで一瞬、手が迷っているな」「ここに部品があると、5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣(しつけ))が効いていて取りやすいんだな」といった、普段は気づかない「お宝(改善のヒント)」がザクザク出てきます。
このリストをチームのみんなで囲んで、「ここのAさんの動き、めちゃくちゃ楽そうだね」と話し合う。その瞬間、タイムスタディはただの測定ではなく、現場の知恵を結集させる最高のツールに変わります。
では次は、具体的にどうやって3人の動きを組み合わせていくのか、「3人の『いいとこ取り』で最強の手順をつくるプロセス」について解説していきます。
3人の「いいとこ取り」で最強の手順をつくるプロセス
現場には、それぞれが得意とする「勝ちパターン」があるはずです。ある人は準備が異常に早かったり、ある人は仕上げの丁寧さとスピードを両立させていたり。こうした個人の知恵をバラバラにしておくだけではもったいないですよね。
ここからは、スマホで撮った動画をどう活用して、現場のみんなが納得する「最強の手順」へと進化させていくのか、その具体的なステップを見ていきましょう。
Aさん・Bさん・Cさんの作業を「要素作業」で比較する
まずは、同じ作業を担当している仲間の動きをいくつか撮影してみます。一回きりだと「たまたま調子が良かった」ということもあるので、数サイクル分を撮影して平均的な時間(代表値)を出してみるのがフェアなやり方です。
動画を並べて見比べてみると、面白いようにそれぞれの個性が浮き彫りになってきます。
- Aさん: 部品の取り出しがとにかくスムーズ。置く場所がしっかり決まっていて、迷いがない。
- Bさん: 治具への固定が確実で、やり直しが一切ない。
- Cさん: 最後の梱包動作にムダがなく、次のサイクルへの移行が早い。
こうして「誰がどこの部分で、どんな工夫をしているか」を要素作業単位で見える化すると、ただ「あの人は早い」で終わっていた話が、「あの人のこの動きを真似すれば、俺たちも楽になれる」という具体的なヒントに変わります。
最適なパズルを組み立てる
それぞれの強みが見えてきたら、次はそれらを一つの流れに合体させる作業です。各要素作業の中で、最も合理的で、かつ「体への負担が少ない(=楽にできる)」動きをピックアップしていきます。
バラバラだった知恵を組み合わせて、理想的なパズルを完成させるイメージです。
- 部品取りはAさんの「置き場」を真似する。
- 固定はBさんの「手の添え方」を採用する。
- 梱包はCさんの「箱の配置」を取り入れる。
こうして出来上がったのが、私たちの新しい武器である「新・オペレーションリスト」です。これは、誰か一人のやり方を押し付けるものではありません。チーム全員の「いいとこ取り」をした、言わば現場のベスト盤です。
この設計図をみんなで共有することで、「この手順通りにやれば、無理なく目標の時間(タクトタイム)で回せる」という安心感が生まれます。自分たちの知恵が詰まった手順だからこそ、誰かに言われるまでもなく「これが一番スマートだよね」と納得して進めることができるのです。
具体的事例:3つの現場で見える「最適化」のヒント
理屈だけ聞いても「自分の現場じゃどうかな?」と思うかもしれません。そこで、よくある3つの現場を例に、具体的にどんな「いいとこ取り」ができるのかを見ていきましょう。
どの現場にも共通するのは、誰かを否定するのではなく、「一番楽で、一番早い動き」をチームの標準にしようという前向きな姿勢です。
手作業の組み立て工程
手作業の多い現場では、指先の感覚や手首の返しといった「職人の繊細な動き」がスピードを左右します。ここを動画で分析すると、驚くほど多くの発見があります。
部品のセットと位置決めの比較
例えば、Aさんは部品を掴むときの手の形が絶妙で、Bさんは治具に置くときのスナップが効いているとします。二人の動画を並べると、「Aさんの持ち方で掴んで、Bさんの置き方でセットすれば、手首をひねる回数が一回減るぞ」といった発見が生まれます。最も手に負担がなく、次の動作へ自然に繋がる「黄金のリズム」を全員で共有しましょう。
治具固定と溶接準備の同期
溶接やプレスなど、機械を動かす前の「準備」も改善の宝庫です。スイッチを押すまでの「待ち時間」を秒単位で削るために、手元動作を細分化します。治具を締めるのと同時に反対の手で次の準備をするなど、トッププレーヤーが「無意識にやっている同時並行作業」をみんなで真似できるように言語化します。
設備が絡むプラスチック射出成型
機械が主役の現場では、「機械をいかに止めないか」が勝負の分かれ目です。ここでは、機械が動いている「間」の使い方がポイントになります。
機械稼働中の付随作業(外段取り)の整理
機械が自動で動いている数分間、誰が最も効率的に動いているかを比較します。バリ取り、次工程の準備、金型の清掃……。これらを「機械が止まってからやる」のではなく、「動いている間に済ませる(外段取り)」化する工夫を、一番手際の良いメンバーから学びます。
サイクルタイムの安定化
取り出しから次サイクルのスタートボタンを押すまでの数秒。ここがバラつくと、一日の生産量は大きく変わります。スマホ動画で「取り出しの角度」や「製品を置く場所」を検証し、一番スムーズにボタンを押せる手順を統一することで、ライン全体がメトロノームのように正確に、かつ無理なく動き始めます。
ピッキング・仕分け作業
ピッキングや物流の現場では、「動いている時間」と同じくらい「探している時間」や「迷っている時間」が隠れています。
材料確保までの歩行ルート分析
広い倉庫内をどう歩くか。材料置き場へ行く際の「歩数」を測ってみると、意外な差が出ます。最短ルートで移動しているCさんの足取りを分析すると、棚の角の曲がり方や、次に取るものを予測した体の向きに秘密があるかもしれません。「歩くのは仕事だが、歩きすぎるのは負担」という考え方で、チーム全体の歩数を減らす工夫をします。
探索のムダを省く配置改善
動画をじっくり観ると、手が止まって「目が泳いでいる瞬間」が見つかります。これは部品を探しているサイン。迷いが生じないように、5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣(しつけ))を徹底し、表示の向きや配置を「一番迷わない人の感覚」に合わせます。脳の疲れ(探し疲れ)を減らすことが、結果として全体のスピードアップに繋がります。
なぜこのプロセスが「バラツキの縮小」に直結するのか
「人によってやり方が違う」という状態は、実は現場にとってかなりのストレスになります。ある人は早く終わるのに、別の人は時間がかかってラインが止まる……。そんな「バラツキ」を、A・B・Cさんの「いいとこ取り」で解消していくと、現場には驚くほど平穏な時間が流れるようになります。
なぜこのパズルを組み合わせるプロセスが、バラツキを抑える決定打になるのか。その理由を紐解いてみましょう。
手順が統一されることによる品質の安定
「同じ順番で、同じ道具を使い、同じ動きで作る」。これが徹底されると、品質のバラツキは自然と消えていきます。
私たちが一番困るのは、後工程から「これ、ちょっと違うよ」と戻ってきたり、手直しが発生したりすることですよね。多くの場合、原因は「ちょっとした手順の違い」にあります。
- 「Aさんはここで一度、部品を仮置きしている」
- 「Bさんは最後にここをグッと押し込んでいる」
こうした細かな「差」をなくし、チームで選んだ「最も確実な手順」に統一することで、誰が作っても100点満点の製品が出来上がるようになります。手直しが減るということは、それだけ私たちの手が空き、スムーズに次の仕事へ向かえるということです。
現場全体の「実力値」の底上げ
「あのベテランさんがいないと、このラインは回らない」という状況は、一見かっこいいですが、実は現場のみんなにとっては大きなリスクです。その人が休んだ途端に大忙しになったり、無理な残業が発生したりするのは、スマートな働き方とは言えませんよね。
この改善プロセスの素晴らしいところは、特定の誰かに頼るのではなく、「チーム全員の平均点」をグイッと引き上げる点にあります。
動画をベースに「いいとこ取り」をした手順は、いわば「全員がベテランの技を使えるようになるマニュアル」です。若い子も、応援に来た仲間も、すぐに「最強の手順」で動けるようになる。そうして現場全体の「実力値」が底上げされることで、誰かが抜けても慌てない、タフで安定したチームが出来上がります。
納期予測(タクトタイム)の精度向上
作業時間のバラツキがなくなると、一つの製品を作るのにかかる時間(タクトタイム)がカチッと固まります。これが決まると、生産計画の精度が劇的に上がります。
計画が正確になると、何がいいのか。それは「理不尽な急ぎ仕事」や「無理な詰め込み」がなくなることです。
「この人数なら、この時間までにこれだけ終わる」という予測が正確に立てられるので、現場の人間が無理なペースアップを強いられる場面が減ります。数字に裏打ちされた「無理のない工程管理」こそが、私たち現場の人間が一番求めている「心の余裕」を生み出してくれるのです。
「一緒に考える」ことが最強のチーム作りになる理由
ここまで、スマホ動画を使った分析や手順の統一についてお話ししてきましたが、実はこの活動の本当の価値は、単なる「時短」だけではありません。一番の収穫は、現場のみんなの「目」が肥え、チームとしての絆がぐっと深まることにあります。
「教える・教えられる」という堅苦しい関係ではなく、プロ同士が知恵を出し合って「もっといいやり方」を見つける。そんな、現代的でスマートなレベルアップの形をご紹介します。
答えを押し付けるマニュアルからの脱却
上から「この手順通りにやれ」と書かれただけの紙のマニュアルを渡されても、正直あまりワクワクしませんよね。どこか押し付けがましく感じて、結局自分のやり方に固執してしまう……。そんな経験、誰にでもあるはずです。
でも、動画をみんなで観るやり方は違います。「こうしろ」と言われる前に、自分たちの目で「あ、Aさんのこの部品の持ち方、めちゃくちゃ楽そうだね」「Bさんのこの5S=整理・整頓・清掃・清潔・習慣(しつけ)の徹底ぶり、真似したら絶対スムーズだわ」と、自分たちで「楽をするための正解」を発見できるんです。この「自分で気づいた」という納得感こそが、何よりも強力な原動力になります。
現場の「観察力」と「当事者意識」の醸成
動画を「要素作業」という単位で細かく観る習慣がつくと、不思議なことに、普段の何気ない作業の見え方も変わってきます。
今までは一続きの「仕事」として捉えていたものが、「あ、今の『歩く』動きはもっと短縮できるな」「今の『探す』動作、さっき動画で観たムダな動きと同じだ」と、日常的に気づけるようになるんです。
これは、会社に言われたからやるのではなく、「自分たちの職場をもっと快適にしたい」という当事者意識が芽生えている証拠。全員がこの「改善の目」を持つことで、現場からは次々と新しいアイデアが生まれるようになります。
教育の定着:自分たちが作った「最強の手順」
どんなに優れた手順も、守られなければ意味がありません。でも、チーム全員で動画を囲み、「これが一番いいよね」と合意して決めた手順は、もはや他人から押し付けられた「ルール」ではありません。自分たちの知恵と工夫を詰め込んだ、いわば「自分たちの作品」です。
自分たちで作った手順だからこそ、誰に言われずとも自然と守られるようになります。新しく入ってきた仲間に対しても、「これは俺たちが動画を観て編み出した、一番楽で確実なやり方なんだよ」と、自信を持って伝えていける。そんな風に、自分たちの足で立って進化し続けるチームは、どんな現場よりも強く、そしてかっこいいはずです。
まとめ:タイムスタディはチームを一つにする活動
タイムスタディという言葉を聞くと、どうしても「評価」や「監視」といった硬いイメージを持ってしまいがちですが、本来の目的はそんな冷たいものではありません。
この活動は、決して個人の能力をランク付けして、誰かが誰かより劣っていると決めつけるための道具ではないからです。
- みんなの知恵を合わせる: Aさん、Bさん、Cさん、それぞれが現場で培ってきた「自分なりのコツ」を尊重し、それを一つの形にまとめること。
- 共通のゴールを目指す: 「タクトタイムの短縮」や「作業のバラツキをなくす」ことは、私たち現場の人間が理不尽な忙しさから解放され、スマートに仕事を回すための共通目標です。
バラバラだったパズルのピースを組み合わせて、現場のみんなが納得できる「最強の手順」を作り上げる。そのプロセス自体が、実はチームの絆を深める最高の場になります。
誰か一人の頑張りに頼るのではなく、みんなの「いいとこ取り」をして、今よりもっと楽に、もっと誇りを持って動ける現場を自分たちの手で作っていきましょう。


