皆さまの現場では、日々ヒトと設備を巧みに組み合わせて、目に見える「製品」を作り出していると思います。
その中で、「どうすればもっとスムーズに流れるか」「この手順をこう変えたら楽になるんじゃないか」と、ついついパズルを組み替えるように頭の中で段取りを考えてちゃいますよね。それははやり、現場を良くしたいと考えているからこそ持っている、最高に価値のある発想だと思います。
でも実際にひとりだけでは、どう進めていけばよいのかもわからないし、良い発想だと思っていても、そもそも自分の仕事なのかどうかもわからないため、いつか思いついた結構よいアイデアも、すっかり忘れてしまっている、ってのが現場で働く我々のあるあるです、苦笑。
でもね。実はあるんですよ。簡単にみんなのその発想をあつめて、この現場ですっごく効率的な作業手順に組み直す方法が。
そこで今回はこの改善の4原則=ECRSという考え方を使って、現場のみんなそれぞれのアイデアを集結する方法について紹介したいと思います。
今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いくださいませ。
そもそも改善の4原則「ECRS」とは何か?
「改善」という言葉を聞くと、新しい機械を入れたり、誰かが作った難しいルールを覚えたりすることを想像しがちですよね。でも、本来の現場改善っていうのは、もっと身近で、もっとスマートなものです。
その中心にあるのが、この「ECRS(イーシーアールエス)」という考え方。これは、私たちが普段「あ、ここ無駄だな」「こうすればもっと楽なのに」と直感的に感じていることを、整理して形にするための「4つのフレーム」です。この視点を持つだけで、バラバラだったみんなのアイデアが、驚くほどスッと一つの形にまとまっていきます。
ECRSの各要素の意味
具体的にどんな視点なのか、現場での「あるある」を交えながら見ていきましょう。実は、このアルファベットの順番通りに考えるのが、一番効率よく改善を進めるコツなんです。
Eliminate(排除):その作業、本当に必要?
まずは「やめてみる」ことから考えます。昔からの慣習でなんとなく続けているけれど、実は誰もその結果を見ていない報告書や、二度手間になっている確認作業はないでしょうか。「一番いい作業は、やらなくて済む作業」という考え方で、思い切って削れる部分を探します。
Combine(統合と分離):一緒にできないか?
次に考えるのは「まとめる」こと。別々の場所でやっていた作業を一つのテーブルで同時に行ったり、二人がかりでやっていたことを一人でスムーズに回せるように組み合わせたりします。逆に、複雑すぎる作業を切り分けて、誰でも手伝えるように「分離」するのも一つの手ですね。
Rearrange(交換):順番を入れ替えたらどうなる?
「やり方や順序」を変えてみる視点です。材料を置く位置を変えたり、工程の順番を前後させたりするだけで、歩く距離が短くなったり、機械の待ち時間がなくなったりします。ほんの少しタイミングをずらすだけで、パズルがパチッとはまるように流れが良くなる瞬間があります。
Simplify(簡素化):もっと簡単に、楽にできない?
最後が「楽にする」ことです。ここでようやく、専用の治具を作ったり、自動化を考えたりします。
例えば、5S=整理・整頓・清掃・清潔・習慣(しつけ)を徹底して、工具を探す時間をゼロにするのも立派な簡素化です。重いものを持たなくて済むように高さを合わせる、ネジを回す回数を減らすなど、体への負担を減らして「鼻歌まじりでできるくらい簡単」にすることを追求します。
「ECRS」で得られる5つのメリット
ECRSという4つの視点を使って現場の知恵を形にしていくと、単に「作業時間が短くなる」という以上の、もっと本質的な変化がチームに起こります。
それは、誰かが決めたルールに従うだけの状態から抜け出し、自分たちの力で一番働きやすい環境をコントロールできるようになる、ということです。ここでは、私たち現場の人間にとって、この考え方を取り入れることで具体的にどんな嬉しいメリットがあるのかを5つのポイントに分けてお伝えします。
メリット1:改善案の徹底度が100%になる
会議室で作られた手順書を「今日からこれでよろしく」と渡されても、正直なところ「現場の苦労も知らないで」と反発したくなることもありますよね。
しかし、現場のみんなでECRSを使って「この確認作業、思い切ってなくせないか(Eliminate)?」と議論し、納得して決めたルールなら話は別です。自分たちが関わって生み出したアイデアだからこそ、なぜその手順が必要なのか、その「理由」を全員が肌で理解しています。結果として、誰かに監視されずとも自然と新しいやり方が定着し、実施の精度が飛躍的に上がるのです。
メリット2:全員が「改善の訓練」を受けられる
ECRSの4つの窓を通して日常の作業を眺めることは、特別な座学を受けるよりもはるかに実戦的なトレーニングになります。
一部の人だけでなく、現場の全員が「この作業とあの作業、一緒にできないかな(Combine)?」と考える習慣を持つことで、日々の業務の中に潜む「ちょっとしたやりにくさ」や「小さなムダ」を見つけ出す感性が鋭く磨かれていきます。みんながプロとしての「改善の目」を持つようになるわけです。
メリット3:チームの改善頻度が加速する
一人ひとりの「気づく力」が高まってくると、「次はここも変えてみよう」「あの工程の順番(Rearrange)を入れ替えたら、もっと待ち時間が減るんじゃないか」と、現場発信のアイデアが次々と湧き出てくるようになります。
これまでは「誰かがなんとかしてくれる」と我慢していたことも、チーム全員でポンポンと意見を出し合って解決できる環境が整います。その結果、職場がより安全に、より使いやすくなるスピードが一気に加速していくはずです。
メリット4:組織としての「現場改善力」が定着する
チーム全体で「どうすればもっとスムーズに、もっと楽に回せるか(Simplify)」を考える力がつくと、どんな状況にも負けないタフな現場へと進化します。
例えば、急な特急品が入ったり、作るモノの仕様が大きく変わったりした時でも、「じゃあ、今の仕組みをこう組み替えて乗り切ろう」と、自分たちの知恵で柔軟に立ち向かうことができます。変化に振り回されない、確固たる「現場の底力」が組織に根付きます。
メリット5:継続的に収益力が向上し続ける
こうした日々の小さな改善の積み重ねは、確実なコスト削減と効率化を生み出します。
これは会社の収益力を高めるということでもありますが、私たち現場の視点で見れば「理不尽な残業や無理な働き方をせずに、しっかりと高い成果を出せる強いチームになる」という強力な実利があります。自分たちの手で職場を快適にしながら、結果として数字もついてくる。まさに、現場にとっても会社にとっても「やらない手はない」最高のアプローチだと言えるのではないでしょうか。
劇的改善を実現する「ECRS」4つのステップ
さて、ここからは私たちが実際に現場のパズルを解くための、具体的な4つの手順を見ていきましょう。
ポイントは「E→C→R→S」の順番で考えることです。いきなり「楽にしよう(S)」と道具を作り始めると、そもそも不要な作業のために立派な道具を作ってしまう、なんていう笑えないミスが起こります。まずは「やめられないか?」から考えるのが、一番楽をして最大の効果を生む、プロの鉄則です。
STEP1:排除(Eliminate)——無駄な作業をなくす
①業務そのものを問い直す
現状の業務に対して「これ、本当にやらなきゃダメ?」「省けることはないか?」と根っこから問い直す視点です。
一番効果が高くて、みんなが喜ぶのは、作業そのものを「なくす」ことですよね。作業がゼロになれば、当然そこにかかる時間も、ミスをする確率もゼロになり、圧倒的なメリットが生まれます。
②具体的な見直し例
例えば、形骸化している長すぎる朝礼や会議の時間を短縮したり、誰も読んでいない不要な報告書の作成をやめたりすることです。現場の動きで言えば、あっちこっちへモノを移動させるだけの「余計な運搬作業」や「とりあえずの仮置き」を徹底的に排除できないか、みんなで話し合ってみましょう。
STEP2:統合(Combine)——似たような業務をまとめる
①業務を繋げて効率を上げる
「これとこれ、一緒にできないかな?」と、バラバラに行っていた業務を一つにまとめるステップです。
作業の切り替え(段取り替え)や、別の場所へ移動する回数が減るため、大きな時間短縮効果を狙えます。「ついでにやる」という感覚を仕組み化して、スムーズな流れを作るわけです。
②具体的な見直し例
部署ごとに分かれていた複数の打ち合わせを一本化したり、メールのグループ送信を活用して連絡の手間を省いたり、バラバラに入力していたデータを一気にまとめて処理したりする工夫です。現場でも「Aの部品を取るついでに、Bの部品も一緒に取れる配置にする」といった動きの統合ができれば、歩くムダがグッと減りますよね。
STEP3:交換(Rearrange)——プロセスを入れ替える
①処理順序を変更してロスを減らす
「この順番、逆にしたらどうなる?」と、他のやり方やタイミングを変えられないか模索する視点です。
作業の順番を変えるだけで、誰かの「待ち時間」が消えたり、機械の停止時間が短くなったりして、劇的に効率が改善することがよくあります。パズルのピースを入れ替えて、一番ピタッとはまる手順を見つけるイメージです。
②具体的な見直し例
例えば、いつも作業が終わってから行っていた資料作成や段取りを、作業の前に前倒しで済ませておく。あるいは、次の工程に進むための「確認のサイン待ち」で現場の動きが止まらないよう、確認のタイミングを前倒しにするなど、みんなが立ち止まらずに流れるための工程の最適化を図ります。
STEP4:簡素化(Simplify)——業務をシンプルにする
①負担を軽く、簡単にする
ここまで来てようやく「もっと楽に、簡単にできないか?」を追求します。
移動距離を短くする、扱う重量を軽くするなど、私たち自身の身体的・精神的な負担を減らす視点です。仕事がシンプルになればなるほど、疲労も減り、誰がやっても同じようにうまくいくというメリットがあります。
②具体的な見直し例
作業動作の無駄を省くための配置の見直しや、5S活動による環境整備(探す時間のゼロ化)、細かすぎる検査項目の絞り込みなどがこれに当たります。また、現代的なハックとして「日報の作成やデータ集計をスマホからAI(Geminiなど)に丸投げする」といった方法も立派な簡素化です。現場のみんなが「これなら疲れないし、仕事がスムーズだね」と思える状態を作り出しましょう。
驚きの38%削減!身近な事例で学ぶECRSの効果
工場での改善となると少し身構えてしまうかもしれませんが、ECRSは日常のちょっとした作業にも抜群の効果を発揮します。今回は、新入社員のみんなにも改善の感覚を掴んでもらうためにやってもらっている「朝ごはんのおかず作り」を例に、一緒に頭の体操をしてみましょう。
改善前:21分かかっていた「朝ごはんのおかず作り」
まずは、この「朝ごはんのおかず作り」の作業手順書を見てください。我が家で毎朝作っている定番の「目玉焼き」と「ソーセージ」の工程です。
従来の工程(全19ステップ)

※作業時間はそれぞれ1分とし、待ち時間の長い工程を含めてトータルで21分かかっているとします。
朝の忙しい時間って、現場の特急対応みたいに1分1秒が貴重ですよね。現場で働く皆さんなら、この手順書を見た瞬間に「あそこ、もっと短縮できるぞ」とムズムズしてきませんか?
潜んでいたムダ
この19のステップをじっくり眺めると、現場の皆さんならすぐに気づくはずです。「フライパンを1度洗う(STEP11)」「もう一度熱する(STEP13)」といった、洗浄や加熱の繰り返しのステップが貴重な時間を奪っているということに。
ECRS適用のポイント
では、この作業手順を「E・C・R・S」の4つの窓から覗き込んで、どうやってパズルを組み替えていくか見てみましょう。
排除(E):やめられないか?
まずは「排除」です。一番目につく「フライパンを1度洗う工程(STEP11)」や、「わざわざボウルを用意して割る工程(STEP01・02)」を思い切ってなくせないか考えます。「目玉焼きは一品ずつ作って洗うもの」「卵は一度ボウルに割るもの」というのは単なる思い込みで、フライパンに直接割り入れれば、洗い物も手間も一気に省けますよね。
統合(C):一緒にできないか?
次に「統合」です。別々に焼くからフライパンを洗ったり再加熱したりする時間がかかるわけです。だったら、たまごとソーセージを同じフライパンに投入し、同時に調理する手順に変更してしまいます。現場で言えば、二つの工程を一つの機械で同時に処理してしまうような、非常にスマートな解決策です。
交換(R):順番を入れ替えられないか?
品質や効率を良くするという考え方から、手順を見直します。例えば、「フライパンがしっかり熱くなってから油を入れる(STEP03と04の入れ替え)」という順序に交換することで、卵がくっつきにくくなり、後の片付けがグッと楽になります。また、火の通りにくいソーセージを先に炒め始め、後から卵を投入するという順序の入れ替えも有効ですね。
簡素化(S):もっと楽にできないか?
今回の手順書にはありませんでしたが、ここはいろんな発想があってもいいですよね。現代的なハックを使うならどうでしょう?
- 中央に仕切りのある「ツインパン」などの専用ツール(拡張機能)を導入して、味が混ざるのを防ぐ。
- ソーセージはフライパンを使わず、電子レンジに丸投げしてしまう。
- あらかじめ切れ目の入ったソーセージを買ってきて、包丁を入れる手間そのものを省く。
こんな風に、「気合いで早く焼く」のではなく、道具や仕組みで負担を減らすのがプロのやり方です。
改善の結果
このECRSの視点で工程を整理した結果、無駄な動きが削ぎ落とされ、精神的・肉体的な負担も減らしながら、なんと38%もの時間短縮(21分→約13分へ短縮)に成功します。これこそが、みんなの知恵をパズルのように組み合わせるECRSの威力なんです。
現場でECRSを成功させる秘訣:チームで知恵を出し合う
ここまでECRSの4つのステップを見てきましたが、この手法を現場で本当に機能させるための最大の秘訣があります。それは、一人で腕を組んで眉間にシワを寄せながらじっくり考えるのではなく、チーム全員の知恵をテーブルの上に広げることです。
「一緒に考えること」が最強のチーム作りになる
現場を中心になって動かしている人が、一人でうんうん唸って完璧な改善案を作ろうとする必要はありません。むしろ、Aさん、Bさん、若い子もベテランさんも巻き込んで、「この作業、思い切ってなくせないかな?」と一緒に議論する。実はこのプロセスそのものが、みんなの「改善の目」を養い、現場全体のレベルを底上げする最高のしかけ作りになります。
納得感が「守られる手順書」を作る
誰かに上から「明日からこの通りにやって」と渡されたマニュアルは、どうしても反発したくなったり、いつの間にか元のやり方に戻ってしまったりしがちですよね。でも、全員で知恵を出し合い「この順番が一番楽でミスが出ないね」と合意して作った手順は違います。自分たちの作品だからこそ納得感があり、誰に言われずとも自然と現場に定着する。それが、結果としてバラツキのない高品質なモノづくりを支えてくれるんです。
複雑な議論になりがちなのをE・C・R・Sで発想を整理できる
現場で「もっとやりやすくしようぜ」と話し始めると、どうしても「俺はこのやり方が早いと思う」「いや、それだと後が大変なんだよ」と、それぞれの職人としての感覚やこだわりがぶつかって、話が空中戦になりがちですよね。
だからこそ、ECRSというフレームワークが助けになります。「まずは『なくせるか(E)』だけでアイデアを出そう」「次は『まとめられないか(C)』ね」と、4つの箱にカテゴリ分けして議論に入る。これだけで、個人の感性に頼っていたフワフワした議論がカチッと整理され、驚くほどスムーズに話が進むようになります。
ゲーム感覚でワークを進められる
ECRSに取り組む上で一番おすすめしたいのは、個人で抱え込まず、チームでワイワイとゲーム感覚で進めることです。
一人でパソコンの画面を見つめながら手順書を直すより、休憩室のテーブルの上に作業手順書をA3サイズくらいに大きく印刷して広げてみてください。そして、ペンを片手に「さて、今回はこいつをどう料理してやろうか!」とみんなで囲むんです。こうやって発想豊かに、プロ同士で楽しみながら進めるのが、もっとも取り組みやすく、かつ最強の答えが出るやり方なんじゃないかなと思います。
まとめ:改善の4原則「ECRS」の正しい進め方
ECRSは、チーム改善力を高めるには最適なツールです。
なぜなら、作業しているヒトはおおむね性善説でいい作業方法を考えているものなんです。あなたも実はそうですよね?
ただ、日々の忙しさに追われて、それを言い出す「きっかけ」や「共通の言葉」がないだけなんです。だからこそ、このECRSという道具を使って、一度みんなでテーブルを囲んでみてください。プロたちの知恵に火がつけば、もう「ああしよう」「こうしよう」という前向きなアイデアが止まらなくなるものです(笑)。
そんなチカラを引き出せれば、あなたの現場はもっと良くなるはずです。
- 排除(E)、統合(C)、交換(R)、簡素化(S)。
この4つの視点を、必ずこの順番で問い直していく。たったそれだけのことで、今まで当たり前だと思っていた現場の景色が、もっとスマートで働きやすいものへと劇的に変わっていきます。
あなたの職場の次のステップ
今回の「朝ごはん作り」の例のように、まずは難しく考えず、身近な1つの作業手順書を休憩室のテーブルに広げてみませんか?
そして、現場の仲間たちと一緒に「これ、思い切ってなくせないかな?(Eliminate)」と話し合ってみましょう。そこから、あなたたちの現場の新しい一歩が始まります。


