近年、地球温暖化による気候変動が深刻化し、世界中で脱炭素社会への移行が急務となっています。日本政府も2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成するという目標を掲げ、企業に対しても積極的な取り組みを求めています。
こうした中、大企業を中心に脱炭素経営、いわゆるGX(グリーントランスフォーメーション)への取り組みが加速していますが、中小企業ではその動きが鈍いのが現状です。
「コストがかかりそう」「何をすればいいのかわからない」といった声も多く聞こえてきますが、GXは決して大企業だけの課題ではなく、我々中小企業にとっても、GXへの取り組みは避けて通れない時代が到来しています。
そこで今回は中小企業が脱炭素経営(GX)に取り組むべき理由を、そのメリットや実際の事例を紹介することによって理解を深めていただきたく情報を集めました。
ぜひ今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いいただくようお願いします。
中小企業にとってのGXとは?
まったなし、と言われるほど切羽詰まっている状況だと言われている背景にはどのようなものがあるのでしょうか?ここでは中小企業におけるGX=脱酸素経営の位置づけをまず整理していきましょう。
GX(グリーントランスフォーメーション)=脱酸素経営の定義と重要性
GXとは、Green Transformationの略で、温室効果ガス排出量の削減と経済成長の両立を目指し、経済・社会システム全体を環境配慮型に変革していく取り組みを指します。この取り組みを戦略として取り入れた経営スタイルとして、別名「脱酸素経営」とも呼ばれています。具体的には、再生可能エネルギーの導入、省エネ設備の導入、資源の再利用、環境配慮型製品の開発などが挙げられます。
GXは、地球温暖化対策として重要なだけでなく、企業にとっても様々なメリットをもたらします。コスト削減、企業価値向上、競争力強化など、企業の持続的な成長に不可欠な要素と言えるでしょう。
中小企業がGXに取り組むべき背景
中小企業がGXに取り組むべき背景には、以下の3つが大きな要因となっています。
- 2050年カーボンニュートラル目標: 日本政府は2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成するという目標を掲げています。この目標達成のためには、大企業だけでなく、中小企業の積極的な取り組みも不可欠です。まさに日本が一丸となる必要があるんです。
- 国際的な潮流: 世界的に脱炭素化への動きが加速しており、EUでは炭素国境調整措置(CBAM)の導入も検討されています。GXに取り組まなければ、国際的な競争力を失う可能性もあります。輸出していない企業は関係ないと思うかもしれませんが、日本だけが排除されるのはちょっと避けたいですよね。
- 大企業からの要請: サプライチェーン全体での排出量削減を目指す大企業が増えており、取引先の中小企業に対してもGXへの取り組みを求めるケースが増えています。直接消費者に届けている企業は関係なさそうですが、実際にはそういった会社の方が少ないですよね。
GXへの取り組みが遅れている中小企業の現状と課題
中小企業庁の調査によると、GXに取り組んでいる中小企業は全体の約3割にとどまっています。その理由としては、以下のような課題が挙げられます。
- 資金不足: GXには初期投資が必要となる場合が多く、資金力に乏しい中小企業にとっては大きな負担となります。
- 人材不足: GXに関する専門知識やノウハウを持つ人材が不足しており、具体的な取り組みが進められないというケースもあります。
- 情報不足: GXに関する情報が十分に伝わっておらず、何から始めればいいのかわからないという中小企業も少なくありません。
これらの課題を克服し、中小企業がGXを積極的に推進していくためには、政府や自治体による支援策の活用や、大企業との連携などが重要となります。
中小企業がGXに取り組むべき3つの理由
GXは、中小企業にとって負担が大きいと感じる方もいるかもしれません。しかし、GXはコスト削減、企業価値向上、事業継続性の強化など、多くのメリットをもたらします。以下では、中小企業がGXに取り組むべき3つの理由を、具体的な事例を交えながら解説します。
理由1:コスト削減と収益増加の両立
GXは、コスト削減と収益増加の両立を可能にします。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
省エネ設備導入、再生可能エネルギー活用による電気代削減
LED照明や高効率エアコンなど、省エネ性能の高い設備を導入することで、電気代の削減が期待できます。また、太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入すれば、さらに電気代を削減できるだけでなく、余剰電力を売電することで新たな収益源にもなり得ます。
廃棄物削減・リサイクルによるコスト削減
廃棄物の削減やリサイクルを推進することで、廃棄物処理費用を削減することができます。また、廃棄物を資源として再利用することで、原材料費の削減にもつながります。
環境配慮型製品開発による新たな収益源の創出
環境に配慮した製品やサービスは、消費者からの支持を集めやすく、新たな顧客層の開拓や既存顧客のロイヤリティ向上につながります。これにより、売上増加や収益向上を期待できます。
補助金・助成金制度の活用による初期費用負担の軽減
国や地方自治体では、中小企業のGXを支援するための補助金や助成金制度を設けています。これらの制度を活用することで、初期費用を抑え、GXへの取り組みをスムーズに進めることができます。
事例紹介:最新設備導入で年間電気代30%削減を達成!~株式会社A社のGX成功事例~
株式会社A社は、従業員数100名の中堅金属加工メーカーです。工場での電力消費量が大きいため、コスト削減が経営上の課題となっていました。そこで、GXの一環として、省エネ効果の高い設備投資に踏み切りました。
具体的な取り組み内容
- LED照明への交換: 工場内の水銀灯を全てLED照明に交換しました。LED照明は、消費電力が少なく、長寿命であるため、大幅な電気代削減とメンテナンスコストの削減につながりました。
- 高効率エアコンへの更新: 老朽化したエアコンを、最新の高効率インバーターエアコンに更新しました。これにより、冷暖房効率が大幅に向上し、電気代の削減に貢献しました。
- BEMS(Building Energy Management System)の導入: BEMSを導入し、工場全体のエネルギー使用状況をリアルタイムで監視・分析できるようにしました。これにより、無駄なエネルギー消費を特定し、さらなる省エネ対策を講じることができました。
導入効果
これらの取り組みの結果、A社は年間電気代を30%削減することに成功しました。削減できた電気代は、年間約1,000万円にのぼり、A社の収益向上に大きく貢献しました。また、CO2排出量も大幅に削減され、環境負荷低減にも貢献しています。
A社担当者の声
「当初は初期投資の負担が懸念されましたが、補助金制度を活用することで、導入コストを抑えることができました。省エネ設備の導入は、コスト削減だけでなく、職場環境の改善にもつながり、従業員のモチベーション向上にも効果がありました。今後もGXを積極的に推進し、持続可能な企業経営を目指していきたいと考えています。」
まとめ
A社の事例は、中小企業でも省エネ設備の導入によって、大幅なコスト削減を実現できることを示しています。GXは、コスト削減と環境負荷低減の両立を可能にするだけでなく、企業価値向上や競争力強化にもつながる重要な取り組みです。中小企業の皆様も、ぜひA社の事例を参考に、GXへの第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
理由2:企業価値向上と競争力強化
GXへの取り組みは、企業価値向上と競争力強化にもつながります。
企業イメージ向上、優秀な人材の確保、取引先の拡大
GXに積極的に取り組む企業は、社会的に高い評価を受け、企業イメージの向上につながります。また、環境意識の高い優秀な人材の確保や、同じ価値観を持つ取引先との関係構築にも役立ちます。
ESG投資の誘致、資金調達機会の拡大
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮した企業への投資のことです。GXへの取り組みはESG評価の向上につながり、ESG投資を誘致する可能性が高まります。これにより、資金調達機会の拡大や、企業価値の向上も期待できます。
脱炭素社会への対応、サプライチェーンにおける優位性の確保
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、脱炭素社会への対応は企業の存続に不可欠です。GXに取り組むことで、脱炭素社会における競争力を高めることができます。また、大企業を中心に、サプライチェーン全体での排出量削減を目指す動きが強まっており、GXに取り組む中小企業は、取引先からの評価を高め、サプライチェーンにおける優位性を確保することができます。
事例紹介:環境配慮型製品開発と地域貢献で企業価値向上!~株式会社B社のGX成功事例~
株式会社B社は、従業員数30名の中小化粧品メーカーです。B社は、製品開発から販売まで一貫して環境負荷低減に取り組むだけでなく、地域社会との連携を重視したGXを推進しています。
具体的な取り組み内容
- 環境配慮型製品の開発: 天然由来成分の使用、プラスチック容器の削減、詰め替え用商品の拡充など、環境負荷の少ない製品開発に注力しています。また、製品のライフサイクル全体で環境負荷を低減するため、リサイクルしやすい素材の使用や、容器回収プログラムの導入なども行っています。
- 地域社会との連携: 地域の森林保全活動への参加、環境教育イベントの開催、地元の学校との連携による環境学習プログラムの実施など、地域社会との連携による環境保全活動にも積極的に取り組んでいます。
- 情報開示の徹底: 自社のウェブサイトやSNSを通じて、GXへの取り組みや環境負荷低減の成果を積極的に発信しています。これにより、企業の透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を獲得しています。
導入効果
これらの取り組みが評価され、B社の企業価値は大きく向上しました。具体的には、
- 売上増加: 環境配慮型製品が消費者の支持を集め、売上増加につながっています。
- 新規顧客の獲得: 環境意識の高い顧客層からの支持を得て、新規顧客を獲得しています。
- 優秀な人材の確保: GXに積極的に取り組む企業として、優秀な人材の確保にも成功しています。
- ESG投資の誘致: ESG投資家からの関心を集め、資金調達機会を拡大しています。
- 地域社会からの信頼獲得: 地域社会との連携による環境保全活動が評価され、地域からの信頼を獲得しています。
B社担当者の声
「GXへの取り組みは、当初はコスト増につながるという懸念もありましたが、結果的には、企業価値向上、売上増加、新規顧客獲得など、多くのメリットをもたらしました。GXは、中小企業にとって大きなビジネスチャンスであると確信しています。」
まとめ
B社の事例は、中小企業がGXを通じて、企業価値を高め、新たなビジネスチャンスを創出できることを示しています。製品開発だけでなく、地域社会との連携や情報開示など、多角的な取り組みが重要であることがわかります。中小企業の皆様も、B社の事例を参考に、GXを経営戦略に取り入れてみてはいかがでしょうか。
理由3:事業継続性の向上とリスク低減
GXへの取り組みは、事業継続性の向上とリスク低減にも貢献します。
気候変動による自然災害リスクへの対応
近年、気候変動の影響により、台風や豪雨などの自然災害が頻発し、甚大な被害をもたらしています。GXへの取り組みは、自然災害に対するレジリエンス(回復力)を高め、事業継続性を確保することにつながります。例えば、再生可能エネルギーの導入は、停電時の事業継続に役立ちます。
資源価格高騰リスクへの対応
原油や天然ガスなどの化石燃料は、価格変動が激しく、企業にとって大きなリスクとなります。再生可能エネルギーの導入や省エネの推進は、化石燃料への依存度を下げ、資源価格高騰リスクを軽減することができます。
環境規制強化リスクへの対応
環境規制は今後ますます厳しくなることが予想されます。GXに積極的に取り組むことで、環境規制に対応するための準備を進めることができ、規制強化によるリスクを低減することができます。
事例紹介:太陽光発電でBCP対策!自然災害に強い工場へ~株式会社C社のGX成功事例~
株式会社C社は、従業員数50名の中小印刷会社です。自然災害による停電が業務に大きな影響を与えるため、BCP(事業継続計画)対策が急務となっていました。そこで、GXの観点から、太陽光発電システムの導入を決定しました。
具体的な取り組み内容
- 太陽光発電システムの導入: 工場屋根に大規模な太陽光発電システムを設置しました。発電した電力は自家消費し、余剰電力は売電することで、新たな収益源も確保しました。
- 蓄電池の導入: 太陽光発電システムと連携して、蓄電池を導入しました。これにより、日中に発電した電力を蓄えておき、夜間や停電時に活用できるようになりました。
- エネルギー管理システム(EMS)の導入: EMSを導入し、工場全体のエネルギー使用状況をリアルタイムで監視・制御できるようにしました。これにより、エネルギー効率を最適化し、さらなる省エネを実現しました。
導入効果
これらの取り組みの結果、C社は自然災害による停電リスクを大幅に軽減することに成功しました。20XX年の台風による大規模停電時にも、太陽光発電と蓄電池によって工場の稼働を維持し、顧客への納期遅延を防ぐことができました。また、再生可能エネルギーの活用により、CO2排出量も削減され、環境負荷低減にも貢献しています。
C社担当者の声
「太陽光発電システムの導入は、BCP対策としてだけでなく、コスト削減にもつながりました。売電収入によって、導入コストを早期に回収できる見込みです。また、環境に配慮した企業としてイメージアップにもつながり、新規顧客の獲得にも貢献しています。GXは、中小企業にとって様々なメリットをもたらすことを実感しています。」
まとめ
C社の事例は、太陽光発電システムの導入が、BCP対策としてだけでなく、コスト削減、環境負荷低減、企業イメージ向上など、多岐にわたるメリットをもたらすことを示しています。中小企業の皆様も、C社の事例を参考に、GXの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
中小企業がGXを始めるためのステップ
GXへの道のりは、決して平坦ではありませんが、以下の4つのステップを踏むことで、着実に目標達成に近づけます。それぞれのステップで何をするべきか、具体的に見ていきましょう。
GXは、経営トップのコミットメントと、全社的な取り組みが不可欠です。まずは、GX推進のための体制を構築しましょう。
- 経営トップのリーダーシップ: GX推進を経営の重要課題として位置づけ、トップ自らが旗振り役となって推進することが重要です。
- GX担当者の選任: GX推進の責任者や担当者を明確にし、責任体制を構築しましょう。担当者には、GXに関する知識や経験を持つ人材を選任することが望ましいです。
- GX推進チームの結成: 担当者だけでなく、各部門からメンバーを選出し、GX推進チームを結成しましょう。チームメンバーには、それぞれの専門知識や経験を活かしてもらい、全社的な取り組みを推進します。
- 情報共有と意識向上: 社内報や研修会などを通じて、GXに関する情報を共有し、社員全体の意識向上を図りましょう。GXの重要性やメリットを理解してもらうことで、積極的な協力が得られます。
自社のCO2排出量を把握し、具体的な削減目標を設定することが、GX推進の出発点となります。
- CO2排出量の算定: 電気、ガス、燃料の使用量、廃棄物量など、自社の事業活動に伴うCO2排出量を算定しましょう。算定ツールや専門家のサポートを活用することも有効です。
- 削減目標の設定: 算定結果に基づき、現実的で達成可能なCO2削減目標を設定しましょう。目標は、長期的な視点で設定し、段階的に引き上げていくことも有効です。
- 目標の公表: 設定した削減目標を社内外に公表することで、GXへの取り組みをアピールし、ステークホルダーからの信頼を得ることができます。
削減目標を達成するためには、具体的なGX施策を検討し、実行に移す必要があります。
- 省エネ対策: 照明のLED化、空調設備の更新、断熱材の導入など、省エネ対策を積極的に実施しましょう。
- 再生可能エネルギーの導入: 太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーの導入を検討しましょう。自家消費だけでなく、余剰電力の売電も可能です。
- 廃棄物削減・リサイクル: 廃棄物の分別を徹底し、リサイクル率を高める取り組みを推進しましょう。
- 環境配慮型製品の開発: 環境負荷の少ない原材料の使用、製品の長寿命化、リサイクルしやすい設計など、環境配慮型製品の開発に取り組みましょう。
- サプライチェーンとの連携: 取引先企業と連携し、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減を目指しましょう。
GX施策の実施後は、定期的に効果測定を行い、改善を図ることが重要です。
- CO2排出量の測定: 定期的にCO2排出量を測定し、削減目標との比較を行いましょう。
- 効果検証: 各GX施策の効果を検証し、改善点を見つけましょう。
- PDCAサイクルの確立: 計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のサイクルを確立し、継続的な改善を図りましょう。
これらのステップを着実に実行することで、中小企業でもGXを成功に導くことができます。GXは、企業の持続的な成長に不可欠なだけでなく、社会全体の課題解決にも貢献できる取り組みです。ぜひ、積極的にGXに取り組み、より良い未来を創造していきましょう。
まとめ:中小企業こそGXに取り組むべき時代
GXは、もはや大企業だけのテーマではありません。中小企業にとっても、GXへの取り組みは企業の成長と存続に不可欠な要素となっています。GXは、一見コストがかかるように思えますが、実際には、コスト削減、収益増加、企業価値向上、事業継続性の強化など、多くのメリットをもたらす「投資」であると言えます。
GXはコストではなく投資
GXへの投資は、短期的には費用負担となることもありますが、中長期的には、省エネによるコスト削減、再生可能エネルギーの導入による売電収入、環境配慮型製品の開発による新たな収益源の創出など、様々な形で回収することができます。また、企業イメージの向上やESG投資の誘致など、目に見えない価値の向上にもつながります。
早期に取り組むことで先行者利益を獲得
GXへの取り組みが遅れるほど、競争力を失い、市場から取り残されるリスクが高まります。逆に、早期に取り組むことで、市場での優位性を確立し、先行者利益を獲得することができます。GXの先進的な取り組みは、企業のブランドイメージ向上にもつながり、優秀な人材の獲得や新たなビジネスチャンスの創出にも貢献します。
GXに取り組むことは、持続可能な社会への貢献
GXは、地球温暖化対策として重要なだけでなく、持続可能な社会の実現にも不可欠な取り組みです。中小企業がGXに取り組むことは、自社の成長だけでなく、地域社会や地球全体の未来に貢献することにもつながります。
中小企業の皆様には、ぜひGXを「コスト」ではなく「投資」と捉え、積極的に取り組んでいただきたいと思います。そして今回の内容が、中小企業のGX推進の一助となれば幸いです。