「また、この不良か…」「昨日はうまくいったのに、なぜ今日はダメなんだ…」
工場の現場ではこのように品質管理で、日々、頭を悩ませる瞬間は少なくないと思います。目の前のトラブルに対処するのに精一杯で、根本的な対策まで、なかなか手が回らない。そんな風に感じていらっしゃるかもしれませんね。
これまで製造部SEIZO-BUでは、品質管理の土台となる大切な考え方を、「後工程に不良を流さない」「前工程に知らせる」「品質のバラツキをなくす」という3つのテーマに分けて、一つひとつ掘り下げてきました。
一つひとつの原則は、どれも「確かにそうだ」と頷けるものだったと思います。ですが、本当の力は、この3つが現場でどう繋がり、どう作用し合うのかを理解した時にこそ、発揮されるのだと想像します。
そこで今回は、いわばそれらの「総集編」をまとめて整理することとしました。これまで点としてお伝えしてきた3つの原則を、一本の線として結びつけ、皆さんの現場で起きている日々の課題と、どう結びついているのかを解き明かしていきたいと思います。そのことによって、あなたのチームが今、どの段階にいて、次に何をすべきかのヒントについて、あなたに何か見つけて欲しいのです。
今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いくださいませ。
そもそも品質管理(QC)とは?【初心者向けにわかりやすく解説】
現場で毎日、製品と向き合っていると、「品質管理」という言葉を当たり前のように使っているかもしれません。ですが、改めて「品質管理って、つまり何?」と改めて聞かれると、少し言葉に詰まってしまうこともあるかと思います。
目指すのは「いつでも、いつも通り」の安心感
品質管理とは、一言でいえば「お客様が満足する『当たり前』のレベルを、いつでも安定して作り続けるための活動」すべてを指します。あなたが作った製品を手にしたお客様が、「うん、いつも通り、良い品物だ」と感じてくれること。それこそが、品質管理が目指す一番のゴールです。決して、難しいことではありません。
「消火活動」から「防火活動」へ
現場では、よく「検査で不良品を見つけること」が品質管理だ、と思われがちです。もちろん、それも大切な一部ですが、それはどちらかというと「火事が起きてから消火する」活動に近いかもしれません。本当の意味での品質管理は、「そもそも火事が起きないように、火の元をしっかり管理する」こと、つまり、不良品そのものが生まれないような仕組みを作り、それを維持していくことにあります。
TQMや品質保証(QA)との違いって?
もしかしたら、あなたの会社では「TQM」や「品質保証(QA)」なんて言葉が使われているかもしれませんね。TQMは「みんなで品質を高めていこうぜ!」という全社的な取り組み、品質保証は「うちの会社は、ちゃんとした製品をお届けすることを約束します!」というお客様への宣言のようなものです。呼び方はいろいろありますが、根っこは同じです。お客様に喜んでもらい、会社の信頼を守るために、日々の仕事のやり方を見直し、より良くしていく。その地道な活動こそが、品質管理の本質なのです。
製造業の品質管理で最も重要な3つの基本原則
では、具体的に「不良品そのものが生まれないような仕組み」とは、一体何なのでしょうか。
これからお話しする3つの基本原則は、それぞれが独立したものではなく、パズルのピースのように密接に繋がっています。一つひとつももちろん大切ですが、この3つが現場でガチッとかみ合った時に、初めて品質管理という大きな絵が完成し、その本当の力が発揮されるのです。一つずつ、見ていきましょう。
原則①:品質保証の出発点「後工程に不良を流さない」
まず、すべての基本となるのが、この考え方です。リーダーである、あなたの仕事場を想像してみてください。もし、前の工程から流れてきた部品に、すでに問題があったらどうでしょうか。まともな仕事にならないばかりか、手直しに余計な時間がかかって、イライラしてしまいますよね。
それと全く同じことを、あなたの次の工程の担当者も感じています。「後工程はお客様」という有名な言葉がありますが、これはまさに「あなたのすぐ隣で作業している次の担当者は、いわば『社内の一番身近なお客様』なんですよ」という意味なんです。
お客様に不良品を渡さないのは、当たり前ですよね。だからこそ、自分の仕事の結果には自分で責任を持ち、「よし、この製品はカンペキだ」と胸を張って言える状態で、次の工程に渡す。この「自工程完結」の意識こそが、品質管理のすべての始まりであり、あなたのチームが最初に徹底すべき、最も重要な約束事なのです。

原則②:改善ループのエンジン「前工程に知らせる」
さて、自分の持ち場で不良を食い止めた。これは素晴らしいことです。原則①が、しっかりと守られている証拠です。でも、ここで満足してはいけません。
想像してみてください。あなたが不良品を毎日10個、ラインの外にはじき続けたとします。後工程には流れていないので、一見、仕事はできているように見えます。しかし、その裏では不良品の山がどんどん大きくなっていく。これは、本当の解決とは言えませんよね。
ここで、2つ目の原則の出番です。不良を見つけたら、その情報を「すぐに、具体的に、前工程に知らせる」のです。これは、決して前工程の担当者の「犯人探し」ではありません。むしろ、「もっと良い仕事をするための、貴重な情報のプレゼント」です。
「さっきの部品、ここの寸法が少しズレてたよ」「この部品、表面に傷があったから、一度そっちの設備を確認してみてくれないか」。この一言が、前工程で起きている問題に気づかせ、本当の原因を突き止めるキッカケになります。この情報のやり取りこそが、昨日と同じ失敗を繰り返さないための「改善ループ」を回す、強力なエンジンになるのです。

原則③:安定品質への挑戦「品質のバラツキをなくす」
原則①で不良を食い止め、原則②でその原因を解決する。もし、この2つが「問題が起きてから対処する守りの品質管理」だとすれば、この3つ目の原則は「そもそも問題が起きる芽を摘む、攻めの品質管理」と言えるかもしれません。
「品質のバラツキをなくす」とは、どういうことでしょうか。それは、作った製品が「合格か、不合格か」の二択ではなく、すべての製品が「ど真ん中の狙い通りの寸法で、ほぼ同じように出来上がっている」状態を目指す、ということです。
例えば、ネジの長さの基準が10.0mm±0.2mmだったとします。9.8mmも10.2mmも、どちらも合格品です。しかし、ある時は9.8mmギリギリ、またある時は10.2mmギリギリ…という状態では、品質が「バラついて」いると言えます。これでは、いつ不良品が出てもおかしくありません。
このバラツキを小さくできれば、どうなるでしょうか。機械の調整回数は減り、材料の無駄もなくなり、そして何より、お客様は「あの会社の製品は、いつ買っても品質が安定している」と絶大な信頼を寄せてくれるようになります。ここまでできて初めて、あなたのチームの仕事は「管理されている」と言えるのです。

明日から実践できる品質改善の具体的な方法【4M分析の活用】
ここまで3つの原則をお話しして、「なるほど、考え方はわかった。でも、じゃあ具体的に、明日から何をすればいいんだ?」と思われたかもしれませんね。
大丈夫です。難しく考える必要はありません。これからご紹介する3つのステップは、どんな問題にも応用できる、いわば品質改善の「型」のようなものです。この型に沿って、あなたの現場で起きている問題を一度、当てはめてみてください。
STEP1:問題の見える化「4M」で原因を切り分ける
さて、目の前で不良が起きたとします。「原因はなんだろう?」と考えても、頭の中がごちゃごちゃして、なかなか整理できませんよね。そんな時に役立つのが、「4M」という4つの視点です。これは、問題の原因を整理するための「4つの引き出し」だと考えてみてください。
視点 (4M) | 主な確認ポイント |
Man(人) | その作業、ベテランと新人で同じようにできるか? 作業者の勘や経験に頼りすぎていないか? |
Machine(機械) | 使っている設備の調子はいつもと同じか? 定期的なメンテナンスはされているか? |
Material(材料) | 今日使っている材料は、昨日と全く同じものか? 保管方法は適切か? |
Method(方法) | 作業の手順は、誰が見てもわかるように決められているか? その手順は、本当に守られているか? |
この段階では、まだ犯人を一人に絞る必要はありません。まずは「怪しいもの」を、この4つの引き出しに全部書き出してみる。それが、ごちゃごちゃした頭の中を整理し、問題解決へと進むための、確かな第一歩になります。
STEP2:根本原因の特定「なぜなぜ分析」で深掘りする
4Mで原因候補がいくつか挙がったら、次はいよいよ「真犯人」、つまり、すべての元凶となっている根本原因を突き止めます。ここで使うのが、「なぜなぜ分析」です。やり方は驚くほどシンプル。「なぜ、その問題は起きたのか?」を、最低5回、自分自身に問いかけるだけです。
例えば、「機械から油が漏れていた」という問題があったとします。
なぜ① 油が漏れた? → パッキンが劣化していたから
なぜ② パッキンが劣化した? → 交換されずにずっと使われていたから
なぜ③ 交換されなかった? → 定期的な交換基準がなかったから
なぜ④ 交換基準がなかった? → メンテナンス項目に含まれていなかったから
なぜ⑤ 含まれていなかった? → そもそも、その機械の正しいメンテナンスマニュアルが現場になかったから
どうですか?「パッキンを交換する」というその場しのぎの対策から、「機械を導入する際の、マニュアル管理のルールを作る」という、全く次元の違う根本的な対策にたどり着きました。表面的な問題に振り回されず、本当の課題にたどり着く。これが、なぜなぜ分析のすごいところです。
STEP3:再発防止の徹底「標準化」で良い状態を維持する
素晴らしい根本原因が見つかり、対策も決まった。これで一安心…ではありません。リーダーとして一番避けたいのが、この改善が「あの時だけ頑張ったね」という、その場限りの花火で終わってしまうことです。
せっかく見つけた改善策を、あなたのチーム、ひいては会社全体の「共通の財産」にする。そのための活動が、「標準化」です。具体的には、「作業標準書」を更新したり、新しく作ったりすることです。写真や図を使い、誰が見ても一目でわかるように、「これが我々の新しいやり方だ」と明確に示すのです。
この新しいルールを全員で共有し、守っていく。そして、また新たな問題が見つかれば、同じように改善し、標準を更新していく。この標準化を行って初めて、改善のサイクルは完了します。そして、あなたのチームの仕事のレベルが、また一段階カチッと上がるのです。
まとめ:3つの基本原則を実践し、信頼される企業へ
ここまで、品質管理の基本的な考え方から、3つの原則、そして具体的な改善のステップまで、一緒に見てきました。
もうお気づきかもしれませんが、これまでお話ししてきた「後工程に不良を流さない」「前工程に知らせる」「品質のバラツキをなくす」という3つの原則は、単なる作業のテクニックや、壁に貼っておくスローガンではありません。
「後工程はお客様」と、隣で働く仲間を思いやること。
「なぜ?」と、問題の本質から逃げずに問い続けること。
そして、決めたルールをみんなで守り、より良いやり方を常に探していくこと。
これらはすべて、あなたのチーム、ひいては会社の「文化」そのものなのです。
そして、その文化が育った先に、お客様からの「あの会社の製品なら、安心して使える」「あの会社になら、大切な仕事を任せられる」という、何物にも代えがたい「信頼」が生まれます。その信頼こそが、私たち製造業が、どんな時代でも勝ち取っていかなければならない、一番大切な財産ではないでしょうか。
製造現場で働いている、あなたが明日からできることは何でしょう。
それは、もしかしたら「次の工程の人に、一声かける」ことかもしれません。「なぜ?」と、一度だけ深く考えてみることかもしれません。
その小さな一歩の積み重ねが、やがてはチームを変え、会社を動かし、お客様の信頼を勝ち取る大きな力になります。今回の内容が、そのきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。