近年、世界的な課題として地球温暖化が深刻化しています。温室効果ガスの排出量削減は、もはや大企業だけの問題ではありません。中小企業、特に町工場も、この地球規模の課題に積極的に取り組むことが求められています。
しかし、「コストがかかりそう」「何をすれば良いか分からない」といった理由から、二の足を踏んでいる町工場の経営者の方も多いのではないでしょうか?実はこれら温暖化対策は、コスト削減や人材確保、企業価値向上など、QCD(品質・コスト・納期)の強化につながるチャンスでもあるのです。
そこで今回は、なぜ町工場が温暖化対策に取り組むべきなのか?、温暖化対策がQCD強化にどのようにつながるのか?、具体的にどのような対策があるのか?について解説してまいります。
ぜひ今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いくださいませ。
中小製造業が抱える大きな問題
中小製造業は、日本経済を支える重要な存在ですが、現在、複数の深刻な問題に直面しています。これらの問題は、複雑に絡み合い、企業の存続を脅かす可能性を大いに含んでいます。
問題1:収益力の低下
世界情勢の不安定化や円安の影響により、エネルギー価格や原材料価格が高騰しています。特に、ロシアのウクライナ侵攻は、天然ガスや原油などのエネルギー価格の高騰を招き、製造業のコストを圧迫しています。また、世界的なインフレ傾向も相まって、原材料価格も上昇しており、中小製造業の経営を圧迫しています。さらに、国策による賃金上昇も加わり、中小製造業の人件費負担は増加の一途を辿っています。にもかかわらず、顧客への価格転嫁はかんたんではなく、収益力の低下が深刻な状況です。
問題2:人材不足
少子高齢化による労働人口の減少は、中小製造業にとって大きな痛手です。賃金や労働条件の面で勝る大企業に人材が流出し、採用難に拍車がかかっています。また、熟練工の高齢化が進み、技術継承が困難になっていることも深刻な問題です。若年層の製造業離れも深刻で、人材不足は慢性化しています。
問題3:環境規制の強化と対応コストの増大
世界的な環境意識の高まりを受け、環境規制は年々厳しくなっています。カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みは待ったなしの状況であり、中小製造業もCO2排出量削減などの環境対策への取り組みが求められています。しかし、資金やノウハウが不足している場合が多く、対応に苦慮しているのが現実ですよね。でもこの環境対策への取り組みって、短期的に見ればコスト増につながる一面が目立ちますが、中長期的には企業価値の向上や競争力強化につながる可能性が大きい側面もあります。
これらの複合的な問題により、中小製造業の経営環境は厳しさを増しています。しかし、これらの問題を解決する糸口は、実は「温暖化対策」の中にあるのです。
温暖化対策が必要な理由とは
地球温暖化は、もはや遠い未来の話ではありません。私たちの暮らし、そして未来の子どもたちの暮らしに、すでに様々な影響を及ぼし始めています。そこで、なぜ我々中小製造業でも温暖化対策が必要になってくるのか?についてお話していきましょう。
温室効果ガスの排出による重大な影響
工場や車などから排出される温室効果ガスは、地球を暖める毛布のような役割を果たしています。そのため、この毛布が厚くなりすぎると、地球の気温が上がりすぎてしまい、地球全体が温暖化することが重大な問題として取り上げられている、というわけです。
この地球温暖化が進むと、
- 異常気象の増加: 猛暑、豪雨、台風などの異常気象が頻発し、私たちの生活や企業活動に甚大な被害をもたらします。工場の操業停止やサプライチェーンの混乱など、ビジネスにも深刻な影響を与える可能性があります。
- 生態系の破壊: 珊瑚礁の白化や北極の氷の融解など、地球の生態系が崩れ、生物多様性が失われます。これにより、漁業や農業など、私たちの生活に欠かせない産業にも影響が及びます。
- 食糧危機: 干ばつや洪水により、農作物が育たなくなり、食糧不足に陥る可能性があります。食料価格の高騰は、家計や企業経営を圧迫する要因となります。
- 健康被害: 熱中症や感染症のリスクが高まります。従業員の健康被害は、企業の生産性低下にもつながります。
このままいくと未来はどうなる?
このままこの世界の全員が温暖化対策を怠ると、地球の平均気温はさらに上昇し、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。異常気象の激化、海面上昇による国土の消失、生態系の崩壊など、私たちの未来は深刻な危機に直面することが予測されています。なので我々もこの社会の一員なので、しっかり協力する必要があるる、というわけです。
ゼロエミッションという目標の意味
「ゼロエミッション」とは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標です。これは、単に排出量を減らすだけでなく、森林などによる吸収量を増やすことや、排出量に見合った削減活動を行うことなどを含みます。2050年までにゼロエミッションを達成することは、地球温暖化を食い止めるために不可欠な目標であり、世界共通の目標となっています。
世界的な温暖化対策の経緯
地球温暖化対策は、1992年の地球サミットで採択された「気候変動枠組条約」を皮切りに、国際的な枠組みで進められてきました。2015年には、パリ協定が採択され、世界共通の長期目標として「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことが合意されました。
我が国の温暖化対策の経緯
日本も、2050年カーボンニュートラル宣言を行い、脱炭素社会の実現に向けて取り組んでいます。2030年度には、温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減することを目指しています。この目標達成のため、政府は、再生可能エネルギーの導入促進や省エネ対策の強化など、様々な施策を打ち出しています。
我々中小製造業も、この流れに乗り遅れることなく、積極的に温暖化対策に取り組むことが求められています。温暖化対策は、企業の社会的責任を果たすだけでなく、コスト削減や競争力強化など、経営上のメリットにもつながります。
なぜ?町工場の温暖化対策がQCD強化につながるのか?
温暖化対策は、地球を守るだけでなく、実は「QCD(品質・コスト・納期)」に関する対応力の強化、つまり、会社を強くすることにもつながるんです。それはいったいなぜなのか?その理由を3つ紹介します。
理由1:コストダウンにつながるから
電気の使用量を減らしたり、太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入したりすることで、電気代を大幅に削減できます。工場の屋根に太陽光パネルを設置し、自家消費することで、電気料金の削減だけでなく、売電収入を得ることも可能です。 また、断熱材を入れたり、古い設備を新しい省エネタイプのものに変えたりすることで、エネルギー効率が上がり、さらにコストダウンにつながります。LED照明への切り替えや、インバーター制御の導入など、比較的小規模な投資でも効果的な省エネ対策はたくさんあります。これらの対策は、長期的に見ると大きなコスト削減効果をもたらし、会社の収益力向上に貢献する取組みとなります。これはやらない手はないですよね。
理由2:温暖化対策に取り組み会社の評価が高まるから
社会的に環境問題への意識が高まる中、温暖化対策に積極的に取り組む企業は、社会からの評価は高まります。これらは、製品やサービスのブランドイメージ向上につながり、新たな顧客獲得や取引先の拡大にも貢献します。「環境に配慮した企業」というイメージは、消費者や取引先からの信頼感を高め、ビジネスチャンスを広げる可能性があります。 また、投資家からの評価も高まり、資金調達が有利になる可能性もあります。ESG投資(環境・社会・ガバナンスに配慮した投資)が注目される中、温暖化対策への取り組みは、投資家にとって重要な判断材料となります。 さらに、補助金や税制優遇などの支援制度も充実しており、これらの活用も企業の評価向上に繋がります。
理由3:優秀な人材ほど素晴らしい会社を選ぶから
今の若い人たちは、環境問題への関心が高い傾向にあります。温暖化対策に熱心な会社は、彼らにとって魅力的な職場となり、優秀な人材を惹きつけることができます。従業員の環境意識向上にもつながり、離職率の低下や生産性向上にも期待できます。 また、環境問題への取り組みは、従業員の会社への愛着や誇りを高め、モチベーション向上にもつながります。社員が誇りを持って働ける職場環境は、企業の成長にとって不可欠です。
このように、温暖化対策は、コスト削減、企業価値向上、人材確保という、QCDのあらゆる側面に良い影響を与えます。
それでは次は、具体的にどのような温暖化対策があるのか、詳しく解説していきます。
QCD強化につながる具体的な温暖化対策
温暖化対策は、大掛かりな設備投資が必要なものばかりではありません。中小企業でも、すぐに始められる対策がたくさんあります。
手段1:エネルギーの見える化と省エネの実践
まずは、自社のエネルギー使用状況を把握することが重要です。電気やガスの使用量を計測し、「いつ」「どこで」「どれくらい」エネルギーを使っているのかを「見える化」することで、無駄なエネルギー消費を発見しやすくなります。
環境省の「中小企業地球温暖化対策推進ガイドライン」では、エネルギー計測や省エネの進め方をステップに沿って分かりやすく説明しています。照明のLED化、エアコンの設定温度調整、こまめな電源オフなど、今日からでも始められる省エネ対策はたくさんあります。
手段2:温室効果ガス排出量の見える化
自社の温室効果ガス排出量を把握することも重要です。経済産業省は、中小企業が簡単に排出量を算定し、削減の取り組みを公表できるよう、ノウハウの提供や電子報告システムの整備を行っています。排出量を「見える化」することで、削減目標を設定しやすくなり、効果的な対策を打ち出すことができます。
手段3:省エネ設備の導入
古い設備を、最新の省エネタイプの設備に更新することで、大幅なエネルギー削減が期待できます。高効率モーターやインバーター、ヒートポンプなど、様々な省エネ設備があります。初期投資は必要ですが、長期的に見るとコスト削減効果は大きく、設備更新の費用対効果をしっかり見極めることが重要です。国や自治体による補助金制度も活用できます。
手段4:再生可能エネルギーの導入
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを導入することで、CO2排出量を大幅に削減できます。工場の屋根に太陽光パネルを設置したり、敷地内に風力発電設備を設置したりするなど、自社で発電することも可能です。再生可能エネルギーの導入は、電気料金の削減だけでなく、企業イメージの向上にもつながります。固定価格買取制度(FIT)や、余剰電力の売電など、導入を後押しする制度も利用できます。
手段5:中小企業版SBTの認証取得
最後は中小企業版SBTの認証取得にチャレンジすることです。SBT(Science Based Targets)とは、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のこと。中小企業版SBTは、中小企業が自社の事業規模や排出量に応じて、無理のない範囲で目標を設定し、取り組みを進めることができるように設計されています。
SBT認証を取得することで、
- 資金調達: 環境配慮型融資など、有利な条件での資金調達が期待できます。
- コスト削減: 省エネや再生可能エネルギー導入などの取り組みを通じて、エネルギーコストを削減できます。
- 競争優位性: 環境意識の高い顧客や取引先からの信頼を獲得し、競争力を高めることができます。
- 社会的評価: 環境問題に積極的に取り組む企業として、社会からの評価を高めることができます。
これらの温暖化対策は、単に環境負荷を低減するだけでなく、コスト削減、企業価値向上、人材確保など、QCDの強化にもつながります。
それぞれの企業の状況に合わせて、最適な対策を組み合わせることが重要です。まずは、できることから始めてみましょう。
今こそ、行動を起こす時!温暖化対策で未来を切り拓く
ここまで、町工場が抱える様々な課題と、温暖化対策がQCD強化に繋がる理由について解説してきました。もしかすると、「うちみたいな小さな工場に何ができるんだ?」「コストがかかりそうで手が出せない」と感じている方もいるかもしれません。
しかし、温暖化対策は決して大企業だけの問題ではありません。小さな一歩でも、それが積み重なることで、大きな変化を生み出すことができます。
省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの利用は、確かに初期投資が必要ですが、長期的に見ればコスト削減効果は絶大です。また、補助金や税制優遇などの支援制度を活用すれば、より負担を軽減できます。そして何より、温暖化対策は「企業価値」を高める強力な武器になります。環境意識の高い消費者や取引先からの信頼を獲得し、優秀な人材を惹きつけることができます。
「地球のために、未来のために、そして自社の発展のために」今こそ、温暖化対策に積極的に取り組む時です。
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