5S活動の第一歩「整理」とは?現場改善の成否を決める理由と実践6ステップ

5S活動に取り組む企業は多いものの、現場で十分な成果につながっていないケースも少なくありません。
その背景には、5Sの最初に位置づけられている「整理」が曖昧なままで、「整頓」や「清掃」といった見た目の改善に進んでしまうことがあります。

しかし、本来の5Sは、単に職場をきれいに見せるための活動ではありません。仕事をしやすくし、ムダを減らし、品質・納期・安全・生産性の向上につなげるための基盤づくりです。その出発点が、1Sである「整理」です。

整理とは、必要なものと不要なものを区別し、不要なものを取り除くことです。この考え方は、製造業の現場だけに当てはまるものではありません。物流、事務、店舗、医療、建設、サービス業など、あらゆる業種・職場に共通する改善の基本です。
本記事では、5S活動の中でも特に1Sである「整理」に絞って、その重要性、整理ができている職場のありたい姿、進め方、成果の測り方について、中小企業診断士の視点から整理してみたいと思います。

目次

1S「整理」と「整頓」の明確な違い

整理とは、必要なものと不要なものを分け、不要なものを取り除くことです。
似た言葉に「整頓」がありますが、両者は明確に異なります。

  • 整理:必要・不要を区別し、不要なものをなくすこと
  • 整頓:必要なものを使いやすく配置すること

この違いを理解しないまま5Sを進めると、「とりあえず並べる」「きれいに置く」といった活動に終わり、本来取り除くべきムダが残ったままになります。
現場には、思っている以上に多くの“不要”が存在しています。例えば、次のようなものです。

  • もう使っていない部品や治具
  • 古い帳票やマニュアル
  • 予備として持ちすぎている在庫
  • 誰が使うのかわからない備品
  • 故障して放置された機器
  • いつか使うかもしれないと保管されている資材
  • 重複して保存されているデータや書類

こうしたものは、ただ場所を取るだけではありません。必要なものを見つけにくくし、動線を悪化させ、判断を遅らせ、清掃や点検もしにくくします。つまり整理とは、単なる廃棄活動ではなく、「現場の判断力と作業性を高めるための活動」なのです。

なぜ「整理」が5Sの最初なのか?順番の重要性

5Sの順番には意味があります。整理が最初に置かれているのは、不要なものが残った状態では、その後の整頓・清掃・清潔・しつけが十分に機能しないからです。
例えば、不要なものが多い職場では、次のような問題が起こります。

  • 必要なものの置き場所が決まらない
  • 探す時間が増える
  • 物をよけて作業することになる
  • 清掃範囲が広がり、手間が増える
  • 異常や不足に気づきにくくなる
  • 使っていない在庫が増え続ける
  • 通路が狭くなり、安全性が低下する

これらは一つひとつを見ると小さな問題に見えるかもしれません。しかし、日々積み重なることで、大きな時間ロスやストレス、コスト増につながります。
特に中小企業では、限られた人員・スペース・設備の中で仕事を回していることが多いため、不要物が与える影響は想像以上に大きくなります。だからこそ整理は、単なる現場美化ではなく、経営資源を有効活用するための第一歩といえます。

整理ができていない職場で起きている5つの問題

整理の必要性を理解するためには、整理ができていない職場で何が起きているかを具体的に見ることが重要です。実際の現場では、次のような状態がよく見られます。

1. 探す時間が日常化している

必要な工具、書類、データ、備品を探すことが当たり前になっている職場では、本人たちもムダとして認識しなくなっていることがあります。しかし、1回数分の探索でも、人数と回数を掛け合わせれば相当な損失です。

2. 「とりあえず置く」が習慣化している

置き場所が曖昧な職場では、物が仮置きされ、そのまま定位置化してしまいます。
結果として通路や作業台が狭くなり、見通しも悪くなります。

3. 使わない在庫や備品が増え続ける

“念のため”の在庫が積み上がると、保管スペースが圧迫されるだけでなく、棚卸や管理の負担も増えます。また、古い在庫があることで、新しいものとの混在や誤使用も起こりやすくなり、先入れ先出し(FIFO, First In First Out)も曖昧になります。

4. 異常に気づきにくくなる

不要なものが多い現場では、汚れ、漏れ、破損、不足といった異常が埋もれてしまいます。
本来であればすぐ見つかるはずの問題が、気づかれずに放置されるリスクがあります。

5. 判断が属人化する

何が必要で何が不要かの基準が曖昧だと、「これは捨ててはいけない気がする」「誰かが使うかもしれない」といった曖昧な判断が積み重なります。
その結果、現場のルールではなく、個人の感覚で物が増減する状態になります。

こうした問題の根っこにあるのが、整理の不徹底です。つまり整理とは、現場の見た目を変える活動ではなく、仕事の流れを阻害している要因を取り除く活動なのです。

整理ができている職場の「ありたい姿」

では、整理ができている職場とは、どのような状態でしょうか。単に物が少ない職場が理想というわけではありません。重要なのは、必要なものが明確で、不要なものが入り込みにくく、たまりにくい状態です。
整理ができている職場には、次のような特徴があります。

  • そこにある物の意味が明確である
  • 「なぜここにあるのか」が説明できないものが放置されていない
  • 必要なものだけが、必要な量だけ置かれている
  • 不要物や滞留物が可視化されている
  • 通路、棚、作業台、机の上に余計なものがない
  • 異常や不足にすぐ気づける
  • 誰が見ても、必要・不要の判断がしやすい

この状態が実現すると、探す時間が減り、作業開始が早くなり、動線も短くなります。
さらに、清掃や点検がしやすくなり、異常の早期発見にもつながります。
整理のゴールは、見た目の整った職場をつくることではありません。仕事がしやすく、迷いが少なく、ムダが発生しにくい状態をつくることです。
中小企業診断士の立場から言えば、整理とは「現場のムダを減らし、限られた経営資源を本来使うべき仕事に振り向けるための基盤整備」と表現できます。

整理の効果は製造業以外でも!業種別の効果

整理は製造業の活動と思われがちですが、実際にはあらゆる業種で効果を発揮します。

製造業

製造現場では、使っていない治具や古い部品、仮置きされた資材が作業スペースを圧迫し、段取りや探し物の時間を増やしているケースが少なくありません。
整理によって不要物を取り除くことで、作業台周辺が使いやすくなり、作業動線が改善して必要な工具や部品へのアクセスも改善されます。その結果、段取り時間の短縮やライン停止リスクの低減にもつながります。

物流・倉庫

物流現場では、滞留品や置き場所が曖昧な荷物が増えると、ピッキングや搬送の効率が落ち、余計な時間が掛かります。整理によって保管の必要性を見直し、不要な滞留を減らすことで、動線が短くなり、誤出荷のリスクも抑えやすくなります。

事務・管理部門

事務部門では、不要な書類や重複データ、使われていないファイルが蓄積しやすく、必要な情報にたどり着くまでに時間がかかります。紙だけでなくデータも整理の対象とすることで、検索性が向上し、業務判断のスピードも上がります。

店舗・サービス業

店舗やサービス現場では、バックヤードに不要物がたまることで補充や準備に手間がかかり、接客の質に影響することがあります。整理によって保管物を絞り込むことで、必要なものをすぐ取り出せる状態がつくられ、現場の余裕にもつながります。

このように整理は、対象がモノであれ書類であれ情報であれ、仕事の流れを妨げている不要物を取り除く活動として共通しています。

現場に定着する「整理」を進める6つの基本ステップ

整理は、号令や根性論だけで進めるとうまくいきません。特に現場では、「全部必要だ」「後で使うかもしれない」という声が出やすいため、進め方に手順が必要です。

STEP
対象範囲を絞る

最初から全社一斉に進めるのではなく、一つの棚、一つの作業台、一つの倉庫区画など、小さく始めるのが効果的です。スモールスタートを心がけましょう。

STEP
現状を見える化する

現場写真を撮り、何が置かれているか、どのくらいあるかを書き出します。
この段階で「不要かもしれないもの」がかなり見えてきます。

STEP
判断基準を決める

使用頻度、保管義務、安全性、保全性、代替可能性などの観点から、必要・不要の基準を決めます。ここが曖昧だと、現場の納得感が得られません。

STEP
分類して処置する

①残すもの、②移動するもの、③保留するもの、④処分するものに分類します。保留品には期限と責任者を設定し、放置を防ぐことが重要です。

STEP
効果を確認する

探す時間、空きスペース、歩行距離、作業準備時間などの変化を確認し、改善前後を見える化します。

STEP
ルール化して定着させる

不要物を持ち込まない、ためこまない、放置しないためのルールをつくります。
整理は一度やって終わりではなく、維持の仕組みまで設計して初めて定着します。

整理の成果は「数字」で示す(定量評価の重要性)

整理は「すっきりした」「片づいた」といった感覚的な評価で終わりがちです。しかし、経営や現場の納得感を高めるためには、できるだけ数値で効果を示すことが有効です。
例えば、次のような指標が使えます。

  • 探し物の時間
  • 作業準備時間
  • 保管スペース使用率
  • 不要物排除率
  • 滞留在庫件数
  • 歩行距離
  • ヒヤリハット件数
  • 書類・データ検索時間

具体的な指標とKPIの事例

指標項目内容測定(定量的なKPIの)事例
探索時間必要な物を探す時間1件あたり平均3分→1分
作業準備時間作業開始までの準備にかかる時間20分→12分
保管スペース使用率棚・倉庫・机などの占有率95%→75%
不要物排除率不要と判断した物の削減割合100点中35点を排除
滞留在庫件数長期滞留している在庫の件数80件→25件
歩行距離作業中の移動距離1日2.5km→1.8km
ヒヤリハット件数接触・転倒・取り違え等の未然事故月6件→月2件
書類検索時間書類・帳票・データの検索時間10分→2分

たとえば、工具を探す時間が1回3分から1分になれば、1日10回探す人で20分の削減です。それが複数人・複数工程に広がれば、効果は小さくありません。整理は地味に見える活動ですが、数字で示すことで、改善活動としての価値が伝わりやすくなります。

「整理」に関するよくある5つの誤解と注意点

整理を進める際には、いくつか誤解されやすいポイントがあります。

注意点1:「整理=捨てること」ではない

整理は、ただ廃棄を進めることではありません。必要なものを活かすために、「不要なものを見極める」活動です。

注意点2:「一度やれば終わり」ではない

整理はイベントではなく、維持管理の仕組みがあって初めて定着します。ルールがなければ、時間とともに元に戻ります。

注意点3:「忙しいから後回し」は逆効果

忙しい現場ほど、探す・迷う・よける・戻すといったムダが大きくなっています。だからこそ、整理の効果が出やすいともいえます。

注意点4:「製造業だけのもの」ではない

整理は、物を扱う現場だけでなく、情報を扱う職場にも有効です。紙もデータも、必要・不要を見極めるという本質は変わりません。

注意点5:「経営者の理解と率先垂範」が成功のカギ

「整理」を現場任せにしては、ものごとは上手く進みません。5S活動の第1ステップとして、経営者が「整理」に真っ向から向き合い、現場で得られた成果を「褒め」ることで積極的に評価する姿勢が重要です。

まとめ:整理は「改善の入口」であり「経営の土台」である

5S活動の第一歩である整理は、単なる片づけではありません。必要なものと不要なものを見極め、不要なものを取り除くことで、現場のムダを見える化し、仕事をしやすくする活動です。

整理ができていない職場では、整頓も清掃も標準化も形だけになりやすく、改善活動そのものが続きにくくなります。一方で、整理ができれば、現場は見えやすくなり、動きやすくなり、異常にも気づきやすくなります。その結果として、生産性、品質、安全、納期対応力の向上にもつながっていきます。

中小企業にとって、時間、スペース、人材、注意力はすべて貴重な経営資源です。整理とは、それらを浪費しないための基本動作であり、現場改善と経営改善をつなぐ重要な活動です。

もし5S活動がうまく機能していないのであれば、まずは1Sである整理に立ち返ってみることをおすすめします。大がかりに始める必要はありません。まずは一つの棚、一つの机、一つの共有スペースからで十分です。
「これは本当に必要か」と問い直すことが、改善の確かな第一歩になります。

「今更5S、それも整理を進めて何になる?」と思われる経営者や現場リーダーの方は多いですが、現場が上手く回り、経営が安定している企業を見ると、5S活動が奏功しているのも事実です。スモールスタートで始めましょう!

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この記事を書いた人

自動車メーカーの調達・購買部門で37年余り培った経験と、中小企業診断士の知見を活かす「生産性向上・原価低減・価格転嫁」の専門家です。三現主義(現場・現物・現実)を重視し、5Sをはじめとする作業環境の整備やムダの排除、自社コストの「見える化」を通じた収益力向上を得意とします。現場の皆様との対話と「気付き」を大切にする伴走支援を行い、製造業を中心とした中小企業の課題解決と発展に貢献します。

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