製造現場で働く皆さんは常に、プロとしての目線で現場を観察し、頭の中で最適なパズルを組み立てるように段取りを考えているはずです。その「現場をより良く、スマートに回したい」という真っ当な正義感こそが、私たちの工場の実力を支えているはずですよね。
前回は「整理(Seiri)×清潔」によって、今日使わないモノを現場からなくしてしまう考え方と方法をお話ししました。そこで生まれた広々としたスペースを、次にどう活かすか。それが今回のテーマである「整頓(Seiton)×清潔」です。
ここで一度、皆さんの職場を思い起こしてみてください。 「置き場所を決めて、ラベルも貼った。なのに、忙しくなると気づけばまた道具がバラバラになっている……」 そんな、まるで“モグラ叩き”のような終わりのない片付けに、正直ちょっと嫌気がさしてるのだと想像しています。
実は、私たちが目指すべき「究極の整頓」とは、こまめに片付ける努力をすることではありません。「一度決めたら、何があっても、誰がやっても、絶対に乱れようがない仕組み」を現場に仕込んでしまうことです。
5S(5S=整理・整頓・清掃・清潔・習慣)を単なる「管理の義務」にするのはもう終わりにしましょう。自分たちの動きをより軽く、素早く効率的で、かっこよくするための「武器」として、戻す努力そのものを不要にする知恵を、チームのみんなで共有していくことが大切です。今回はそんな考え方や具体的に方法について語ります。
今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いくださいませ。
整頓の「モグラ叩き」が現場を疲弊させる理由
「さっき綺麗にしたばかりなのに、もう元通りだ……」
現場の中心になって動く皆さんが、ふと溜め息をつきたくなる瞬間。それは、何度直しても乱れてしまう置き場を、また一人で片付けている時ではないでしょうか。この「乱れては戻す」という繰り返しは、現場のエネルギーをじわじわと奪っていきます。なぜ、私たちの整頓はこれほどまでに体力を消耗させる「モグラ叩き」になってしまうのか。その原因をプロの視点で切り分けてみましょう。
乱れるたびに戻すのは「後始末」であり、生産的な「改善」ではない
まず、私たち現場の人間がハッキリと認識しておきたいのは、「散らかったモノを元に戻す作業」は、残念ながら1円の価値も産まないということです。
後始末(マイナスをゼロに戻す)
乱れた工具を棚に戻し、ラベルの位置に合わせる。これは「本来あるべき姿」に戻しているだけで、製品が一つ増えるわけでも、仕事が楽になるわけでもありません。
改善(ゼロをプラスにする)
「なぜ乱れたのか?」を考え、二度と乱れないような仕掛けを作る。これこそが、私たちの知恵を活かした生産的な仕事です。
「後始末」に追われているうちは、どんなに汗をかいても現場のレベルは上がりません。私たちは掃除屋ではなく、価値を産み出す職人です。だからこそ、戻す努力そのものを手放すための「攻めの整頓」にシフトする必要がある、というわけです。
個人の意識やマナーに頼る整頓は、忙しくなった瞬間に崩壊する
「みんながもっと意識を高く持って、使ったらすぐ戻してくれれば……」
そう思うこともあるかもしれません。しかし、現場の人間として言わせていただければ、「個人の意識」や「マナー」に頼る整頓は、プロのやり方としては少し不安定です。
現場は戦場です。突発的なトラブルが起きたり、納期が迫ってパニックになったりする中で、「ラベルの向きを揃えて戻す」なんて余裕は、誰だってなくなります。そこで「意識が足りない!」と叱咤激励しても、現場には嫌な空気が流れるだけで、根本的な解決にはなりません。
むしろ、「忙しくてパニックになっても、そこに戻すのが一番楽だ」という仕組みになっていないことこそが、本当の課題なのです。私たちの知恵(暗黙知)を道具やレイアウトという「拡張機能」に落とし込み、誰がどんな状況で動いても、自然と整頓された状態が維持される。そんなスマートなハックこそが、今、私たちの現場に求められています。
「究極の整頓」がもたらすビフォーアフター:努力なしで維持される現場
「整頓(置き場所を決めること)」を単なるルールで終わらせず、「清潔(乱れないための仕組み)」を掛け合わせると、現場の景色は一変します。それは、誰かが目を光らせていなくても、自然とあるべき姿に戻っていく、言わば「自律した現場」への進化です。
具体的に、私たちの日常がどう変わるのか。代表的な2つのシーンで、そのビフォーアフターをシミュレーションしてみましょう。
整頓事例1:【工具の置き方】「意識して戻す」から「そこしか収まらない」へ
道具は職人の魂ですが、その「魂」を元の場所へ戻す作業に、余計な精神力を使う必要はありません。
【Before:一般的な整頓】
工具箱の中に仕切りがあり、一応ラベルも貼ってある。「使い終わったら決まった位置に戻そう」と現場の中心になって動く人が声をかけていますが、現実は甘くありません。
急ぎの特急品が入ったり、トラブル対応に追われたりすると、工具は出しっぱなしに。結局、週末に「これじゃダメだよね」と苦笑いしながら、中心人物が一人で片付けている……そんな寂しい光景が繰り返されています。
【After:究極の整頓(整頓×清潔)】
工具の形にくり抜かれた「専用トレイ(姿置き)」や「シャドーボード」を導入します。「そこにしかない、その形しか入らない」という物理的な制限を作ります。
「どこに戻そうかな?」と考えるコンマ数秒の迷いすらゼロになり、パズルをはめるように手が勝手に動きます。もし工具が一つでも欠けていれば、その「穴」が強烈な違和感として飛び込んでくるため、誰でも一瞬で異常に気づけます。もう、誰も注意する必要なんてなくなるんじゃないでしょうか。
整頓事例2:【仕掛品・資材】「空いたから置く」から「ここ以外は置けない」へ
通路がモノで埋まるのは、マナーの問題というより「そこに置けてしまう」ことが原因かもしれません。
【Before:一般的な整頓】
「通路にモノを置かない」というスローガンはありますが、忙しくなると「ちょっとだけなら……」とパレットを一つ置いてしまいます。すると、なし崩し的に二つ、三つとモノが置かれ、いつの間にかフォークリフトがクランク走行を強いられる事態に。
それを戻すたびに「ちゃんとルールを守ろうよ」という声かけが発生し、現場にはどことなく気まずい、嫌な空気が流れてしまいます。
【After:究極の整頓(整頓×清潔)】
単なる白線ではなく、「モノが置かれていない時にしか見えないペイント」や「物理的なガイド」を施します。あるいは「ここから先はフォークリフトが旋回できない」という物理的な枠囲いを作ります。
「ルールだから置かない」のではなく、「枠からはみ出したら次の作業ができなくなる」という仕組みにまで踏み込むことで、努力せずとも最短の動線が維持されます。ルールが「お願い」ではなく、作業をスムーズに進めるための「レール」に変わるわけです。
整頓事例3:【副資材・消耗品】「足りない」「多すぎる」を、五感で感じる仕組みへ
ボルトやグリス、手袋といった消耗品は、切らすと現場が止まるし、多すぎると場所を塞ぐ厄介な存在です。これを「誰かが気づいて発注する」という個人の感覚に頼るのをやめてみましょう。
【Before:一般的な整頓】
棚に段ボール箱が並んでいて、中身が減ってくると「そろそろ頼まなきゃ」と、気づいた人がメモを残したり声をかけたりしています。
しかし、忙しい時に限って「最後の一つ」を誰かが使い切り、いざ使おうとした時に「在庫がない!」とパニックに。慌てて発注しても間に合わず、わざわざホームセンターまで買い走るような、不毛な時間が生まれています。
【After:究極の整頓(整頓×清潔)】
「2ビン方式」や「かんばん方式」を、デジタルではなく物理的な仕掛けで取り入れます。
例えば、2つの箱を前後に並べ、前の箱が空になったら、底に敷いてあった「発注カード」が勝手に現れるようにします。そのカードを回収ポストに入れるだけで発注が完了する仕組みです。
これなら「在庫を数える」という手間も、「切らしたらどうしよう」という不安もいりません。
物理的な仕組みが、私たちの代わりに在庫を番してくれているような状態になり、現場のみんなが安心して自分の作業に没頭できるようになります。
改善を「定着」させるのは、手法ではなく「現場での問いかけ」
どんなに優れたツールや最新の設備を導入しても、それを使うのは私たち「現場の人間」です。改善が一時的なお祭りで終わらず、当たり前の日常として定着するかどうか。その鍵は、便利な道具そのものではなく、作業の合間に私たち仲間同士で交わす「ちょっとした問いかけ」の質にあります。
単に「いい改善ができたね」で終わらせず、その仕組みを研ぎ澄ませていくための、報酬をもらって現場で働くプロとしてのコミュニケーションについて考えてみましょう。
「このやり方に、絶対に乱れない方法を付け加えるとするなら、どんなやり方があるかな?」
せっかく皆で知恵を絞って作った置き場所も、運用が始まれば必ず「想定外」が起きます。だからこそ、新しいルールや置き場を決める際、中心になって動く人が自分自身や仲間に対して、あえて少し厳しめに問いかけてみてほしい言葉があります。
それは、「その工夫で、二度と乱れないと言い切れるのか?」という視点です。
これは誰かを責めるための言葉ではありません。むしろ、「せっかく皆でやった改善を、二度と無駄にしたくないよね」というプロ仲間としてのリスペクトが込められた問いかけです。この視点を持つことで、整頓は「片付け」から「絶対に崩れないシステムの構築」へと進化します。
私たちが現場で投げかけるべき「3つの問い」
具体的に、現場で改善案が出たときや、実際にモノを配置する際に、みんなで確認し合いたいポイントが3つあります。
- 「これ、新人が入ってきた初日でも、間違えようがないしかけかな?」
「教えればわかる」ではなく「教えなくても、そこしかありえない」というレベルを目指します。ベテランの感覚に頼らず、初めて現場に立った人でも迷わず手が動く。そんな「誰にでも優しい現場」こそが、本当に強い職場です。 - 「納期ギリギリでパニックになっても、この場所に戻せるかな?」
現場のリアルは、常に余裕があるわけではありません。手が震えるほど忙しい時、あるいはトラブルで頭がいっぱいの時でも、無意識に体が動いて元に戻せるか。その「極限状態」を想定した仕組みこそが、現場を守る武器になります。 - 「もし乱れたとしたら、仕組みのどこに欠陥があると思う?」
もし置き場が乱れてしまったら、それは「誰かの意識が低かった」せいではなく、「仕組みの設計に穴があった」と考えます。責めるべきはヒトではなく、仕組み。このスタンスを貫くことで、現場のみんなが「もっと良い仕組みにしよう」と前向きに知恵を出せる空気が生まれます。
改善が勝手に進む「評価の空気感」のつくり方
どれだけ「乱れない仕組み」を作っても、それを動かし、磨き続けるのはあなたでなく、現場のみんな=一人ひとりです。改善を一部の人の孤独な戦いにしないためには、職場全体に「あれをやると、自分たちチームの格が上がるんだ」というポジティブな空気感を漂わせることがとても大切なんです。
誰かに言われてやる「やらされ仕事」を、自分たちが主役の「面白い挑戦」に変えるための、空気の作り方を考えてみましょう。
「あいつ、評価されていいな」という感情をエネルギーに変える
人間の感情は、理屈よりも「実際に得をするかどうか」「周りに認められるかどうか」に敏感です。改善に協力的な人をただ「真面目だね」で終わらせず、その知恵を組織として正しく称えることで、周りの仲間にも「次は自分もやってやろう」という前向きな火を灯すことができます。
仕組み化に成功した仲間を「最大級に褒める」
ここで大切なのは、褒め方の中身です。単に「綺麗に片付けてくれてありがとう」と言うだけでは、それは「掃除のお礼」になってしまいます。私たちが称えるべきは、そこではありません。
- 「二度と乱れない仕組み」を考えた知恵を評価する
「よく片付けたね」ではなく、「このトレイ、忙しい時でも絶対間違えないように工夫したんだって?その発想、まさにプロの発想だね!」と、仕組みを作ったプロセスと知恵を最大級に褒めちぎってください。「片付けの労働」ではなく「仕組みを作る創造的な仕事」、まさにものづくりのプロとして評価されることで、本人のプライドは満たされ、周囲も「そうか、頭を使って楽にするのが正義なんだ」と理解します。
「これを進めれば現場のためになる」という空気の醸成
改善活動を、こっそり裏でやるものではなく、職場の一番明るい場所で行われる「価値ある活動」として位置づけましょう。
- 評価をオープンにする
改善した場所には、ビフォーアフターの写真と一緒に、工夫した人の名前を掲示する。朝礼で「今回のあの仕掛け、本当に助かってるよ」と仲間同士で声を掛け合う。こうした小さな積み重ねが、「改善活動=自分たちの価値を高めるもの」という認識を植え付けていきます。 - 「改善はカッコいい」という文化を作る
「面倒くさいことを仕組みで解決して、スマートに仕事を回すのが一番カッコいい」。そんな空気が一度出来上がれば、リーダーが細かく指示を出さなくても、現場のあちこちで自発的な「究極の整頓」が動き出します。自分たちの職場を自分たちの手で最高のものに作り替えていく。その手応えこそが、現場で働く私たちにとっての最高のご褒美になるはずです。
組織で「究極の整頓」を今すぐスタートさせる4ステップ
「よし、うちの現場も本気で変えてみよう」と思ったとき、一番大切なのは現場のみんなの「やる気」を削がない進め方です。上から押し付けるのではなく、みんなで知恵を出し合って「自分たちの職場をスマートにするための作戦」として動いていきましょう。
今日から始められる、具体的な4つのステップを紹介します。
ステップ1:ゴールの再定義「絶対に、何があっても乱れない職場」
まずは現場のみんなに、今回の作戦の新しいゴールを伝えましょう。
「これからは、乱れた場所を元に戻す努力はやめよう。その代わりに、どんなに忙しくても、誰がやっても、絶対に乱れようがない仕組みを考え抜こう」と宣言するのです。
ただ「綺麗にする」ことを目指すのではなく、「戻す手間そのものをゼロにする知恵」だけを正しく評価する。この新しいルールを共有することで、みんなの意識が「労働」から「工夫」へと一気に切り替わります。
ステップ2:現場のみんなと共に「乱れないしかけ」を設計する
仕組みを考えるとき、中心になって動く人が一人で決めてはいけません。実際にその場所で毎日手を動かしている仲間に、「どうすれば、君たちがもっと楽に、考えなくても維持できるようになるかな?」と問いかけてみてください。
現場を一番知っているのは、そこで汗を流しているメンバーのはずです。
「ここにガイドがあれば迷わない」
「この箱が二つあれば在庫切れに気づける」
といった、現場ならではのリアルなアイデアを形にしていく。
自分たちで作った「しかけ」だからこそ、愛着も湧き、維持しようという気持ちが自然と生まれます。
ステップ3:改善できた仲間を「見える形」で最大級に評価する
良い仕組みが一つでも形になったら、それを職場全体の「誇り」にしましょう。
「この工夫、本当にカッコいいよね!」
「おかげでみんなの動きがスムーズになったよ」
という声を、朝礼や掲示板を使ってオープンに伝えます。
ビフォーアフターの写真を貼り、工夫した人の名前を載せるのもいいでしょう。
「改善をすれば、みんなに感謝され、自分たち=チームの価値が上がる」という空気感を作ることができれば、改善は一部の活動ではなく、職場の「文化」へと育っていきます。
ステップ4:日常の問いかけで「乱れない文化」を当たり前にする
一度仕組みができあがって綺麗な状態が続くと、つい安心して関心が薄れてしまいがちです。そこで、あえて「綺麗な状態」を見て、こう問いかけ続けてみてください。
「なぜ、ここは忙しくてもずっと綺麗なままなんだっけ?」
「この仕組みのどこが、みんなの助けになっているのかな?」
綺麗なことを褒めるのではなく、その裏にある「仕組み(知恵)」に関心を持ち続けること。
この問いかけを繰り返すことで、現場には「二度と戻さない(未然防止)」というプロのプライドが根付き、二度と元の使いにくい現場に戻ることはなくなります。
まとめ:整頓を「文化」にする最後の一手
「決めた場所に、決まった通りに戻す」。言葉にすれば簡単ですが、それを毎日、どんなに忙しい時でもやり遂げるのは並大抵のことではありません。私たちが目指すべき「究極の整頓」とは、そんな個人の頑張りや根性に頼るのをやめ、「物理的な仕組み」と、それを称え合う「職場の空気」を掛け合わせることにあります。
- 物理的な仕組み: 迷う余地がない、そこ以外にはモノが入らない、という「しかけ」を現場に組み込む。
- 称え合う空気: 戻したことを褒めるのではなく、戻す手間を省いた「知恵」をプロとしてリスペクトする。
この二つが揃ったとき、整頓は「やらされる管理項目」から、自分たちの仕事をスマートにするための「当たり前の文化」へと変わります。乱れるたびに戻す「後始末」から卒業し、二度と乱れない「攻めの仕組み作り」へ。私たちの知恵を、もっと現場を面白くするために使っていきましょう。
明日からできる「最初の一歩」
まずは明日、現場の中で「ここ、いつも乱れるんだよな……」という、一番の悩みどころに足を運んでみてください。そして、そこで実際に手を動かしている仲間に、こう声をかけてみてほしいのです。
「どうすれば、あなたが一生懸命頑張らなくても、ここが乱れなくなるかな? 一緒に知恵を絞らせてよ」
改善は、そんなプロ同士のちょっとした会話から始まります。一人で抱え込まず、現場のみんなで「最高の仕組み」を作り上げていく。その一歩が、数ヶ月後のあなたの現場を、見違えるほど軽やかで誇らしい場所に変えてくれるはずです。


