現場の第一線で動いている皆さんは、きっと無意識のうちに「どうすればもっと段取りが良くなるか」「どう動けば無駄がないか」と、パズルを組み替えるように頭の中でシミュレーションを繰り返しているはずです。その「現場の知恵」こそが、工場の実力を支える一番の武器ですよね。
しかし、ふと立ち止まってみると、こんな悩みはありませんか? 「5S活動(5S=整理・整頓・清掃・清潔・習慣)を真面目にやっているのに、なぜか忙しさが変わらない……」
もしそう感じているなら、それは皆さんの努力が足りないのではなく、5S活動に取り組む視点が少しだけズレているだけのかもしれません。実は、多くの現場が「清掃(掃き掃除、拭き掃除)」や「整頓(きれいに並べること)」に力を入れる一方で、一番の肝である「整理(今使わないモノを捨てる・どかすこと)」を、どこか遠慮してしまっているのです。
もし、今日の作業に必要ないモノが視界から一切消え、100%「今の仕事」だけに集中できる環境が手に入るとしたら、現場の動きはどう変わるでしょうか?
そこで今回は、明日からチームのみんなで「お、今日の現場は動きやすいな」と実感できるためのヒントを、一緒に探っていきたいと思います。
今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いくださいませ。
なぜあなたの工場の5Sは「利益」に直結しないのか?
「毎日掃除もしているし、棚の工具もきれいに並べている。それなのに、ちっとも現場が楽にならないし、利益が出ている実感がわかない……」
そんな風に感じているなら、それは皆さんの努力不足ではなく、5Sの「本当の力」を使い切れていないだけかもしれません。実は、多くの現場で「5Sは単なるお片付け」という誤解が生まれてしまっています。私たちがプロとして、よりスマートに、より確実に稼ぐ現場を作るために、まずはその「違和感」の正体を突き止めてみましょう。
「5S=掃除・整列」という大きな落とし穴
私たちの現場でよく見かける光景に、「要らないモノまで綺麗に並べてしまう」というものがあります。例えば、もう数年も使っていない古い治具や、型遅れの製品のスペアパーツ。これらを棚にピシッと並べて、「よし、5S完了!」としていないでしょうか。
実はこれ、現場の人間からすると、一番「もったいない」時間の使い方なんです。
いくら綺麗に並んでいても、使わないモノは「景色」の一部になり、いざ本当に必要なモノを取り出すときには「邪魔な障害物」に変わります。「整頓(並べること)」の前に、徹底的に「整理(捨てる・どかすこと)」をやり抜く。 この順番を間違えると、5Sはただの「片付け作業」という負担になり、本来の目的である「仕事を楽にするための武器」にはなってくれません。
モノが「ある」こと自体が、私たちの利益を削っている
現場にモノが溢れていると、私たちが意識しないうちに、大切の時間と体力が削り取られていきます。これを「隠れたコスト」と呼びますが、具体的には3つの「泥棒」が現場に潜んでいます。
- 検索コスト(探す無駄): 10個の中から1個を探すのと、3個の中から1個を取るのでは、手の動きの迷いが違います。この「コンマ数秒」の迷いが、一日の作業リズムを崩す原因になります。
- 移動・回避コスト(避ける無駄): 通路に置かれた「いつか使うモノ」を避けて歩く、奥にある治具を取るために手前のモノをどかす。こうした「加工に関係ない動き」は、プロの仕事とは言えません。
- 管理コスト(守る無駄): モノがあれば、それを汚さないように掃除し、棚卸しで数えなければなりません。「使わないモノ」のために、私たちの貴重な労力が使われているのです。
「今日使わないモノ」を現場からゼロにする。これは決して「ケチ」になろうという話ではありません。私たちの技術や知恵を、100%製品づくりという「価値」にぶつけるための、極めて合理的な戦略なのです。
「今日使うモノ以外、何もない」工場がもたらす3つの劇的変化
私たちの現場には、いつの間にか「風景」として溶け込んでしまっているモノがたくさんあります。数ヶ月に一度しか使わない工具、いつか使うだろうと取ってある端材、そして「予備」という名の在庫。
これらを勇気を持って取り除き、「今日使うモノ以外、何ひとつ存在しない」という究極の状態を作ったとき、現場の景色はどう変わるのでしょうか。職人の皆さんが、よりスマートに、そして気持ちよく腕を振るうための「3つの劇的変化」をシミュレーションしてみましょう。
1. 【道具・治具】探す「迷い」が消え、職人の思考が研ぎ澄まされる
道具は、私たちの技術を製品へと伝える大切な「手の延長」です。しかし、その周りに余計なモノがあるだけで、道具と私たちの手の間の「つながり」は驚くほど鈍くなってしまいます。
【Before:不必要なモノに囲まれた現場】
- 作業台の引き出しや工具立てには、1年に一度しか使わない「特殊レンチ」や、すでに型落ちした設備の「古い治具」が混在しているのが当たり前。
- 必要なスパナを一つ取り出す際、他の不要な道具が邪魔で「どかす」「よける」といった余計な動作がどうしても発生します。
- そのわずか数秒の停滞が、職人として一番大切な「集中力のリズム」を分断し、無意識のうちに精神的な疲れを蓄積させています。
【After:究極の整理後】
- 作業台の上には、「今日、その工程で使う最小限の道具」以外、何ひとつ存在しなくなります。
- 「どれを使うか」と判断する脳への負荷がゼロになり、意識しなくても手が吸い込まれるように必要な道具へと伸びます。
- 思考と動作が完全に一致し、まるで身体の一部を動かすような淀みない作業が可能になります。この「迷いのないリズム」こそが、あなたのものづくりの技をさらに上の次元へと引き上げるのです。
2. 【動線・視界】「避ける」「回り込む」が消え、安全と余裕が手に入る
現場の「歩きやすさ」は、作業のスピードだけでなく、私たちの心の余裕に直結します。毎日当たり前のように避けて通っているそのパレットやコンテナが、実は私たちの体力を少しずつ奪っているのかもしれません。
【Before:不必要なモノに囲まれた現場】
- 常に足元にコンテナや端材が転がっており、目的地まで「クランク状」にカクカクと歩くのが当たり前の文化になっています。
- 「いつか使う」資材が高く積み上げられているせいで、フォークリフトの死角が増え、歩くたびに背後に神経を尖らせなければなりません。
- こうした「常に周囲を警戒して歩く」という状態は、私たちが自覚している以上に精神的な疲労を蓄積させ、一日の終わりのどっとした疲れの原因になります。
【After:究極の整理後】
- 「通路にモノがある」という状態が物理的にゼロになります。目的地まで、最短の直線距離を迷いなく、そして安全に歩けます。
- 視界を遮っていた「モノの壁」がなくなることで、工場の端から端までがスッと見渡せるようになります。
- 遠くの仲間の動きや、設備のちょっとした変化にも瞬時に気づける「透明性の高い現場」へと進化します。この「見通しの良さ」が、現場全体の安心感と、プロとしての余裕を生み出してくれるのです。
3. 【仕掛品・資材】工場の「床」が、コストを産む場所から利益を産む場所に変わる
現場の「床」は、本来私たちが価値を生み出すための大切なステージです。しかし、いつの間にかそこが「モノを置くための場所」になってはいないでしょうか。床面積の使い方が変わるだけで、工場の稼ぐ力は劇的に変わります。
【Before:不必要なモノに囲まれた現場】
- 「万が一の欠品が怖い」という不安から、来週着工する予定の資材や、行き場を失った先週の仕掛品パレットが通路脇を占拠しています。
- 工場全体が「モノの倉庫」のようになってしまい、私たちは狭い隙間で体を縮めながら検品や組み立てを行うことを強いられています。
- 時には、どうしても必要なモノが「今は使わないモノ」の奥に埋もれてしまい、一旦それらをどかさないと作業が始められないことも。この「積み替え」や「移動」という不毛な作業、そして溢れたモノを保管するための余計なスペース代が、我々が本来得るべき利益をじわじわと削り取っているのが現実です。
【After:究極の整理後】
- 床には「今日流れる分」の仕掛品以外、何ひとつ置かれません。
- 視界を遮っていたパレットの山が消えると、そこには想像以上に広大な「空きスペース」が出現します。
- そのスペースは、「最新設備の導入」や「もっと体が楽になる作業動線」へと転換できます。同じ建屋、同じ床面積でありながら、工場の生産能力が数倍に跳ね上がる可能性が生まれるのです。この「余裕が生む次の可能性」は、実際にモノをゼロにしてみた現場の人間しか味わえない、最高のご褒美と言えるでしょう。
トヨタ生産方式は徹底的なムダ排除を実現するために生み出された
私たちが今日から取り組む「整理」の先には、世界中が手本にしている一つの完成形があります。それが「トヨタ生産方式」です。少し難しく聞こえるかもしれませんが、その本質は私たち現場の人間にとって、非常に合理的で頼もしい考え方なんです。
「必要なものを、必要な時に、必要な分だけ」
トヨタ生産方式の代名詞とも言える「ジャスト・イン・タイム」は、まさに今回お話ししている「不必要なモノを現場に置かない」という考え方を究極まで突き詰めたものです。
なぜ世界中の工場がこれを真似するのか。それは、仕掛品や資材を最小限に絞り込むことが、結果として私たち現場の動きを一番軽くし、ミスを減らし、確実な利益を生むことを証明したからです。
隠れた「ムダ」というコストを削ぎ落とす
彼らが徹底的に嫌うのは、製品の価値に繋がらない「ムダ」です。
- 重いパレットを何度も積み替える手間
- モノを運ぶためだけに増やしたフォークリフトの維持費
- 使わないモノを置いておくための倉庫代やスペース賃料
これらはすべて、本来なら私たちの給料や新しい工具の購入費用に充てられるはずの「利益」を削っているものです。トヨタ生産方式は、こうした目に見えにくいコストを独自の仕組みで排除し、現場の力を100%引き出すために磨き上げられてきました。
すべては「5Sの整理」から始まる
「いきなりそんな高度な仕組みは無理だよ」と思うかもしれません。でも、安心してください。世界一と言われる彼らも、一番大切にしているのは「5Sの整理(Seiri=要るモノと要らないモノを分け、要らないモノを捨てること)」という基本中の基本の考え方と実践です。
まずは自分たちの足元から「今日使わないモノ」を排除する。その小さな一歩が、世界に通用する強い現場、そして私たちが誇りを持ってスマートに働ける職場を作るための、最短ルートになるのです。
「不要なモノを発生させない」整理×清潔の思考法
「一度きれいにしても、いつの間にか元に戻ってしまう……」
そんな悩みを持つ現場は少なくありません。リバウンドを防ぐためには、気合いや根性に頼るのではなく、モノを物理的にコントロールする「仕組み」を味方につけるのが一番の近道です。
「いつか使う」は「二度と使わない」と同じ
現場で一番手強い敵は、誰の心の中にもある「いつか使うかもしれない」という言葉です。
しかし、現場のスペースは有限。今この瞬間の「付加価値」を生み出していないモノは、どんなに高価な治具であっても、今の私たちにとっては「無駄」でしかありません。
- 整理の基準を「期間(今日使うか)」に絞る勇気:「1年以内に使うか」ではなく、もっとシビアに「今日使うか」で判断してみてください。今日使わないモノを作業台からバックヤードへ移動させる。たったこれだけで、私たちの頭の中のノイズは消え、目の前の加工に100%集中できる環境が整います。
【具体的手順】赤札作戦による「要・不要」の強制選別
感情に頼ると「もったいない」という気持ちに負けてしまいます。そこで、「赤札」というツールに判断を委ねましょう。
- 赤札を貼る: 少しでも「これ、最近使ってないな」と思うモノに、目立つ赤い札を貼ります。これは「捨てる宣告」ではなく、「本当に必要かみんなで考えよう」というサインです。
- 猶予期間を設ける: 例えば「1週間」と決め、その間に一度も使わなかったモノは、有無を言わさず現場から撤去します。
- 判断の見える化: 赤札があることで、「誰かが使っているかもしれないから捨てられない」という遠慮がなくなり、チーム全体で納得感を持って整理を進められます。
【具体的手順】「清潔」を予防保守として捉え直す
5Sにおける「清潔」(整理・整頓・清掃を維持すること)は、単なる美観の問題ではありません。私たちはこれを、現場の「予防保守」として捉え直すべきです。
- ゴミを出さない、汚れを放置しない仕組み:毎日掃除をするよりも「最初から汚れない工夫」の方がずっとスマートです。例えば、切り粉が散らばらないようなカバーを自作したり、油漏れをセンサーで検知したり。整理された状態を「当たり前」にするためのしかけ作りこそが、ベテランの腕の見せ所です。
究極の状態を維持する「先入れ先出し」の徹底
せっかく整理した現場を維持するために、資材と仕掛品の「量」を物理的に縛るルールを作りましょう。
アイテム別:資材の管理
「足りなくなると困るから」と余計に発注するのは、現場のスペースを食いつぶす「隠れた借金」です。
- 最大・最小の定義: 棚にテープを貼り、「ここを越えたら過剰(異常)」「ここまで減ったら発注」というラインを可視化します。
- 異常の検知: そのラインを越えた瞬間に「何かおかしいぞ」と全員が気づけるようにすることで、無意識の溜め込みを防ぎます。
アイテム別:仕掛品の管理
工程の間に仕掛品が溜まるのは、現場の血流が滞っている証拠です。
- 置き場を物理的に制限する: 例えば、工程間のパレット置き場を「2つ分」だけ白線で囲います。
- ラインを止める覚悟: もしその枠から溢れたら、無理に作業を続けず、一度手を止めて前後のバランスを調整します。これが、結果として最短で製品を完成させる「急がば回れ」の極意です。
【独自視点】現場の「もったいない」という反発をどう乗り越えるか
モノを大切にする職人の皆さんだからこそ、「捨てる」ことへの抵抗感があるのは当然です。その「正義感」を否定せず、新しい方向へ向ける工夫が必要です。
捨てることが目的ではなく「時間を創り出す」ことが目的
「モノを捨てる」のではなく、「自分たちの自由な時間を創り出す」のだと定義を変えてみましょう。
- メリットの具体化: 「この古い棚をどかせば、ここに最新の計測器が置ける。そうすれば、いちいち検査室まで歩かなくて済むから楽になるよね」といった、現場のみんなが直接得をする「未来」を共有します。
- 責任を現場に負わせない文化: 「捨てた後に必要になったらどうするんだ!」という不安を解消するのは、現場の中心になって動く人たちの役目です。「捨てて困ったら、それは判断した自分たちの責任。現場のせいにはしない」という姿勢を示すことで、みんなが安心して整理に取り組めるようになります。
捨てる痛みは一瞬ですが、それによって得られる「動きやすい現場」という恩恵は、これから先ずっと続いていくのです。
組織で「究極の整理」を今すぐスタートさせる4ステップ
理屈はわかっていても、いざ一人で始めようとすると「隣のラインのモノに手を出していいのか」「後で怒られないか」と不安になるものです。整理は、個人の片付けではなく「チームの作戦」として進めるのが一番スムーズです。
現場の仲間と一緒に、今日から動き出せる4つのステップを確認していきましょう。
ステップ1:まずは「整理」のゴールをみんなで共有する
まずは現場のみんなで集まり、今回の作戦の目的をハッキリさせましょう。
ここで大切なのは、整理を「掃除の延長」として語らないことです。「不必要なモノがいっさいない職場、つまり今この瞬間の仕事に100%集中できる環境をゼロからつくることが目的だ」と、ゴールの認識を一つにします。「綺麗にする」のではなく、徹底的に「ゼロにする」。この共通の物差しを持つことが、迷いをなくす第一歩になります。
ステップ2:自分たちだけの「判断ルール」を相談して決める
誰かに指示されて動くのではなく、自分たちで「何が要るか」の基準を話し合って決めます。
「今日使うモノ以外は、一旦すべて現場から出す」といった具体的なルールを自分たちの手で設定しましょう。こうすることで、人によって「まだ使える」「いつか使う」と判断がバラつくのを防ぎ、組織としての強い動きが生まれます。自分たちで決めたルールだからこそ、納得感を持って進められるはずです。
ステップ3:モデルエリアで「圧倒的な動きやすさ」を体感する
いきなり工場全体を変えるのは大変です。まずは特定のラインや作業台を「モデルエリア」として選び、そこだけ完璧に「今日使うモノ以外ゼロ」を実行してみましょう。
そこで実際に作業をしてみて、「お、いつもより体が軽いな」「探す時間がなくなったぞ」という圧倒的な仕事のしやすさを肌で感じることが大切です。この成功体験こそが、「整理は自分たちのためにやるものだ」という確信に変わり、チーム全体の熱量を高めてくれます。
ステップ4:「戻せない仕組み」をしかけて未然に防ぐ
一度片付いても、放っておけば必ず不要なモノはまた集まってきます。そこで、リバウンドを防ぐための「しかけ」を整えましょう。
「なぜ不必要なモノが生まれたのか?」を冷静に振り返ってみます。過剰な発注、不良品の放置、あるいは置き場所が曖昧だったから……といった原因を分析し、ルールを微調整します。これが5Sで言うところの「清潔(整理の状態を保つ)」です。二度と元の使いにくい現場に戻さない仕組みを作ることで、私たちの職場は常に最高な状態であり続けます。
まとめ:究極の5S「整理×清潔」とは?
今回お話ししてきた「究極の整理」、そしてそれを維持するための「清潔」。これらは決して、会社から押し付けられる「お掃除」の延長ではありません。私たち現場の人間が、本来のプロフェッショナルな仕事に没頭し、「本当に必要なものだけに100%の力と時間を注げる環境」を手に入れるための、極めてまっとうな戦略です。
整理の本質は、ただモノを捨てることではなく、私たちの動きを鈍らせる「ノイズ」を消し去ること。そして清潔とは、その最高の状態を仕組みで守り抜くことです。「今日使わないモノ」が視界から消えたとき、現場には驚くほどのリズムと余裕が生まれます。その余裕こそが、新しい工夫を生み、さらに強い現場を作るための原動力になるのです。
明日、始業前の5分間でできること
いきなり工場全体を変える必要はありません。まずは自分たちの「城」である足元から、少しずつ手を入れてみませんか?
まずは明日、始業前の5分間だけでいいので、自分の作業スペースに「今日使わないモノ」が紛れ込んでいないか確認してみてください。もし見つけたら、それを一つだけバックヤードへ移動させてみましょう。
そういった小さな積み重ねが、明日のあなたの動きは今日よりも少し、軽やかにするはずです。その「ちょっとした動きやすさ」をチームのみんなで積み重ねて、どこよりもスマートで、どこよりも稼げる現場を一緒に作っていきましょう。


