【2025年版】工数試算システム徹底比較|製造業の見積もり自動化を実現する4タイプと失敗しない選び方

【2025年版】工数試算システム徹底比較|製造業の見積もり自動化を実現する4タイプと失敗しない選び方

「この部品、大至急で見積もってくれ!」

営業担当から急かされる、複雑な形状が描かれた一枚の図面。あなたの頭には、特定のベテラン社員の顔が思い浮かんでいませんか?

「これは、田中さんじゃないと分からんな…」

事務所の誰もがそう思い、全ての期待が特定の誰かに集中する。長年の経験と、門外不出のExcelファイルを駆使して叩き出される見積もりは、確かに正確かもしれません。しかし、もしその田中さんが急に休んでしまったら?数年後に退職してしまったら?そのとき、会社の「見積もり」という生命線は、一気に止まってしまう危険をはらんでいます。

お客様を待たせている間の焦り。なんとか出した見積もりが、いざ作ってみたら赤字だったときの悔しさ。そして、あの人の頭の中にしかないノウハウが、日に日に失われていくことへの静かな危機感。これらは決して他人事ではなく、日本の多くの製造現場が抱える、共通の悩みではないでしょうか。

もし、その「ベテランの勘」を、誰でも使える「会社の仕組み」に変えられるとしたら。もし、新人でも、数時間かかっていた見積もりをたった数分で出せるとしたら。あなたの会社は、もっと多くのチャンスを掴めるはずです。

そこで今回は、そんな未来を実現するための「工数試算システム」について、どこよりも分かりやすく解説するために書きました。難しい専門用語は使いません。あなたの現場で明日から使える知識として、最適なシステムの選び方から、失敗しない導入の進め方まで、順を追って丁寧にご紹介します。さあ、属人化という長年の課題に、一緒に立ち向かっていきましょう。

それでは今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いくださいませ。

目次

なぜ今、製造業で「工数試算の自動化」が急務なのか?

さきほどお話しした「田中さん」のようなベテラン頼りの見積もり。実は、その裏側には会社の成長を阻む、見過ごせない4つの大きな課題が潜んでいます。それは、まるで時限爆弾のように、静かに会社の体力を蝕んでいく問題です。一つひとつ、あなたの現場と照らし合わせながら見ていきましょう。

課題1:深刻な「属人化」問題:ベテラン頼りの見積もりとそのリスク

あなたの会社にも、そんな「神様」のような存在がいませんか?その人がいなければ、見積もりが出せない。加工方法が決まらない。まるで、その人の頭の中だけで工場が動いているかのような状態、それが「属人化」です。これは一見、頼りになるベテランがいる良い状態に見えるかもしれません。しかし、もしその人が他の急な仕事で手一杯だったら?見積もりは後回しになり、お客様を待たせることになります。これでは、ビジネスチャンスを逃しているのと同じです。そして最大のリスクは、その人がいつかいなくなる日、つまり退職です。長年培われた貴重なノウハウは、感謝の言葉と共に、会社の外へと持ち去られてしまうのです。

課題2:見積もり精度のばらつき:どんぶり勘定が引き起こす利益の損失

「あの時Aさんが出した見積もりと、今日Bさんが出した見積もり。同じような部品なのに、なぜか金額が違う…。」そんな経験はありませんか?担当者の経験や、その日のコンディションによって見積もりの金額がブレてしまう。これは笑い話では済みません。強気な見積もりを出し過ぎて失注すれば売上はゼロ。逆に、弱気な見積もりで安く受注してしまえば、いくら現場が頑張って作っても利益は出ず、赤字になってしまいます。毎回がギャンブルのような見積もりでは、安定した経営は望めません。「うちは大丈夫」と思っていても、実は気づかぬうちに、この”どんぶり勘定”が会社の利益を少しずつ削り取っているのかもしれないのです。

課題3:市場のスピード感への遅れ:相見積もりで勝てない根本原因

お客様は、もう何日も待ってはくれません。「すぐに見積もりが欲しい」という依頼に対し、他社が数時間で回答する中、あなたの会社が「ベテランに確認して2日後に…」では、勝負の土俵にすら上がれていないのが現実です。今の時代、お客様は回答の速さで会社の「本気度」や「対応力」を判断します。たとえ技術力に自信があっても、スピードで負けてしまえば、その実力を見せる機会すら与えられないのです。相見積もりで連敗が続いているとしたら、その原因は価格や技術だけでなく、単純に「遅い」ことにあるのかもしれません。

課題4:技術伝承の断絶:失われゆく暗黙知とノウハウ

ベテランの頭の中にある「この形状なら、この機械でこう加工するのが一番早い」「この材質は、これくらい歪みが出るから、少し余裕を見ておこう」といった”感覚”や”コツ”。これらは会社の貴重な財産のはずですが、マニュアルに書き残すのはとても難しいですよね。これが「暗黙知」です。若手社員が横で見ていても、その思考プロセスまではなかなか盗めません。結果として、ベテランが退職すると共に、その技術は失われ、会社の技術レベルは少しずつ低下していく。工数試算の自動化は、こうした目に見えない貴重な財産を「データ」という形に変え、会社の中に永続的に蓄積していくための、最も確実な手段でもあるのです。

工数管理の常識が変わる。「測定」から「予測」へのパラダイムシフト

先ほど挙げた4つの課題。実はこれらはすべて、私たちの「工数」に対する考え方が古くなってしまっている、という一つの根本原因に繋がっています。私たちは、まるでバックミラーだけを見て運転するような、危なっかしいやり方を続けてきたのかもしれません。ここでは、これからの時代に必須となる、新しい考え方へのシフトについてお話しします。

旧来の工数管理:実績を追いかける「遡及的追跡」アプローチの限界

あなたの工場では、毎日作業日報を書いてもらっていませんか?作業が終わった後に、「この部品の加工には2時間かかった」と記録する。これが、これまで当たり前だった工数管理の方法です。つまり、実際にかかった時間を後から「測定」し、追いかけるやり方です。

もちろん、この方法は無駄ではありません。給与計算をしたり、「思ったより時間がかかったな」と反省したりするには役立ちます。しかし、このやり方では、お客様から「この新しい部品、いくらでできる?」と聞かれたとき、正確な答えをすぐに出すことはできません。なぜなら、すべての情報が「過去形」だからです。これは、料理を食べ終わった後に「さて、今の料理のカロリーは何キロカロリーだったでしょう?」と計算しているようなもの。次の食事をヘルシーにするための参考にはなっても、今食べた料理のカロリーを変えることはできないのです。

これからの工数試算:データを活用する「予測的試算」アプローチの優位性

では、「これからの工数試算」とは、一体どういうものでしょうか。それは、作業を始める前に、その仕事にかかる時間を高い精度で「予測」するアプローチです。

これは、車のカーナビを想像していただくと非常に分かりやすいです。目的地を入力すると、カーナビは交通渋滞や道路の状況を計算して、「〇時〇分に到着します」と教えてくれますよね。まだ走ってもいない未来の時間を、データに基づいて正確に予測してくれる。これからの工数試算は、まさにこれと同じ考え方です。

お客様からいただいた図面やデータをシステムに入れると、まるでカーナビが到着時間を予測するように、「この部品の加工には1時間15分かかります」と、未来の作業時間をピタリと弾き出す。これが実現できれば、どうでしょう?見積もりは一瞬で出せますし、その精度は個人の経験や勘に左右されません。データという客観的な根拠があるので、誰がやっても同じ結果になります。この「予測」こそが、先ほど挙げた4つの課題をまとめて解決する、唯一の鍵なのです。

【徹底比較】工数試算システムの全4タイプ!特徴と得意分野を解説

さて、「予測」がいかに強力な武器になるか、お分かりいただけたかと思います。「じゃあ、具体的にどんなシステムがあるんだ?」という声が聞こえてきそうですね。ご安心ください。ここからは、現在主流となっている4つのタイプの工数試算システムについて、一つひとつ丁寧に、その個性と得意技を解説していきます。あなたの工場に一番しっくりくるのはどのタイプか、じっくり見定めていきましょう。

タイプ1:IEベースのシステム

まずご紹介するのは、最も歴史が古く、全ての工数管理の「基本のキ」とも言える、地に足の着いたアプローチです。

概要:生産工学の原則に基づく、堅実な標準時間算出アプローチ

これは、料理で言うところの「秘伝のレシピ」を科学的に作り上げるようなものです。「ネジを掴むのに0.5秒」「ドライバーを当てるのに0.3秒」といったように、人の作業をストップウォッチや映像で徹底的に分析し、誰がやっても公平な「標準時間」を定めていきます。派手さはありませんが、製造業の生産性を支えてきた、非常に信頼性の高い考え方に基づいています。

得意な工程:繰り返し作業が多い量産ラインの組立など

同じ製品を毎日、何百個、何千個と作り続ける。そんな繰り返し作業の多い組立ラインなどで、絶大な効果を発揮します。「この作業は本来15秒で終わるはずだ」という絶対的な基準ができるため、作業の習熟度を測ったり、改善の目標を立てたりするのに最適です。

メリット・デメリット

この方法の素晴らしい点は、一度決めた標準時間が、現場の公平な「ものさし」になることです。作業のムダを見つけやすくなり、生産計画も格段に立てやすくなります。一方で、このものさしを作るには、専門知識を持った人が時間をかけて分析する必要があるのが少し大変なところ。毎回作るものが違う「一品一様」の製品ばかりだと、少し使いづらいかもしれません。

タイプ2:3Dシミュレーション(デジタルツイン)システム

次は、一気に未来感が増す、SF映画のような世界を想像してみてください。

概要:設計データから仮想空間で作業を検証する最先端アプローチ

これは、いわば「工場のフライトシミュレーター」です。まだ現実には存在しない製品や生産ラインを、コンピューターの中にそっくりそのまま再現します。そして、その仮想空間の中で、CGのアバター作業員が実際に製品を組み立ててくれるのです。

得意な工程:多部品で複雑な製品の組立、新製品導入(NPI)

何百もの部品で構成される複雑な装置や、まったく新しい製品を初めて作るときに、最高のパートナーになります。「このボルト、工具が入らなくて締められないぞ」「この部品の取り付け順序だと、作業者が無理な姿勢になるな」といった問題を、実際にモノを作る前に発見し、解決できてしまうのです。

メリッと・デメリット

最大のメリットは、現実世界での手戻りや失敗を未然に防げること。試作品を何度も作り直すコストや時間を、大幅に削減できます。ただし、仮想空間を作るためには、元になる精密な3D設計データが不可欠です。また、システム自体が比較的高価で、使いこなすには少し訓練が必要になる点は、心に留めておく必要があります。

タイプ3:AI搭載の見積もりシステム

さて、最近ニュースでよく耳にする「AI」。これが、製造業の見積もりを根底から変えようとしています。

概要:図面と過去データからAIが自動で見積もる高速アプローチ

このシステムは、あなたの会社が過去に作ってきた、全ての製品の図面と作業実績を記憶した、超ベテランの新人さんみたいなものです。新しい図面を見せると、AIがその形状や材質を瞬時に理解し、過去の膨大なデータの中から似たものを探し出し、「これは、あの時の部品と似ているから、加工時間は約25分ですね」と、一瞬で見積もりを出してくれます。

得意な工程:多品種少量生産の部品加工(板金、切削、プレスなど)

毎回違う形状の部品を加工する、いわゆる「多品種少量生産」の現場では、まさに救世主となります。これまでベテランが数時間かけていた見積もり作業が、数分、場合によっては数秒で終わるのですから、そのインパクトは計り知れません。

メリット・デメリット

なんといっても、その圧倒的なスピードが魅力です。見積もり業務から解放され、もっと創造的な仕事に時間を使えるようになります。AIは学習するほど賢くなるので、使えば使うほど精度が上がっていくのも嬉しい点です。ただし、AIに学習させるための「過去の正しいデータ」がある程度必要になります。データが整理されていなかったり、間違っていたりすると、AIも混乱してしまうので注意が必要です。

タイプ4:ビデオ分析(動画活用)システム

最後に紹介するのは、最も現場に寄り添った、日々のカイゼン活動の強力な味方となるシステムです。

概要:実際の作業動画を解析し、動作の無駄をなくす現場改善アプローチ

これは、まるでスポーツ選手のフォームを分析する専門家のように、現場の作業を映像で「見える化」してくれるシステムです。特別なカメラは必要ありません。普段の作業をスマホやビデオカメラで撮影し、その動画をシステムに見せるだけです。

得意な工程:既存ラインの作業分析、改善点の洗い出し

AIが動画を解析し、「部品を探している時間」「工具を持ち替えている時間」といった、価値を生まない「ムダな動き」を自動で色分けして教えてくれます。「あそこの部品棚を2メートルこっちに動かせば、1日45分も短縮できるぞ!」といった、具体的な改善のヒントが、誰の目にも明らかになるのです。

メリッと・デメリット

手軽に始められるのが、このタイプの良いところです。現場の「今」の姿が客観的なデータとして見えるので、改善活動の説得力が増します。若手への技術指導にも、お手本となる作業動画を見せることで、言葉で説明するよりずっと早く、正確にコツを伝えられます。一方で、これはあくまで「今ある作業」を良くするためのツール。まだ作ったことのない、全く新しい製品の見積もりをゼロから出すのは、少し苦手な分野です。

ひと目でわかる!工数試算システム4タイプの違い比較表

ここまで4つの個性的なシステムをご紹介してきましたが、「それぞれに良さがあるのは分かったけど、結局うちはどれを選べばいいんだ?」と、かえって迷わせてしまったかもしれませんね。

ご安心ください。ここでは、それぞれの特徴を一枚の比較表にギュッとまとめてみました。

比較軸IEベース3DシミュレーションAI搭載ビデオ分析
得意な工程組立(量産)組立(複雑品)部品加工現場改善
見積もり精度
導入コスト
必要なデータ作業分解3D CAD図面、実績作業動画
主な目的標準化事前検証自動化改善

あなたの会社の得意なこと、そして今一番困っていることは何でしょうか?この表を眺めながら、自社の工場に一番ピッタリくるのはどのタイプか、当たりをつけてみてください。

IEベースのシステムが最適な職場の条件

もし、あなたの工場が毎日同じような製品を、決まった手順で作り続けているなら、この「IEベースのシステム」は、職場の「背骨」のような存在になってくれます。

例えば、ベルトコンベアで流れてくる製品に、Aさんが部品を取り付け、Bさんがネジを締め、Cさんが検査をする。こうした繰り返し作業が多い組立ラインがまさに、このシステムの得意な舞台です。

このシステムを導入する最大の利点は、「この作業は、本来〇秒でできるはずだ」という、公平で客観的な”基準時間”を作れることです。これができると、例えば「Aさんは基準より速いから、もっと難しい作業も任せられるな」とか、「Bさんの工程は時間がかかりすぎているから、何かやりづらい点があるのかもしれない」といった、勘や感覚に頼らない、データに基づいた的確な人員配置や改善活動ができるようになります。まるで、オーケストラに指揮者がいて、全員が同じ楽譜を見て演奏するように、工場全体に一体感と規律が生まれるのです。

3Dシミュレーション(デジタルツイン)システムが最適な職場の条件

一方で、あなたの工場が作っているのが、何百、何千という部品から成る、非常に複雑な機械や装置だとしたら、この「3Dシミュレーション」が最高の相棒になります。

特に、まだ世の中にない新製品を、これから初めて作ろうとしている場面を想像してみてください。実際に部品を発注し、ラインを組んでから「しまった!この部品、大きすぎて入らないじゃないか!」なんてことになったら、目も当てられませんよね。

このシステムは、そうした致命的な失敗を、すべてコンピューターの中で先に経験させてくれるのです。莫大なコストがかかる試作品を作る前に、作業者が工具をスムーズに使えるか、無理な姿勢で作業をすることにならないか、といった問題を事前に洗い出せます。これは、いわば本番の舞台に上がる前の、完璧なリハーサルです。手戻りという最大のムダをなくし、開発期間を劇的に短縮できるため、最先端の製品開発でライバルに差をつけたいと考えている職場にとって、これ以上ない武器となるでしょう。

AI搭載の見積もりシステムが最適な職場の条件

「うちは組立よりも、毎日違うお客さんから、違う図面が送られてくる部品加工がメインなんだよな…」。そんな職場のためにあるのが、この「AI搭載の見積もりシステム」です。

特に、多品種少量生産の板金加工や切削加工の現場では、見積もり依頼の電話が鳴りやまない、なんてことも日常茶飯事でしょう。そのたびに、一番仕事がわかるベテランが、他の作業を中断して図面とにらめっこ…。これでは、せっかくの商談のチャンスを逃してしまいます。

このシステムを導入する最大の利点は、なんといっても「スピード」と「標準化」です。AIは、過去の何千、何万という見積もりデータをすべて記憶していますから、新しい図面が来ても、ものの数分で「この形状なら、〇円です」と回答を弾き出します。ベテランの頭の中にしかなかった見積もりのノウハウが、会社の共有財産に変わる瞬間です。これにより、営業担当者でも自信を持って即答できるようになり、圧倒的な対応の速さで、相見積もりに勝ち続けることができるようになるのです。

ビデオ分析(動画活用)システムが最適な職場の条件

「新しいシステムもいいけど、まずは今あるこのラインの生産性を、もっと上げられないか?」。そんな、日々の地道な「カイゼン活動」に力を入れている職場には、この「ビデオ分析システム」がピッタリです。

このシステムの良さは、とにかく手軽に始められること。スマホでいつもの作業風景を撮影するだけです。特別な機材はいりません。

すると、システムが動画を分析して、「この作業者は、一日に合計40分も、あちこち歩いて部品を探していますね」とか、「工具を持ち替える、この0.8秒の動作をなくせれば、月に〇時間の短縮になります」といった、今まで誰も気づかなかった”隠れたムダ”を、具体的な数字で教えてくれます。これは、現場の作業者にとっても、自分たちの頑張りが数字で見えるようになるため、改善へのモチベーションに繋がります。ベテランの「匠の技」を映像でお手本として残し、若手の教育に役立てるといった使い方も非常に効果的です。大きな投資をする前に、まずは自分たちの足元を見つめ直したい、という堅実な職場にこそ、試してほしいシステムです。

失敗しない工数試算システムの選び方|3つのポイント

さて、4つの個性的なシステムの強みが見えてきたところで、いよいよ「自社に導入するならどれか?」を決めるポイントを押さえていきましょう。

高価な機械を導入するときと同じで、ここでの選択は会社の未来を左右する重要な決断です。「有名だから」「他社が使っているから」という理由だけで飛びついてしまうと、「うちの工場では、思ったように使えなかった…」と後悔することになりかねません。

そうならないために、ここでは絶対に外してはいけない3つの確認ステップをご紹介します。この順番通りに考えていけば、きっとあなたの会社にとって最高のパートナーとなるシステムが見つかるはずです。

ポイント1:目的の明確化

まず最初に考えるべきは、「何のために、そのシステムが欲しいのか?」という、一番根本的な動機です。

これは、ホームセンターに工具を買いに行くのと同じです。ただ漠然と「何か便利なものが欲しい」と思って店内をうろついても、結局何も買えずに帰ってくることになりますよね。「ぐらぐらする椅子の脚を、しっかり締めたい」という目的がはっきりしているからこそ、「それなら、このドライバーが必要だ」と、正しい工具を選べるのです。

システム選びも全く同じです。「見積もりにかかる時間を、とにかく半分にしたい」「ベテランの田中さんの技術を、なんとか会社に残したい」「材料費のロスを減らして、利益率をあと5%改善したい」といったように、あなたの言葉で、できるだけ具体的に「システム導入で達成したいゴール」を紙に書き出してみてください。このゴールが、この先の全ての判断のブレない「 判断基準」になります。

ポイント2:対象工程の特定

目的という「 判断基準」が手に入ったら、次にその針が指し示す場所、つまり「工場のどこで、そのシステムを使うのか?」を特定します。

お医者さんが、患者さんに「どこが痛みますか?」と尋ねるのと同じです。「体全体がだるい」と言われるよりも、「右ひじの、この一点がズキズキ痛む」と言われた方が、的確な処置ができますよね。

あなたの工場という”患者さん”の一番の痛みは、どこにあるでしょうか?ステップ1で考えた目的と照らし合わせながら、「見積もり依頼が殺到して、いつもパンク状態の”部品加工”の部署」なのか、それとも「新人さんがなかなか作業を覚えられず、生産性が上がらない”組立ライン”」なのか。

使う場所をピンポイントで特定することで、先ほどご紹介した4つのタイプの中から、候補は自然と1つか2つに絞られてくるはずです。例えば、「部品加工の見積もり」が一番の課題なら、AI搭載のシステムが有力候補になる、といった具合です。

ポイント3:費用対効果の検証

目的を定め、場所を特定したら、いよいよ最後のポイント、お金の話です。ただし、ここで考えてほしいのは、単なる「値段」ではありません。そのシステムに支払うお金が、将来どれだけの利益になって返ってくるか、という「費用対効果」の視点です。

例えば、100万円のシステムを導入したとします。この金額だけを見ると、高いと感じるかもしれません。しかし、もしこのシステムのおかげで、これまで月に100時間かかっていた見積もり作業が10時間に短縮されたとしたらどうでしょう?浮いた90時間で、もっと付加価値の高い仕事ができるようになります。もし、見積もりのスピードが上がったことで、これまで取りこぼしていた月50万円の案件を、新たに3件受注できるようになったとしたら?

システム導入は「消費」ではなく、会社の未来を作るための「投資」です。「この投資によって、1年後、私たちの会社はどう変わっているだろうか?」という視点を持ち、導入にかかる費用と、それによって得られるメリット(時間、コスト、受注増など)を天秤にかけてみてください。その天秤が、メリットの方に大きく傾くのであれば、その投資は「正解」だと言えるでしょう。

【目的別】代表的な工数試算ツール・システム例

さて、自社に必要なシステムのタイプと、その選び方まで見えてきましたね。最後の仕上げとして、ここでは実際に世の中で活躍している代表的なツールを、目的別にご紹介します。

もちろん、ここで紹介する以外にも素晴らしいシステムはたくさんあります。ですが、まずは「こんな製品があるんだ」という具体的なイメージを掴むことが、あなたの会社に最適なパートナーを見つけるための、一番の近道になるはずです。

【IEベース】標準時間を設定し、作業のムダをなくしたいなら

おすすめツール:株式会社日本生工技研「Time-Prism」

この「Time-Prism」は、一言でいえば「工場の標準記録を作るための、デジタル専門家」です。あなたの現場で行われている一つひとつの作業を、ストップウォッチで測ったり、映像から分析したりして、「この作業の、あるべき姿(標準時間)」を定める手助けをしてくれます。

ただ時間を測るだけではありません。IEの専門的な手法(MTMやMOSTといった、動作の”辞書”のようなもの)が組み込まれているので、「ネジを掴む」「手を伸ばす」といった細かい動作レベルまで分解し、科学的な根拠に基づいた、誰が見ても納得できる公平な基準を作ることができます。これまでベテランの頭の中にしかなかった「これくらいで出来るはず」という感覚が、会社の公式なルールブックになるイメージです。

【AI】部品加工の見積もりをAIで高速・自動化したいなら

おすすめツール:株式会社REVOX「SellBOT」、匠技研工業株式会社「匠フォース」

「SellBOT」や「匠フォース」といったシステムは、まさに「AIを搭載した、超優秀なベテラン」です。あなたの会社が過去に手掛けた、ありとあらゆる部品の図面と、その時にかかった時間やコストを、すべてAIに記憶させます。

そして、お客様から新しい図面が届いたら、そのAIに見せるだけ。するとAIは、過去の膨大な記憶の中から「あ、これは3年前に作ったあの部品に似ているな。材質は違うけど、穴の数が2つ多いから、加工時間はプラス5分だな」といった具合に、人間では不可能なスピードと精度で、最適な工数と見積もり金額を計算してくれます。見積もり回答が「3日から3分へ」。これは、決して大げさな話ではないのです。

【3Dシミュレーション】複雑な製品の組立性を事前に検証したいなら

おすすめツール:シーメンス社「Tecnomatix」、ダッソー・システムズ社「DELMIA」

「Tecnomatix」や「DELMIA」は、いわば「失敗することが許される、デジタルの仮想工場」です。3Dの設計データさえあれば、まだ部品一つない状態から、コンピューターの中に実物そっくりの製品と、そこで働く作業員まで再現してしまいます。

この仮想工場の中で、作業員のアバターが手を伸ばし、工具を使い、部品を組み立てていきます。その様子を見ながら、「これじゃあ、作業員の腰に負担がかかりすぎるな」「この順番で組むと、最後のネジが締められないぞ」といった問題を、汗一滴かかずに発見できるのです。現実世界で高価な試作品を作ってから気づくのでは、もう手遅れ。未来に起こるはずだった失敗を、先回りして解決してくれる、まさに”タイムマシン”のようなシステムです。

【ビデオ分析】既存の作業を映像で分析・改善したいなら

おすすめツール:OTRSなど

「OTRS」のようなビデオ分析システムは、一番身近で、すぐに始められるカイゼン活動のパートナーです。使い方は驚くほど簡単。いつもの作業風景を、手持ちのスマートフォンやビデオカメラで撮影するだけです。

その動画をシステムに見せると、AIがまるで熟練のコンサルタントのように、映像を細かく分析してくれます。そして、「この人は、一日のうち合計15分も工具を探していますね」「あそこの部品箱の向きを90度変えるだけで、年間〇時間の短縮に繋がりますよ」と、今まで誰も気付かなかった”隠れたムダ”を、具体的な秒数やグラフで示してくれます。言葉で「もっと早く!」と指示するよりも、この映像を一緒に見るほうが、若手にも改善のポイントがずっと分かりやすく伝わるはずです。

7. システム導入を成功に導く!3ステップで進める戦略的ロードマップ

さあ、あなたの会社にぴったりのシステムが見えてきましたね。しかし、ここからが本番です。どんなに優れた道具も、使い方を間違えれば怪我のもと。工数試算システムは、ただ「買っておしまい」の置物ではありません。会社の血肉として、しっかりと現場に根付かせるための、丁寧な準備が必要です。

ここでは、導入を成功へと導くための、いわば「新しい仲間を職場に迎えるための3つのステップ」をご紹介します。この手順を踏めば、きっとシステムはあなたの会社にとって、かけがえのない存在になるはずです。

ステップ1:【評価とパイロット導入】まずは小さく始めて効果を実証する

新しい機械を導入するとき、いきなり10台も20台もまとめて買う、なんてことはしませんよね?まずは一台だけ入れてみて、「本当に使えるのか?」「うちの製品と相性はいいか?」をじっくり試すはずです。システム導入も、それと全く同じ考え方が大切です。

いきなり全社で「今日からこのシステムを使います!」と号令をかけても、現場は混乱するだけです。そうではなく、まずは工場の中で一番「助けてほしい!」と悲鳴を上げている部署、例えば「いつも見積もりに追われている板金加工部隊」といった特定の場所に絞って、お試しで導入してみるのです。

そして、「このシステムを使って、見積もり時間を本当に3日から半日に短縮するぞ!」という具体的な目標を立てます。1ヶ月後、その目標が達成できたかどうかを、全員が見える数字で確認する。この小さな成功体験こそが、「このシステムは、本当に俺たちの仕事を楽にしてくれるんだ!」という、社内での一番の説得材料になるのです。

ステップ2:【本格展開とプロセス標準化】成功モデルを横展開する

最初の部署で「これは使える!」というお墨付きが得られたら、いよいよ本格展開のステップです。お試しで成功したやり方を、他の部署にも広げていきます。

ここで一番重要なのは、新しいシステムを使った仕事のやり方を、「会社の公式ルール」として定めることです。いわば、秘伝のタレだったベテランの味を、誰でも同じ味が出せる「レシピ」に書き起こす作業です。

「新しい見積もり依頼が来たら、まずこのシステムに図面を読み込ませて、次にこのボタンを押す」といった具体的な手順をマニュアル化し、みんなで共有する。そして、関係者を集めて勉強会を開き、「このシステムは、こういう仕組みで動いているんですよ」「こう使うと、もっと便利ですよ」と、全員が同じレベルで使いこなせるように、丁寧に教えてあげるのです。こうして初めて、システムは個人の”道具”から、会社全体の”仕組み”へと成長します。

ステップ3:【システム間連携と全社最適化】データを連携させて価値を最大化する

最後のステップは、導入した工数試算システムを、会社の他の重要なシステムと「繋ぐ」ことです。これは、あなたの工場の”神経”を一本に繋ぎ、会社全体を一つの生命体のように進化させる、最終ゴールです。

例えば、設計部が作った設計データが、自動的に工数試算システムに送られ、そこで計算された正確な工数やコストが、今度は経理部の原価管理システムに自動で登録される。こんな風に、データの流れが人の手を介さず、スムーズに繋がっていく世界を想像してみてください。

設計から製造、そしてお金の管理までが、すべて淀みなく連携する。ここまで来れば、蓄積されたデータは、単なる記録ではなくなります。「次にどんな製品を開発すれば儲かるのか?」といった、経営の未来を左右するような重要な判断を、データという強力な根拠を持って下せるようになるのです。ここまでやり遂げたとき、あなたの会社は、ライバルたちが遠く見上げるほどの、圧倒的な競争力を手にしていることでしょう。

まとめ:自社に最適な工数試算システムを導入し、競争力を強化しよう

長い道のりでしたが、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

私たちは、ベテランの勘とExcelだけが頼りだった、あの薄暗い事務所から旅を始めました。そして、属人化や見積もりの遅れといった、多くの工場が抱える根深い課題を一つひとつ確認し、未来の時間を予測するという「カーナビ」のような新しい考え方に触れました。

4つの個性的なシステムたちとの出会いは、いかがでしたでしょうか。堅実なIEベースの番頭さん、未来を見通す3Dシミュレーションの設計士、圧倒的なスピードを誇るAIのスーパールーキー、そして現場に寄り添うビデオ分析の改善トレーナー。彼らはもはや、単なるソフトウェアではありません。あなたの会社の未来を共に創る、頼もしいパートナー候補です。

忘れないでください。工数試算システムの導入は、パソコンを一台買い替えるのとは訳が違います。それは、特定の誰かの頭の中にあった「見えない財産」を、会社全体の「共有資産」へと変える、一大プロジェクトです。見積もりという会社の生命線を、属人化のリスクから解放し、データという揺るぎない土台の上に再構築する、製造業DXの、最も重要で、最も効果のある一歩なのです。

この記事でご紹介した選び方や導入のステップを参考にすれば、きっとあなたの会社に最適なパートナーが見つかるはずです。大切なのは、最初から完璧を目指さないこと。まずは一番困っている部署で、小さく試すことから始めてみてください。その小さな成功が、やがて会社全体を動かす大きなうねりへと変わっていきます。

変化を恐れず、未来へ投資する。その決断が、あなたの会社を、数年後、誰もが羨むような競争力のある強い企業へと成長させるはずです。今回の内容が、その輝かしい未来への第一歩を踏み出す、ささやかなきっかけとなれたなら、これ以上の喜びはありません。

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この記事を書いた人

 大手総合電機メーカーで20年間経験を積んで平成22年に独立。10年間で600社を超える中小企業支援、そして自らも小売業を立ち上げて業績を安定させた実績を持つ超現場主義者。小さなチームで短期的な経営課題を解決しながら、中長期的な人材育成を進める「プロジェクト型課題解決(小集団活動)」の推進支援が支持を集めている。

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