【もう形骸化させない】5S活動の本当の目的とは?トヨタ式に学ぶ「利益を生み出す5S」の始め方

【もう形骸化させない】5S活動の本当の目的とは?トヨタ式に学ぶ「儲かる5S」の始め方

どこか気だるい空気が流れ、メンバーたちは言われたからやっている、という様子で、すでにきれいな床を掃いたり、機械をただ漫然と拭いたり…。壁には、少し色褪せた5Sのスローガンが貼られているけれど、その言葉はもう、誰の心にも響いていない。

リーダーであるあなたは、そんな光景を眺めながら、「生産を止めてまで、この活動に本当に意味はあるのだろうか…?」と、拭いきれない疑問を感じているのではないでしょうか。

もし、あなたの現場の5S活動が、そんな「会社に言われたからやる、ただのお掃除タイム」になっているとしたら、それは当然、会社の利益、つまり”儲け”には繋がりません。そして、活動が形骸化してしまう根本原因は、ただ一つ。

私たち自身が、5S活動の「本当の目的」を知らないまま、活動を始めてしまっているからです。

そこで今回は、多くの製造現場で働くみんなの5S活動に対するイメージを180度ひっくり返すため、世界最強の現場と名高いトヨタが、なぜあれほど5Sを徹底するのか。その本質に学びながら、5S活動を「心理的なコスト」ではなく「実際の利益」に直結させるための考え方と、具体的な始め方を、誰にでも分かるように丁寧に解説していきます。

では今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いください。

目次

なぜ、あなたの5S活動は「形骸化」してしまうのか?よくある3つの勘違い

多くの現場で5Sが続かない、あるいは形骸化してしまうのには、共通の理由があります。それは、5S活動に対する根強い「勘違い」です。まずは、その勘違いの正体から見ていきましょう。

勘違い①:「目的=きれいにすること」という思い込み

正直に胸に手を当てて考えてみてください。「5S活動」と聞いて、真っ先に頭に思い浮かぶのは、「掃除」や「片付け」ではありませんか?これが、最も多くの現場が陥る、最大の勘違いです。

もちろん、活動の結果として職場はきれいになります。しかし、もし活動のゴールそのものを「きれいにすること」だと設定してしまうと、どうなるでしょう?職場がある程度きれいになった瞬間、活動は目的を失います。「もう十分きれいなのに、なぜ生産を止めてまで掃除を続けるんだろう?」と、メンバーが感じるのは当然です。

これは、レースに出場するマシンの整備士が、ひたすら車体をワックスで磨き上げているようなものです。マシンはピカピカかもしれませんが、エンジンやタイヤの性能が上がらなければ、レースには勝てません。きれいにすることは、5Sというレースに勝つための「手段」であり、点検の一環ではありますが、決して最終的な「目的」ではないのです。

勘違い②:「やらされ感」を生む一方的な指示と評価の不在

次に多いのが、リーダーの関わり方についての勘違いです。

活動の時間が来ると、リーダーが一方的に「Aチームはあの棚を整理しろ」「Bチームは床の白線を塗り直せ」と指示を出す。そして、30分後に「やったか?」と結果だけを確認しに来る。これでは、メンバーは自分の頭で考えることをやめてしまい、ただの「手足」になってしまいます。

人間は、その仕事の意味を理解し、自らの工夫やアイデアを込めた時に、初めてやりがいを感じる生き物です。その機会を奪われ、ただ上から言われたことをこなすだけ。さらには、どんなに頑張って工夫をしても、誰からも褒められず、評価もされない。この状況が、現場に「どうせ言われたことだけやっていればいいんだ」という、最悪の「やらされ感」を蔓延させます。この感情こそが、改善活動の芽を静かに、しかし確実に摘み取っていくのです。

勘違い③:活動がマンリ化する「ネタ切れ」と「停滞」

5S活動を始めた最初の3ヶ月くらいは、とても楽しいものです。長年放置されていた不要品がトラックで運び出され、乱雑だった工具置き場には定位置が定められ、職場は劇的に生まれ変わります。誰もが、目に見える成果に達成感を覚えるでしょう。

しかし、その「お祭り」の時期は、やがて過ぎ去ります。分かりやすい問題が片付いてしまうと、チームはピタッと壁に突き当たります。いわゆる「ネタ切れ」です。

「もう、これ以上やることがないよ…」。そう感じた瞬間から、活動は停滞を始めます。そして、報告書を埋めるためだけに、先月もやった棚の拭き掃除を繰り返したり、すでにきれいな床をもう一度掃いたりする。かつては刺激的だった「改善活動」が、ただの退屈な「維持活動」へと姿を変えてしまう。このマンネリこそが、メンバーの心を5Sから静かに引き離していくのです。

これが結論!5S活動の”本当の目的”は「異常に気づく人」と「儲かる文化」を育てること

これまで見てきた3つの勘違い。これらをすべてひっくり返す、5S活動の「本当の目的」とは、一体何なのでしょうか。

結論から申し上げます。

それは、単に職場をきれいにすることではありません。本当の目的は、「ムダや異常に気づき、自ら改善できる人材を育てる」こと、そして、その結果として「会社が儲かる経営基盤(文化)を作り上げること」です。

これは、言い換えれば、5S活動とは「清掃活動」ではなく、「人づくり」であり「利益が生まれる仕組みづくり」に他ならない、ということです。具体的に見ていきましょう。

5Sは「訓練」である:ムダと異常を発見する”目”を養う

まず、5Sの本質は、日々の活動を通じた「訓練」であると理解してください。

あなたの現場を、野球チームの練習グラウンドだと想像してみてください。選手たちは、毎日、来る日も来る日も、素振りやキャッチボールといった地味な基礎練習を繰り返します。その目的は、ただバットを振ることや、ボールを捕ることではありませんよね。試合でヒットを打つための、あるいはファインプレーをするための、「反射神経」や「状況判断能力」を養うことが目的です。

5S活動も、これと全く同じです。

毎日、決められた場所を清掃することで、昨日まではなかったはずの油のシミに「おや?」と異常を発見する洞察力が養われます。常に工具が決められた場所にあれば、一つでも無くなった時に「あれ、おかしいぞ?」と問題を察知する観察眼が身につきます。

つまり、5S活動とは、現場に潜む品質の悪化や生産性の低下といった「敵」の姿を、誰よりも早く発見するための「目」を養う、最高のトレーニングジムなのです。5Sを通じて私たちが本当に作っているのは、きれいな職場ではなく、問題発見能力の高い「強い人材」なのです。

5Sは「土台」である:品質(Q)・コスト(C)・納期(D)を支える経営基盤

そして、そうやって育った「強い人材」が働く職場は、結果として、企業の競争力を支える、非常に強固な「土台」となります。

立派な家を建てようとする時、最も重要なのは、豪華なリビングや、おしゃれな壁紙ではありませんよね。見栄えはしなくても、その家全体を支える、頑丈な「基礎(土台)」です。もし、その土台がグラグラだったら、どんなに立派な家も、小さな地震であっけなく崩れてしまいます。

製造業における、品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)も、これと全く同じです。

コスト(C)

「探す」という最大のムダがなくなることで、作業工数は劇的に削減されます。設備の清掃は、劣化を早期に発見させ、突発的な故障による莫大な損失を防ぎます。

品質(Q)

常に整理・整頓・清掃が行き届いた現場では、異品混入や製品の汚損といった品質異常は、発生する余地がありません。異常が発生しても、すぐに「見える化」されます。

納期(D)

ムダな作業や手戻りがなくなることで、生産リードタイムは短縮され、安定します。お客様との約束である納期を、確実に守れるようになります。

このように、5Sという強固な土台があって初めて、私たちは、その上で品質・コスト・納期という、お客様に価値を提供する家を、安心して建てることができるのです。5Sは、数ある改善活動の一つなどではありません。すべての改善活動の効果を何倍にも高める、すべての「土台」なのです。

なぜトヨタは5Sを徹底するのか?世界最強の現場が実践する「トヨタ式5S」の本質

その「5S=土台」という考え方を、世界で最も徹底しているのがトヨタです。彼らがなぜあれほどまでに5Sを重視するのか。その本質に迫ります。

トヨタ式5Sの定義:「規律を守る」人間性を育てる活動

多くの会社では、5Sは「環境整備活動」の一環とされています。しかし、トヨタ生産方式における5Sの定義は、根本から異なります。彼らにとって5Sとは、決められたことを、決められた通りに、きちんと守れる「規律正しい人材」を育成するための活動なのです。

なぜ、それほどまでに「規律」を重視するのでしょうか。

それは、「ジャストインタイム」に代表されるトヨタ生産方式が、一つひとつの作業が、まるで精密機械の歯車のように、一分の狂いもなく噛み合って初めて機能する、非常に高度な仕組みだからです。「このくらい、いいだろう」という、たった一人の作業者の自己流の判断が、システム全体の流れを止め、大きな損失に繋がることを、彼らは知り尽くしています。

だからこそ、複雑な作業標準を守る以前の、もっと基本的な訓練として、5Sが位置付けられているのです。工具を決められた場所に必ず戻す(整頓)という規律。自分の持ち場を常にきれいな状態に保つ(清掃)という規律。このごく当たり前の規律を守れる人間でなければ、高品質なクルマづくりは到底できない。トヨタの5Sには、そうした人づくりの哲学が、色濃く反映されているのです。

「習慣(しつけ)」こそが核心:トヨタ生産方式を支える土台

そして、トヨタ式5Sで最も重要視され、かつ最も難しいとされているのが、5番目の「習慣(しつけ)」です。

多くの現場では、5Sは整理・整頓・清掃の「3S」で終わってしまいがちです。しかし、トヨタの強さの秘密は、この「習慣(しつけ)」の徹底にあります。

トヨタにおける「習慣(しつけ)」とは、子どもを叱るようなことではありません。「決められたルールを、誰もが、無意識のレベルで、当たり前に守っている状態」を作り上げ、それを「文化」として定着させることです。歯を磨くように、お風呂に入るように、考えなくても体が勝手に動く。そのレベルまで、規律を守ることを習慣化させるのです。

この「習慣(しつけ)」」という揺るぎない土台があって初めて、その上で「かんばん」や「アンドン」、「自働化」といった、トヨタ生産方式を構成する様々な有名な手法が、本来の機能を発揮します。もし、この土台がなければ、どんなに優れた手法も、ただの絵に描いた餅に終わってしまうのです。

トヨタは、床をきれいにするために、5Sをやっているのではありません。規律正しい文化という、最強の土台を作るために、今日も現場を磨き続けているのです。

「利益につながる5S活動」とは何か?活動を利益に繋げる4つの直接的効果

ここまで、5Sが「人づくり」や「文化づくり」という、少し高尚な目的を持つことをお話ししました。しかし、「それは分かったけど、結局それがどうやって会社の利益に繋がるんだ?」という、もっともな疑問があるはずです。

ここからは、きれいごと一切抜きで、5Sが、あなたの会社の預金通帳の残高を、具体的にどうやって増やしていくのか。その「利益のカラクリ」について、一つひとつ、じっくりと見ていきましょう。

効果①:生産性の向上(探すムダの排除)

まず、最も分かりやすく、そして即効性のある効果が、「生産性の向上」です。そして、その最大の鍵は、「探す」という、世の中で最もムダな時間をなくすことにあります。

少し、あなたの現場を想像してみてください。

熟練の作業員である田中さんが、ある治具を使おうと、いつもの棚に向かいます。しかし、そこにあるはずの治具がありません。田中さんは「あれ、おかしいな」と、棚の周りを探し始めます。近くの同僚に「あの治具、知らない?」と声をかけ、作業台の上や、別の棚まで探しに行き、結局、5分後、全く関係のない部品箱の隅から、その治具を見つけ出しました。

さて、この5分間、会社はベテランの田中さんに、高い給料を払っています。しかし、田中さんは、製品を1ミリも加工していません。価値を一切生み出していないのです。会社は、給料を払って、田中さんに**「探偵ごっこ」**をさせていたのと同じことです。

この「探すムダ」が、一日たった10分、従業員20人の工場で発生したとしましょう。それだけで、一日200分(3時間20分)もの労働時間が、泡のように消えていきます。一ヶ月で約70時間、一年で840時間。時給2,000円だとしたら、年間168万円もの大金が、「探す」という行為のためだけに、ドブに捨てられている計算になるのです。

5S、特に「整頓」は、この恐ろしいムダに対する、最強の処方箋です。すべてのモノに住所(定位置)を定め、名前(表示)を与える。「誰が」「いつでも」「迷わず」に取り出せる仕組みを徹底する。たったこれだけのことで、これまで捨てていた年間168万円が、そのまま会社の利益に変わるのです。これほど確実で、ローリスク・ハイリターンな投資が、他にあるでしょうか。

効果②:品質の向上(異常の見える化)

次に、5Sはあなたの現場の「品質」を劇的に向上させます。なぜなら、5Sが徹底された職場は、品質を脅かす「異常」が、隠れる場所を失うからです。

ここでも、整理整頓されていない、薄暗い工場を想像してみてください。一台の機械から、ほんの少しずつ、作動油が漏れています。しかし、床はもともと汚れていて、機械も油とホコリにまみれているため、誰もその小さな漏れに気づきません。数週間後、その機械は、油圧不足で突然大きな異音を立てて停止。止まる直前に作っていた製品100個は、すべて寸法不良品になってしまいました。結果、材料費はパーになり、納期は遅れ、お客様に頭を下げることになります。

では、5Sが徹底された工場ではどうでしょう。

床は明るい色で塗られ、チリ一つ落ちていません(清掃)。機械は、毎日ピカピカに磨き上げられています(清潔)。そんな環境では、床に落ちた、たった一滴の油のシミが、まるで白いシャツについたケチャップのように、イヤでも目につきます。「おや?昨日まで、ここにはシミはなかったぞ」。その瞬間に、異常は発見され、メンテナンス担当者が、パッキン交換などの簡単な修理を15分で済ませます。莫大な損失に繋がるはずだった大きな故障は、未然に防がれました。

このように、5Sは、工場の「健康診断」の役割を果たします。常に体を清潔に保ち、整理整頓することで、「病気の兆候(異常)」を、ごく初期の段階で発見するのです。お客様の元に流出したら何百万円もの損失になりかねない不良を、日常の活動の中で未然に防ぐ。これもまた、5Sがもたらす、非常に大きな「利益」と言えるのです。

効果③:コストの削減(在庫の最適化と設備の長寿命化)

5Sは、目に見えにくい、しかし確実に会社の体力を奪っていく「隠れコスト」の削減にも、絶大な効果を発揮します。

まずは、「整理」による在庫の最適化です。あなたの工場の片隅に、「いつか使うかもしれない」と思って、何年も置きっぱなしになっている金型や、過剰に発注してしまった材料が眠っていませんか?それらは、すべて会社が「お金」を出して買ったものです。使われない在庫は、お金を、ただの鉄くずや邪魔な荷物に変えて、倉庫の家賃や管理費を食い潰している「死んだ金(デッドストック)」です。

「整理」は、この「死んだ金」を、再び会社が使える「生きた金」に蘇らせる活動です。不要なモノを売却すれば、直接的な現金になります。保管スペースが空けば、外部倉庫を借りるコストを削減できます。

さらに、「清掃」は、設備の長寿命化にも繋がります。毎日、愛情を込めて機械を磨き、手入れをすることで、機械は最高のパフォーマンスを維持し、寿命も格段に延びます。本来なら10年で買い替えるはずだった数千万円の設備が、適切なメンテナンスによって12年、15年と使えたとしたら、その差額は、すべて会社の利益です。5Sは、今ある資産を最大限に活かし、新たな出費を抑える、優れた「節約術」でもあるのです。

効果④:安全性の向上(危険箇所の排除)

最後に、これは直接的な利益には見えにくいかもしれませんが、実は会社経営の根幹を揺るがしかねない、「安全」という効果です。

床にこぼれた油、通路にはみ出した資材、整理されずに積み上げられた荷物…。5Sが徹底されていない職場は、転倒やつまずき、落下物といった労働災害の「地雷」で溢れています。

もし、一人の従業員が労災で長期離脱してしまったら、どうなるでしょう。会社は、治療費や休業補償といった直接的な費用を負担するだけでなく、代替要員の確保や教育、生産計画の遅延、そして何よりも、職場の士気の低下という、計り知れないほどの多くのものを失います。たった一度の事故が、会社の存続を危うくすることさえあるのです。

5Sは、これらの「地雷」を、一つひとつ丁寧に取り除いていく活動です。通路は明確に区画され、モノはすべて決められた場所に置かれ、危険な箇所は「見える化」される。安全な職場は、従業員が安心して、最高のパフォーマンスを発揮できるための、最低条件です.

事故による莫大な損失という、最大の「リスク」を未然に防ぐ。5Sは、従業員の命と、会社の未来を守る、最強の「保険」なのです。

【明日から実践】トヨタ式に学ぶ「儲かる5S」の始め方・進め方ロードマップ

ここまで読んで、「よし、うちの会社でも『儲かる5S』をやってみたい!」と、あなたの心に火がついたかもしれません。しかし、いざ始めるとなると、どこから手をつければ良いのか、途方に暮れてしまいますよね。

ご安心ください。ここからは、地図もコンパスも持たずに闇雲に進むのではなく、確実にゴールにたどり着くための「ロードマップ」を、4つのステップで具体的にお示しします。この通りに進めれば、あなたの職場は必ず変わります。

ステップ1:【計画】目的とゴールを明確にする(計画書作成)

どんな旅も、目的地を決めなければ始まりません。5S活動も全く同じです。「とりあえず、きれいにする」という漠然としたスタートでは、必ず途中で道に迷います。まずは、この活動の「目的地」と「最初の3ヶ月の行程表」を、一枚の紙にまとめることから始めましょう。

難しく考える必要はありません。A4の紙に、こう書くのです。

  • 活動目的: なぜ、私たちは5Sをやるのか?(例:A製品のキズ不良を、半年で50%削減するため)
  • 活動期間: まずは、最初の3ヶ月間
  • 対象エリア: A製品の組立ライン
  • 具体的なゴール:
    • 1ヶ月目:「整理」の徹底。不要品をゼロにする。
    • 2ヶ月目:「整頓」の徹底。全ての治工具に住所と名前を与える。
    • 3ヶ月目:「清掃」の徹底。日常清掃ルールを確立し、定着させる。

この、たった一枚の「5S活動計画書」が、あなたの旅のコンパスになります。そして、必ず、社長や工場長といった経営層に見せて、「会社の公式な活動である」という承認のサインをもらってください。これが、後々の活動の大きな推進力になります。

ステップ2:【導入】キックオフ宣言で全員を巻き込む

5S活動は、リーダーであるあなた一人が頑張るものではありません。全員参加のチームスポーツです。もし、この活動が、いつの間にかひっそりと始まっていたら、メンバーの心には必ず「また、何かやらされるのか…」という気持ちが芽生えてしまいます。

そうさせないために、活動のスタートを、一つの「お祭り」として演出するのです。

朝礼など、メンバー全員が集まる場で、「5S活動キックオフ宣言」を開催しましょう。できれば、社長や工場長にも同席してもらい、その口から、なぜ会社として5S活動に取り組むのか、その「目的」と「覚悟」を、熱意を込めて語ってもらうのです。

「私たちは、お客様にもっと喜んでもらうために、そして、何よりも、ここにいる皆さん自身が、もっと安全で、誇りを持って働ける職場を作るために、今日から本気で5Sに取り組みます。これは、皆さん全員が主役のプロジェクトです。力を貸してください!」

トップのこの力強い一言が、メンバーの心に火をつけ、「やらされ感」という最大の敵を、始まる前に吹き飛ばしてくれるのです。

ステップ3:【実践】まずは「整理」から徹底的に始める

さあ、いよいよ活動の実践です。5Sには、「整理→整頓→清掃→清潔→躾」という、絶対に守らなければならない「順番」があります。散らかった部屋のまま、最新の収納ボックスを買ってきても、意味がありませんよね。まずは、部屋の中にある「要らないモノを、徹底的に捨てる」こと。これが、すべての土台となります。

そのための具体的な手法が「赤札作戦」です。

チーム全員で、自分たちの職場にある、ありとあらゆるモノ(機械、棚、治工具、材料、書類…)を一つひとつチェックし、「これは、本当に今の仕事に必要か?」を問いかけます。そして、「要らない」「使っていない」「誰のものか分からない」モノには、情け容赦なく「赤札」という赤いシールや荷札を貼り付けていくのです。

一日で、職場は赤札だらけになるでしょう。その光景は、いかに自分たちがムダなモノに囲まれて仕事をしていたかを、全員に痛感させてくれます。そして、赤札を貼られたモノを、決められたルールに従って、一斉に処分する。

この、少し心が痛むけれど、劇的な効果を生む「整理」を中途半端に終わらせてしまうと、その後の「整頓」や「清掃」は、絶対にうまくいきません。5Sの成功は、最初の「整理」で9割決まると心得てください。

ステップ4:【定着】評価と改善で活動を文化に変える

一度きれいにしても、何もしなければ、必ず職場は元の姿に戻ってしまいます。リバウンドです。そうさせないために、活動を「イベント」から「文化」へと昇華させるための仕組みを、根気強く作り上げていきましょう。

そのための仕組みは、大きく3つあります。

仕組み1:定期的な「5Sパトロール」

一つ目は、定期的な「5Sパトロール」です。月に一度、他の部署のメンバーも含めたパトロールチームが、チェックリストを手に現場を回り、客観的な視点で評価をします。そして、その結果をグラフなどにして、全員が見える場所に掲示するのです。

仕組み2:「成功体験の共有」

二つ目は、「成功体験の共有」です。素晴らしい改善事例は、朝礼で発表したり、ビフォーアフターの写真を掲示したりして、全員の前で称賛しましょう。「あのチームのアイデア、すごいな!」「自分たちも負けてられないぞ!」という、ポジティブな刺激が、活動の継続的なエネルギーになります。

仕組み3:公平な「評価制度」の導入

そして三つ目が、公平な「評価制度」の導入です。頑張ったチームや個人が、きちんと報われる仕組みがあることで、メンバーのモチベーションは維持されます。

この「計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Act)」というPDCAサイクルを、粘り強く回し続けること。それこそが、5Sを、あなたの職場の揺るぎない「文化」として根付かせる、唯一にして、最も確実な方法なのです。

まとめ:5S活動を「コスト」から「未来への投資」へ変えよう

ここまで長い道のりを、お読みいただき本当にありがとうございました。この記事を通じて、あなたの5S活動に対するイメージは、大きく変わったのではないでしょうか。

もう、あなたの頭の中に、「5S活動=生産を止めてまでやる、面倒な掃除」という考えはないはずです。

そう、5S活動は、目先の時間や労力を消費するだけの「コスト」などではありません。

それは、今回の解説の中で繰り返し見てきたように、異常に気づく『強い人材』を育て、ぐらつくことのない『強固な経営基盤』を築き、そして、未来の会社の『確実な利益』を生み出すための、最も確実で、最も効果的な「未来への投資」なのです。

銀行にお金を預ければ利息がつくように、5Sという活動に情熱と時間を預ければ、それは必ず、生産性向上、品質向上、コスト削減、そして安全という、何倍にもなった大きなリターンを、あなたの会社にもたらしてくれます。

リーダーである、あなたの意識が「コスト」から「投資」に変わった瞬間、あなたの言葉が変わり、行動が変わり、そして、あなたのチームの見る目も変わります。

さあ、あなたの現場の5S活動を、「やらされ感のある掃除」から、「全員参加の利益を生み出すプロジェクト」へと、今日、この瞬間から、変えていきませんか?

その第一歩を踏み出すためのロードマップは、もう、あなたの頭の中にありはずです。

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この記事を書いた人

 大手総合電機メーカーで20年間経験を積んで平成22年に独立。10年間で600社を超える中小企業支援、そして自らも小売業を立ち上げて業績を安定させた実績を持つ超現場主義者。小さなチームで短期的な経営課題を解決しながら、中長期的な人材育成を進める「プロジェクト型課題解決(小集団活動)」の推進支援が支持を集めている。

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