「うわっ、ウチのこと?」プロがため息をつく工場5Sの勘違い事例・NGランキングTOP5

さて皆さまの工場では、年末年始の恒例行事、大掃除は無事に終わりましたでしょうか?

床の頑固な油汚れを削り落として、剥がれかけたラインテープを貼り直して……。

全社員総出で半日かけて、ようやく工場がピカピカになった瞬間の達成感。あれは何度味わっても気持ちいいもんです。

ところで、その綺麗な状態、いつまで持つと思いますか?

3日でしょうか? それとも、繁忙期が始まる来週まででしょうか?

正直なところ、「どうせまたすぐ汚れるのに、なんで毎年同じ苦労をしなきゃいけないんだ?」と、虚しさを感じながらブラシを握っていた人もいるんじゃないかと思います。

キツイことを言うようですが、その「虚しさ」という違和感は正しいです。

実は、現場改善のプロから見ると、毎年同じ大掃除を繰り返している現場は、「努力している現場」ではなく「敗北している現場」に見えてしまうんです。

なぜなら、「掃除をしないと維持できない」ということは、「汚れない・乱れない仕組み」を作ることを放棄している証拠だからです。

今回は、多くの工場が陥っている「それ、実は5Sじゃなくてただの苦行ですから!」という勘違いを、ランキング形式で紹介します。

「うわっ、これウチのことじゃん……」と冷や汗をかきながら、自分たちの現場レベルを診断してみてください。

それでは今回も、読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いくださいませ。

はい、続きます。

「とりあえず貼っとけばいいだろ」という現場の空気に、チクリと釘を刺すパートです。

目次

プロが選ぶ「残念な5Sあるある」NGランキングTOP5

まずは第5位。これ、真面目な現場ほど陥りやすい罠なんですよね。

【第5位】テプラ・ラインテープ狂想曲(手段の目的化)

「ハサミ」に「ハサミ」と貼って満足していませんか?

「よし、5Sをやるぞ!」ってなった瞬間、なぜかみんな一斉にテプラとラインテープを握りしめるんですよね。

机の上、棚、引き出し……視界に入るすべてのものに、とりあえず名前を貼る。

床には「通路」と「作業エリア」を分ける線を、これでもかってくらい引きまくる。

結果、現場がシマウマみたいにシマシマになってませんか?

一番滑稽なのが、ハサミ本体に「ハサミ」ってテプラが貼ってあるやつ。いや、見れば分かるよ!ってツッコミたくなります。

あと、中身が空っぽの棚に「予備部品」ってシールが貼られたまま、半年くらい放置されてたりね。これじゃあ、ただの「シール収集」です。

プロの視点(なぜNGか):

キツイ言い方をすると、これは「表示(ラベリング)」であって「標準化」ではないんです。

本来、モノに名前を貼ったり線を引いたりするのは、「そこにモノがないことが、異常だと一目でわかるようにするため」です。

ハサミが所定の位置になかったら、「あ、ないぞ!」と誰が見ても分かる。そのための線であり、表示なんです。

ただ貼っただけで満足して、肝心の「異常」が見えていないなら、それはただ現場をシールだらけにしただけ。

重要なのは、「異常」が見えた後のルールが明確になっていますか?そのルールによって、「異常」が少なくなっていますか?ってことなんですよね。

3Sの整頓活動は進んでも、5Sの清潔活動が進んでいない職場は、いつまでも同じことを繰り返すことになります。それは作業者としても「また同じ改善かよ」「ま、これでようなら考えずにやっておこう」と作業者の心の中の形骸化が進むわけです。これでは改善が進むチームづくりには貢献しないですよね、絶対。

修正いただいた第5位のテキスト、最高です。

「シール収集」「作業者の心の中の形骸化」という表現、現場のリアルな空気感がすごく出ていて、読み手の「それそれ!」という頷きが聞こえてきそうです。

【第4位】「とりあえず保管」のブラックボックス化(整理の放棄)

では、第4位に行きましょう。 ここでは、日本人の「もったいない精神」が裏目に出る、「捨てられない現場」の病巣を突きます。

「いつか使うかも」の墓場を作っていませんか?

パッと見、通路はスッキリしてて綺麗なんですよ。

でもね、工場の隅っこにある背の高いロッカーや、建屋の裏にある「一時保管エリア」……あそこ、最後に開けたのいつですか?

年末の大掃除あるあるですが、「これ、どうする?」「うーん、部品取りに使えるかもしれないから、とりあえず置いとくか」っていう会話、絶対してますよね。

で、その「とりあえず」のモノたちを、目に見える現場から、目に見えないロッカーや倉庫に押し込んで、「よし、片付いた!」と満足して終わる。

はっきり言いますが、あれは「ゴミの移動」であって「掃除」ではありません。

現場から見えなくなっただけで、工場のどこかには確実に存在しているんです。いわば「いつか使うかも」という亡霊が集まる墓場を作っているようなもんです。

プロの視点(なぜNGか):

厳しく聞こえるかもしれませんが、これは「移動」であって「整理(捨てる)」ではないんです。

5Sの「整理」の定義は、「要るものと要らないものを分けて、要らないものを捨てること」。

でも、「捨てる」って実はすごくエネルギーを使う「判断業務」なんですよね。「もし後で必要になったら責任取れるのか?」という不安との戦いですから。

だから、その判断から逃げて「とりあえず保管」というブラックボックスを作る。

これは現場のスペースというコストをドブに捨てているのと同じですし、何より「今、何が必要で何が不要か」を決められない、組織としての意思決定力の弱さが露呈している状態なんです。

つまり「何が必要で何が不要か」を判断する基準やルールがない。なければ作らなければならないわけです。

その開かずのロッカー1つ分のスペースがあれば、新しい作業台が置けて、みんなの作業がもっと楽になるかもしれない。

そう考えたら、「いつか」のために場所を占領し続けるのが、どれだけもったいないか見えてきませんか?

修正ありがとうございます。

「何が必要で何が不要か」を判断する基準やルールがない。なければ作らなければならない――この一文が入ったことで、単なるダメ出しではなく、「じゃあどうする?」という前向きな視点が加わり、記事の深みが増しました。素晴らしいです。

では続いて、第3位です。

ここは「見た目重視」の活動がいかに現場を苦しめているか、作業者の本音を代弁します。

【第3位】使い勝手無視の「整列」アート(整頓の勘違い)

では続いて、第3位です。 ここは「見た目重視」の活動がいかに現場を苦しめているか、作業者の本音を代弁します。

「背の順」に並べて満足していませんか?

外部のお客さんが工場見学に来た時、「うわぁ、工具が綺麗に並んでますね!」って褒められる棚、ありますよね。

大きさ順、色順、あるいは「背の順」にピシッと並んだスパナやドライバーたち。見た目はまるでアート作品です。

でも、実際にそこで作業している皆さんは、心の中でこう思っていませんか?

「……正直、使いにくいんだよなぁ」と。

例えば、一番よく使う「13mmのスパナ」を取り出すのに、手前の10mmと12mmを退かさないといけないとか。

見た目を重視しすぎて、工具を取るために「扉を開ける」「ケースを引き出す」「蓋を開ける」なんていう3アクションも4アクションも必要な状態になっていたりとか。

こうなると何が起きるか。

取り出すのが面倒だし、戻すのはもっと面倒だから、結局作業台の上に置きっぱなしになるんです。

「綺麗に並べること」を優先した結果、現場の使い勝手が犠牲になっている。これは本末転倒ですよね。

プロの視点(なぜNGか):

ここでの勘違いは、これが「整列(綺麗に並べる)」であって「整頓(使いやすくする)」ではないという点です。

5Sにおける「整頓」の本来の目的は、「探す時間・取り出す時間・戻す時間をゼロにすること」です。

極端な話、見た目が少しくらい不格好でも、ワンアクションでサッと取れて、ノールックでサッと戻せるなら、そっちの方が100倍優秀な「整頓」なんです。

使用頻度を無視して、見た目の美しさだけを追求するのは、生産性を下げる「改悪」でしかありません。

「並べ方のルール」を決める時、基準にすべきは「見栄え」ではなく、「作業者の動線とアクション数」です。

毎日何百回と手を伸ばす場所だからこそ、そのコンマ数秒のストレスを減らすことこそが、本当の意味での「現場への愛」なんじゃないでしょうか。

【第2位】職人頼みの「聖域(サンクチュアリ)」(属人化)

続いて第2位です。これはどこの現場にも必ず一人や二人はいる「あの人」の話です。 触れにくい話題ですが、ここを避けては真の現場改善はありえません。

「あの人の棚」には誰も触れない…になっていませんか?

工場の中に、不思議な「不可侵条約」が結ばれているエリア、ありませんか?

そう、ベテランの職人さんや、その工程の主(ぬし)みたいになっている人の作業台です。

周りがどれだけ綺麗になっても、そこだけは独特の配置のまま。

新人が応援に入ろうとして工具に触れようもんなら、「おい! 勝手に触るな。場所が変わると調子が狂うんだよ!」と雷が落ちる。

「俺はこれが一番使いやすいんだ!」

「俺にしか分からない並び順があるんだ!」

その言葉に押されて、周りも「まあ、あの人は仕事が速いから……」と黙認してしまう。

結果として、その場所は会社の中で「あの人にしか分からない聖域(サンクチュアリ)」として隔離されてしまうんです。

プロの視点(なぜNGか):

厳しいことを言いますが、これは「個人の工夫」であって「組織の活動」ではありません。

確かに、その人個人にとっては、その配置が一番速いのかもしれません(これを「個別最適」と言います)。

でも、もしその人が風邪で休んだら? 定年で辞めたら?

他の誰もその場所で同じように仕事ができないなら、それは会社としてリスクでしかありません。

5Sの「躾(しつけ)」や「標準化」の本来の目的は、「誰がその場所に立っても、同じ品質・同じ効率で仕事ができる状態にすること」です。

「俺しかできない」を自慢するのは職人のプライドかもしれませんが、「誰でもできるようにしておく」のが組織人としてのプロの仕事。

個人のクセや好みが優先される職場では、チームとしての改善(PDCA)は絶対に回りません。なぜなら、その人が「嫌だ」と言えば、全ての改善がストップしてしまうからです。

「聖域」を作らないこと。これが強い現場を作るための絶対条件なんです。

【第1位】年末恒例「リセット大掃除」(モグラ叩きの常態化)

いよいよ第1位です。

これは、この記事の冒頭で触れた「敗北」の正体そのものです。

日本中の工場で、年末の風物詩として繰り返されている、あの光景です。

1年分の汚れを「気合い」で落として感動していませんか?

仕事納めの日。全員で作業着をまくって、洗剤とデッキブラシを持って床を磨く。

機械の裏に溜まった1年分の切粉を掻き出して、油でギトギトになったカバーを必死に拭く。

半日かけて汗だくになった後、ピカピカになった工場を見て「いやぁ、今年も綺麗になったな! 気持ちいいな!」とお互いを労い、ジュースで乾杯して解散する。

……美しい光景ですよね。チームワークを感じますよね。

でも、年が明けて繁忙期が来たらどうなりますか?

1ヶ月もしないうちに、床はまた黒ずみ、機械の裏には切粉が溜まり始めますよね。

そして1年後の年末、また同じ場所を、同じ道具を使って、同じ時間をかけて掃除する計画を立てるんです。

これ、冷静に考えると「1年間かけて汚したものを、最後に帳消しにしている(リセットしている)」だけなんですよね。永遠に終わらないモグラ叩きを、私たちは何年も続けてしまっているんです。

プロの視点(なぜNGか):

あえて厳しい言葉を使います。

これは「事後処理」であって「清潔(未然防止)」ではありません。

5Sにおける「清潔」とは、「掃除をすること」ではなく、「掃除をしなくても済む仕組みをつくること」です。

プロの視点で見れば、「汚れている」ということは「異常」です。

本来やるべきなのは、汚れた後に拭くことではなく、「なぜ汚れたのか?(発生源対策)」を突き止めることなんです。

  • 油が床に垂れるなら、受け皿を作るか、漏れないパッキンに変える。
  • 切粉が飛び散るなら、カバーを延長する。

もし、今年の年末も去年と同じ場所を掃除しているとしたら、それは「この1年間、汚れを防ぐための改善(仕組みづくり)が何も進みませんでした」という、現場としての「敗北宣言」に他なりません。つまり5Sをしてこなかった証拠だということです。

「掃除しなくていい工場」を目指すこと。

それこそが、私たちが目指すべき本当のゴールなんです(なかなか難しいです、苦笑)

脱・NGランキング!「仕組み」としての5S再入門

ランキングを見て、「うわぁ、耳が痛い……」と思った方。安心してください。

実は、世の中の工場の9割は、この「NGランキング」のどこかに当てはまっています。

なぜなら、多くの現場が5S活動をやっている工場の「最初の3S(整理・整頓・清掃)」と「後の2S(+清潔・習慣)」の違いを、本質的に理解していないからです。

3S(整理・整頓・清掃)はただの「モグラ叩き」

はっきり言います。整理・整頓・清掃の「最初の3S」だけの活動を必死にやるのは、終わりのないモグラ叩きをしているのと同じです。

現場は生き物です。毎日生産すれば、モノは増えるし、使えば乱れるし、削れば汚れる。

これを「気合い」や「意識」だけで維持しようとするのは、物理的に不可能です。

最初の3Sだけの活動というのは、放っておけば悪化する現場を、必死にゼロに戻す「現状復帰(リセット)」の繰り返しに過ぎないことを、まずは認めちゃいましょう。

勝ち組工場は「清潔」と「習慣(しつけ)」に命をかける

じゃあ、常にきれいな「勝ち組工場」は何が違うのか。

彼らは、体を動かす3S以上に、頭を使う「あとの2S」……つまり「清潔」と「習慣(しつけ)」に命をかけているんです。

ここでの定義は、教科書的な意味とは少し違います。プロはこう捉えています。

清潔 = 「予防」の仕組み

先ほどのランキング1位でも触れましたが、「清潔」とは「汚れたら拭く」ことではありません。

「そもそも不用品が生まれないようにする」「そもそも汚れないようにする」「そもそも乱れないようにする」工夫のことです。

  • 「掃除が大変」→「カバーを付けて、切粉が床に落ちないようにする」
  • 「工具が戻らない」→「使った後に戻さないと、次の作業ができない治具を作る」

こうやって、「異常な状態にしようとしても異常が生まれない仕掛け」を作ることこそが、本当の「清潔」活動です。

習慣(しつけ) = 「環境」という基盤

そして一番誤解されているのが「習慣(しつけ)」です。

これを「朝礼でルールを唱和させる」「守らない部下を叱る」ことだと思っていませんか? それは間違いです。

プロが考える「しつけ」とは、「個人の意識に頼らなくても、ルールを守らざるを得ない環境を作ること」です。

人間は楽をする生き物です。「並べてください」と口で言うだけでは、絶対に乱れます。

でも、そこに「仕切り板」が入っていて物理的にそこしか置けないようになっていれば、何も言わなくても綺麗に並びますよね。

「守れない作業者」が悪いのではありません。「守りにくい環境」を放置しているのが悪いのです。

この「人が間違えないための環境づくり(仕組みづくり)」こそが、本来、現場のリーダーや管理職が年末年始に考えるべき仕事なんじゃないでしょうか。

まとめ:プロがため息をつく工場5Sの勘違い事例・NGランキング

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今回のランキング、正直「これ、ウチのことだ……」と胸が痛くなった方も多いんじゃないでしょうか。

でも、落ち込む必要はありません。気付けた時点で、改善への第一歩はもう踏み出せていますから。

今回紹介したNG事例すべてに共通しているのは、「個人の頑張り」や「気合い」に依存してしまっているという点です。

人間はミスをするし、忘れるし、楽をしたい生き物です。

その人間に対して「意識を変えろ」「やる気を出せ」と迫るだけの5Sは、もう終わりにしませんか?

重要なのは、人の意識を変えることではなく、「意識しなくてもできる仕組み(環境)」に変えることです。

5Sの「学習」ができる機会と「仕組み」さえあれば、泥臭いモグラ叩きの日々から必ず抜け出せます。

今日からできる最初の一歩

いきなり工場全体を変えるのは無理です。まずは明日、こんなことから始めてみてください。

「現場の写真を1枚撮って、NGランキングと見比べてみる」

スマホで構いません。自分の持ち場、共有の工具棚、あるいは「開かずのロッカー」を1枚撮ってみてください。

そして、この記事のランキングと見比べてみてください。

「あ、これ第3位の『整列アート』になってるな」

「ここは第5位の『テプラ狂想曲』だな」

そうやって客観的に自分たちの現場を見ることができれば、それが「仕組み化」へのスタートラインです。

来年の年末は、大掃除じゃなくて「大改善大会」で盛り上がれるといいですね。

それでは、明日もご安全に!

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この記事を書いた人

 大手総合電機メーカーで20年間経験を積んで平成22年に独立。10年間で600社を超える中小企業支援、そして自らも小売業を立ち上げて業績を安定させた実績を持つ超現場主義者。小さなチームで短期的な経営課題を解決しながら、中長期的な人材育成を進める「プロジェクト型課題解決(小集団活動)」の推進支援が支持を集めている。

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