【あえて言います】中小企業は5Sを目指すな!3S活動を極めて初めて見える「清潔」の本質

【あえて言います】中小企業は5Sを目指すな!3S活動を極めて初めて見える「清潔」の本質

「改善活動の第一歩は、まず5Sから」。

あなたも、きっと一度は耳にしたことがある言葉だと思います。あらゆる改善の専門家や書籍が、まるで合言葉のように、その重要性を説いていますよね。

しかし、本当にそうなのでしょうか?

私は、これまで多くの中小製造業の現場で、その「正解」とされる5S活動に取り組んだものの、いつの間にか活動が形骸化し、現場が疲弊していく姿を目の当たりにしてきました。「清潔」や「躾」といった、どこか抽象的で、捉えどころのない言葉の壁の前で、立ち往生してしまうのです。

もし、あなたも同じような経験をしたことがあるのなら、この記事は、きっとあなたのためのものです。

この記事は、あえて「いきなり5Sを目指すのは、多くの中小企業にとって間違いである」という、少し過激な提言から始まります。

そして、その代わりに、もっと地に足のついた、確実な改善への道筋として、まず「3S(整理・整頓・清掃)をとことん極める」というステップを提案します。なぜなら、3Sを本気で極めた者だけに見えてくる、驚くほど深く、そして本質的な「清潔」という世界の入り口があるからです。

さあ、これまでの常識を一度リセットして、「5Sが続かない」という悪循環を断ち切るための、新しい旅をここから始めましょう。

では今回も読み終えるまでのお時間、しばらくお付き合いくださいませ。

目次

なぜ、多くの中小企業にとって「いきなり5S」は失敗のもとなのか?

まず、なぜ「5Sを目指すな」とまで言うのか、その理由から解説します。これは、5S活動そのものを否定するものでは決してありません。むしろ、最終的に目指すべき、非常に高い理想であると私も考えています。

しかし、多くの中小企業がそこでつまずくのは、取り組む「順番」が違うからなのです。

罠①:「清潔」「躾」という言葉の”抽象性”についていけない

まず、考えてみてください。「整理をしろ」と言われれば、要らないモノを捨てるという具体的な行動が、誰にでもイメージできます。「整頓しろ」と言われれば、モノの置き場所を決めて表示する。「清掃しろ」と言われれば、雑巾を手に、機械を磨く。

3Sまでは、やるべきことが非常に具体的で、シンプルです。

しかし、「清潔を保て」「躾を徹底しろ」と言われた瞬間、どうでしょう。メンバーの頭の上には「?」が浮かびます。「清潔って、具体的に何をすればいいんですか?」「躾って、精神論ですか?」。指示が、具体的な「行動」から、曖-昧な「状態」や「概念」に変わってしまう。この言葉の”抽象性”が、現場の推進力を鈍らせ、活動を停滞させてしまう、最初のワナなのです。

罠②:3Sが中途半端なまま、高すぎる理想を目指してしまう

これが、最も多くの中小企業が陥る、致命的なワナです。

そもそも「清潔」とは、「整理・整頓・清掃が行き届いた状態を、維持するための仕組みづくり」を意味します。しかし、考えてみてください。まだ「整理・整頓・清掃」そのものが定着しておらず、リーダーが号令をかけて、ようやく一時的にきれいになるレベル。一週間もすれば、また元のゴチャゴチャした状態に戻ってしまう「リバウンド」を繰り返している…。

そんな、足元の3Sすらぐらついている状態で、その「維持」という、はるかに高度なテーマに取り組むのは、まだハイハイもままならない赤ちゃんに、「さあ、今日からマラソンの練習だ!」と言っているようなものです。無謀であり、必ず失敗します。

家を建てる時、私たちは、まず地面を固め、頑丈な基礎を作りますよね。その基礎工事が中途半端なまま、立派な柱を立てようとしても、家はすぐに傾いてしまいます。3Sは、まさにその「基礎工事」。この基礎が完璧に固まる前に、その上に応用である「清潔」や「躾」という柱を立てようとしても、うまくいくはずがないのです。

結論:3Sと5Sの決定的違いは「維持・改善の仕組み」の有無にある

では、3Sと5Sの決定的違いは、何なのでしょうか。

それは、3Sが、主に「状態を良くするための、目に見える実践活動」であるのに対し、5Sの「清潔」や「習慣(しつけ)」は、「その良い状態を、二度と悪化させないための『仕組み』を考える、目に見えない思考活動」である、という点にあります。

3Sは、体を動かす「体育」に近いかもしれません。しかし、「清潔」は、論理的に物事を考える「数学」に近いのです。この、活動の性質が全く異なる二つのものを、一緒くたにして「さあ、5Sをやろう!」と始めてしまう。この違いを理解しないまま進むことこそが、多くの真面目な活動が、成果を出せずに終わってしまう、最大の理由なのです。

では、どうすればいいのか?まず「3S活動を極める」ということの本当の意味

私がお勧めするのは、まず「3S活動」を、徹底的に、これ以上ないというレベルまで「極める」ことです。それは、ただきれいにする、ということではありません。

3Sの本当の目的は、その活動を通じて、「なぜ、問題が起きるのか?」という根本原因を考える『思考の習慣』を、チームに根付かせることにあります。一つひとつの活動を、見ていきましょう。

「整理」を極める:不要品が”生まれない”仕組みを意識し始める

一般的な「整理」は、職場に溢れる不要品に赤札を貼り、思い切って捨てる活動です。もちろん、これも非常に重要で、爽快な活動ですよね。

しかし、「整理を極める」とは、その一歩先へ進むことを意味します。

山積みになった不要品の山を前にして、ただ「ああ、スッキリした」で終わらない。そこで、こう自問自答するのです。「なぜ、そもそも、この不要品たちは、ここに生まれてしまったのだろうか?」と。

例えば、ホコリをかぶった古い金型。「これは、もう使わないから」と捨てるのは簡単です。しかし、そこで一歩踏み込み、「なぜ、使わなくなった後も、一年も二年も、現場の貴重なスペースを占拠し続けていたんだ?」と考える。その結果、「廃棄するルールや担当者が決まっていなかった」という、問題の発生源にたどり着くかもしれません。

「整理を極める」とは、単に不要品を捨てるのが上手になることではありません。不要品が発生した原因を川上へと遡り、そもそも不要品が生まれない、職場に侵入してこない「仕組み」を考える。その思考の入り口に立つことなのです。

「整頓」を極める:誰もが”乱せない”仕組みを意識し始める

一般的な「整頓」は、モノの置き場所を決め、表示をすることです。「工具は、この壁の形跡管理に戻しましょう」というルールを決める。素晴らしい第一歩です。

しかし、「整頓を極める」とは、さらにその先を見据えます。

しばらくすると、なぜか元の場所に戻されていない工具が、ポツンと作業台に置き忘れられている。そんな光景を見て、「誰だ、戻さないのは!意識が低いな!」と嘆くのは、まだ二流です。

一流のリーダーは、こう考えます。「なぜ、彼は、元の場所に戻せなかったのだろう?」。もしかしたら、その置き場所は、実際の作業場所から遠すぎて、戻しに行くのが単純に面倒なのかもしれない。もしかしたら、その工具はあまりに頻繁に使うので、いちいち戻すのが非効率なのかもしれない。

そして、「人間の意識や記憶力に頼らなくても、誰もが、自然と、そして無意識に、元の場所に戻してしまうような仕組みは作れないか?」と、知恵を絞るのです。例えば、その工具を使わないと作動しないような安全装置をつけたり、工具置き場そのものを、作業動線の中で最も自然な「仮置き」の場所になるように設計したり。

ルールで縛るのではなく、仕組みで導く。これこそが、「整頓を極める」ということの本質なのです。

「清掃」を極める:”汚れない”仕組みと「点検」を意識し始める

一般的な「清掃」は、汚れた場所をきれいにすることです。床を掃き、機械を磨く。もちろん、きれいで安全な職場は、基本中の基本です。

しかし、「清掃を極める」とは、そこに二つの新しい視点を加えることを意味します。

一つは、「そもそも汚れない仕組みづくり」です。床にたまった切削屑を見て、ただホウキで掃き集めるだけではない。「なぜ、この切削屑は、床に飛び散るんだ?」と考え、それを防ぐための、安価で簡単な「カバー」や「ガイド」を取り付ける。問題の後始末をするのではなく、問題の発生源そのものを断つ。この発想の転換が、あなたの現場のレベルを、一段も二段も引き上げます。

そして、もう一つが、「清掃=点検」という、極めて重要な考え方です。あなたが、愛情を込めて、毎日、機械をピカピカに磨いているとします。すると、ある日、気づくのです。布を拭き上げた感触が、いつもと違う。「あれ?こんなところに、微かな傷があっただろうか?」。あるいは、いつもと違う、ほんの僅かな油のにじみを発見する。

これこそが、大きな設備故障を未然に防ぐ、「異常の早期発見」の瞬間です。「清掃」とは、単なる美化活動ではありません。自分たちの商売道具である大切な設備を、五感を使って健康診断する、最も簡単で、最も効果的な「点検活動」なのです。

多くの現場がぶつかる壁。「3Sだけでは、なぜ維持できないのか?」

さて、あなたのチームが血のにじむような努力で、3Sを極めたとします。職場は、かつてないほどピカピカで、効率的になりました。リーダーであるあなたも、メンバーも、大きな達成感と誇りに満ち溢れていることでしょう。

しかし、なぜでしょう。あれから数ヶ月。あれほど固く誓ったはずなのに、また少しずつ、ほんの少しずつ、職場は元の姿に戻り始めてしまうのです…。

事例で見る「3Sのリバウンド」現象

それは、ある日、本当に些細なことから始まります。

あれほど徹底的に捨てたはずなのに、いつの間にか、資材置き場の隅に、使途不明の段ボール箱が一つ、ポツンと置かれている。完璧だったはずの工具の形跡管理から、一本のスパナが、作業台の上に出しっぱなしになっている。毎日ピカピカに磨いていたはずの機械の足元に、うっすらとホコリが積もり始めている…。

一つひとつは、本当に小さな綻びです。しかし、一度その綻びが生まれると、まるでダムの小さな亀裂のように、それは静かに、しかし確実に広がっていきます。これが、改善活動における「リバウンド」という、恐ろしい現象です。

ダイエットに成功した人が、ほんの少しの気の緩みから、あっという間に元の体重に戻ってしまうように。あれほど輝いて見えた私たちの職場も、気づけば、また昔の、あのゴチャゴチャした姿に逆戻りしていく。この現象こそが、多くの真面目な現場リーダーの心を、ポッキリと折ってしまう、最大の壁なのです。

メンバーの心に芽生える「やっても無駄だ」という徒労感

このリバウンド現象が、現場にもたらす最も深刻なダメージは、物理的な乱れではありません。それは*メンバーの心の中に芽生える、冷たい「徒労感」です。

リバウンドを目の当たりにしたメンバーは、こう感じ始めます。「あれだけ、みんなで時間をかけて、汗水流して頑張ったのに、結局、元に戻るんじゃないか…」「どうせ、またリーダーに言われて、大掃除をやらされるんだろうな」「もう、頑張るだけ無駄だ」。

一度この感情が芽生えてしまうと、改善活動への情熱の火は、急速にその勢いを失っていきます。リーダーが「さあ、もう一度頑張ろう!」と声をかけても、メンバーの反応は鈍く、その目には「どうせ、また同じことの繰り返しでしょ」という諦めの色が浮かんでいる。

この「どうせ」という名のウイルスは、どんな素晴らしい活動も、内側から蝕んでいく、最も恐ろしい敵なのです。

この壁を越える鍵こそが、次のステップ「清潔」である

では、なぜ、あれほど高いレベルまで到達したはずの3S活動が、リバウンドしてしまうのでしょうか。意識が低いから?根性が足りないから?

いいえ、違います。

リバウンドが起きる根本的な原因は、非常にシンプルです。それは、「問題が発生する源流」が、まだ手つかずのまま、あなたの職場に残り続けているからです。

不要品が生まれてしまう「仕組み」。工具が元の場所に戻らなくても、誰も困らない「仕組み」。床が汚れても、すぐに気づけない「仕組み」。これらの、問題を生み出す「蛇口」が開いたままの状態で、いくら床にたまった水を雑巾で拭き続けても(3S活動)、水は決してなくなりません。

そして、その「蛇口」そのものを、固く、固く締め直すための考え方。それこそが、3Sを極めた者だけが、その本当の価値を理解できる、次なるステップ——「清潔」の本質なのです。

【この記事の核心】3Sを極めた者だけに見える「清潔」の本質とは

3Sを徹底的に実践し、「なぜ、維持できないんだ!」という壁に、本気でぶつかったあなたにだけ、この「清潔」という言葉の、本当の意味が見えてきます。

これまで、あなたにとって「清潔」とは、「きれいな状態」を指す、ただの形容詞だったかもしれません。しかし、ここからは違います。本当の「清潔」とは、状態ではなく、未来を創るための、極めて能動的で、知的な「動詞」なのです。

「清潔」の正体①:3Sの状態を維持する「未然防止の仕組みづくり」

まず、5S活動における「清潔」とは、「きれいな状態そのもの」ではありません。それは、「整理・整頓・清掃が行き届いた状態が、絶対に崩れないようにするための、未然防止の『仕組み』を考える活動」そのものを指します。

思い出してください。私たちは、リバウンドの原因が「問題の発生源(蛇口)」が開いたままだからだと知りました。「清潔」とは、その蛇口を一つひとつ、確実に閉めていく作業です。

例えば、「不要品が生まれない仕組み」。これは、定期的に不要品を捨てることではありません。「そもそも、なぜ不要品が生まれるのか?」を考え、発注のルールを見直したり、在庫の持ち方を根本から変えたりすることです。

「モノが乱れない仕組み」。これは、「元の場所に戻せ!」と叱ることではありません。「なぜ、元の場所に戻せないのか?」を考え、工具の置き場所を作業動線の中に組み込んだり、戻さなければ次の作業に進めないような工夫をしたりすることです。

「そもそも汚れない仕組み」。これは、毎日床を掃くことではありません。「なぜ、床が汚れるのか?」を考え、機械にカバーを取り付けたり、屑が飛び散らないような作業方法を考えたりすることです。

このように、問題の後始末(3S)に追われるのではなく、問題が起きる原因を先回りして潰していく。これこそが、「清潔」の第一の正体なのです。

「清潔」の正体②:仕組みを維持・改善できる「人づくり」

そして、「清潔」には、もう一つの、さらに重要な側面があります。それは、その「仕組み」を自分たちで考え、維持し、さらに良くしていくことができる「人材」を育てることです。

どんなに素晴らしい仕組みも、作っただけでは、やがて時代遅れになり、形骸化していきます。大切なのは、その仕組みを、現場のメンバー自身が「自分たちのものだ」と捉え、愛情を込めて育てていくことです。

「リーダー、この仕組み、もっとこうしたら良くなりませんか?」。そんな声が、メンバーから自然と上がってくる。問題が起きるのを待つのではなく、常に「もっと良くするには?」という視点で仕事に向き合える。

辞書を引けば、「清潔」には「人格や生活態度などが正しくきれいであること」とも書かれています。5Sにおける「清潔」が目指すのは、まさにこれです。職場にとって、仲間にとって、良いことだと信じることに、自ら進んで取り組める「美しいヒト」を育てること。この「人づくり」こそが、「清潔」が持つ、もう一つの重要な正体なのです。

つまり「清潔」とは、問題が起きてから対処するのではなく”問題が起きない職場”を作る活動

結論です。

3Sが、すでに発生してしまった問題(汚れ、乱れ、不要品)を解決するための「対処療法」だとすれば、「清潔」は、そもそも病気にならないための体質改善を目指す「予防医学」です。

「清潔」とは、後始-末の活動ではありません。未来を見据え、「そもそも問題が起きようのない、完璧な職場環境」を、仕組みと人の両面から作り上げていく、極めて高度で、創造的な改善活動なのです。3Sを極めたからこそ、その本当の価値と必要性が、心から理解できるのです。

明日からできる!「清潔」の考え方を現場に取り入れるための第一歩

「仕組みづくりや、人づくりと言われても、なんだか壮大で難しそうだ…」と思いましたか?

大丈夫です。ご安心ください。ローマは一日にして成らず。最初から、完璧な仕組みを作ろうとする必要は、まったくありません。大切なのは、まず、あなたのチームに「清潔という考え方(=仕組みで考える思考法)」の種を蒔くことです。

そのための、非常に簡単で、誰でも明日から始められる3つのステップをご紹介します。

ステップ1:3S活動の”リバウンド記録”をつけてみる

まず、あなたの現場で起きている、ごく小さな「リバウンド」の証拠集めから始めましょう。難しく考える必要はありません。あなたのスマートフォンのカメラが、最高の捜査ツールになります。

明日から一週間、あなたは「リバウンド探偵」です。

「先週、完璧に整頓したはずの工具棚から、スパナが一本だけ、作業台に置きっぱなしになっている」。

——カシャッ!(写真撮影)

「あれほどきれいに清掃したはずの、機械の足元に、また同じように切削屑が散らばっている」。

——カシャッ!(写真撮影)

このように、「一度は良くなったはずなのに、また元に戻ってしまった…」という残念な箇所を見つけては、写真と簡単なメモ(例:「9月22日、スパナ置き忘れ」)で、淡々と「証拠」を記録していくのです。

ここでのポイントは、犯人探し(誰がやったか)をしないこと。ただ、客観的な事実だけを集めることに集中してください。

ステップ2:リバウンドの原因をチームで話し合い、「なぜ」を問う

一週間分の「証拠写真」が集まったら、チームで5分だけ、ミーティングを開きましょう。そして、その写真をみんなに見せながら、こう切り出します。「これは、誰かを責めるための会議じゃない。みんなで、この『リバウンド現象』の謎を解く、探偵会議だ」と。

そして、一枚の写真を見せながら、問いかけます。

「なぜ、このスパナは、いつもここ(作業台)に置き忘れられてしまうんだろう?」

「なぜ、この場所は、何度掃除しても、同じように汚れてしまうんだろう?」

これまでなら、「意識が低いからだ」「ルールを守らないからだ」といった、個人の「気合」や「根性」の問題で片付けていたかもしれません。しかし、そこをぐっとこらえ、リーダーであるあなたは、問題の本当の原因を探るための質問を、粘り強く投げかけ続けるのです。

ステップ3:「どうすれば、これが起きなくなるか?」と”仕組み”で考える癖をつける

そして、チームで「なぜ」を考えた後、最後に、最も重要な、魔法の質問を投げかけます。

「じゃあ、みんな。『もっと意識しよう』とか、『ルールを守ろう』という根性論は、一旦忘れよう。『仕組み』の力で、この問題が、二度と起きなくさせることはできないだろうか?」と。

最初は、みんな戸惑うかもしれません。そんな時こそ、リーダーであるあなたの出番です。

「このスパナが戻らないなら、いっそのこと、この作業台のすぐ横に、このスパナ専用の置き場所を新しく作れないか?」

「この床が汚れるなら、そもそも屑が飛び散らないように、段ボールで簡単なカバーを取り付けることはできないか?」

どうでしょうか。

議論の方向が、「誰が悪いのか」という過去を責める話し合いから、「どうすれば未来を変えられるか」という未来を創る話し合いへと、劇的に変わった瞬間です。

この、「人の意識に頼る」から「仕組みを工夫する」への思考の転換こそが、「清潔」という、新しい世界への、最も確実で、最も重要な第一歩なのです。

まとめ:急がば回れ。3Sの徹底こそが、最強の5Sへの唯一の道

今回は、私はあえて「中小企業は5Sを目指すな!」という、挑発的な言葉を投げかけました。ここまで読み進めてくださったあなたには、もう、その言葉の真意がお分かりいただけたことと思います。

それは、決して5S活動を軽んじているからではありません。むしろ、その本質的な価値を誰よりも深く理解しているからこそ、そのあまりに高い頂に、無謀な軽装備で挑んで、挫折してしまうチームを、一つでも減らしたい。そんな心からの想いからです。

ことわざに、「急がば回れ」とあります。まさに、私たち中小企業の改善活動は、この一言に尽きます。

いきなり5Sという完成形(見た目)を目指す道は、一見、近道に見えるかもしれません。しかし、その道は、基礎が固まっていないが故に、「リバウンド」という名の土砂崩れが、何度も、何度も、あなたの行く手を阻みます。その度に戻ってやり直す時間は、あまりにも大きな無駄です。

一方で、まず3Sをとことん極めるという道は、一見、遠回りに見えます。しかし、それは、一歩一歩、自分たちの足元を固めながら進む、最も安全で、最も確実な登山道です。

そして、その道を懸命に登り、「なぜ、どうしても維持できないんだ!」という壁にぶつかり、本気で悔しい思いをした時にこそ、あなたは、初めて「清潔」という、本当の頂きの意味を知るのです。3Sのリバウンドという「痛み」を知らない者に、「清潔」という「仕組み」の本当のありがたみは、決して分かりません。

だから、焦らないでください。よそはよそ、うちはうち。

まずは、あなたの現場の3S(整理・整頓・清掃)と、とことん、誠実に向き合ってみてください。その道を極めた先に、あなたのチームは、どこにも負けない、本物の5S、いや、「最強の5S」を手に入れているはずですから。

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この記事を書いた人

 大手総合電機メーカーで20年間経験を積んで平成22年に独立。10年間で600社を超える中小企業支援、そして自らも小売業を立ち上げて業績を安定させた実績を持つ超現場主義者。小さなチームで短期的な経営課題を解決しながら、中長期的な人材育成を進める「プロジェクト型課題解決(小集団活動)」の推進支援が支持を集めている。

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