【第3回】清掃・清潔で変わる現場の質|異常に気づき、仕組みで守る5Sの実践

皆さん、こんにちは。中小企業診断士の吉岡です。

第二回の記事では、整理・整頓の重要性や、実際に現場で始める際の流れを解説いたしました。

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整理・整頓を進めた現場は、一見すると完成形に見えます。
しかし、そこに“汚れ”や“ほこり”が残っていると、設備の異常や不良の兆候を見逃すことになります。
つまり、整理・整頓でつくった「見える状態」を、清掃・清潔によって「維持し、さらに高める」ことが重要です。

清掃とは、単なる掃除ではなく“異常の発見”そのもの。
清潔とは、汚れが発生しないよう“仕組みで守る”こと。
この二つを徹底できるかによって、現場の品質と安全性は保たれ、さらには収益性の向上にまで繋がり得ます。

本稿では、整理・整頓の次に取り組むべき清掃・清潔の本質と、これが不良率低減や安全性向上につながる仕組みを、具体的な事例を通じて考えます。

目次

清掃と清潔の違いを理解する

まずは、基本的なところ、清掃と清潔について理解を深めていきましょう。

皆さんの職場では、既に整理と整頓は始まっているはずです。

ここから、職場の環境をより良くしていくためにも、清掃と清潔の違いを整理することを実践の第一歩にしていきます。

清掃:汚れを除去する活動

整理・整頓によって現場が整うと、次に見えてくるのが“汚れ”です。
床の油染み、機械の粉塵、棚の埃——こうした小さな汚れは、作業環境の乱れだけでなく、製品品質の劣化や設備トラブルの前兆を示しています。

清掃とは、単に「きれいにする」ことではありません。
汚れを取り除く過程で、異常を発見するための点検活動でもあります。

アンテナを張って、なぜその汚れがこの位置にあるのか、しっかりとその原因を探ることが重要です。

  • 機械に付着した油の色や量を観察すれば、オイル漏れや部品の摩耗を早期に察知できる。
  • 床の汚れの形跡から、原材料のこぼれや運搬ルートの問題に気づくこともある。

このように清掃は、見た目を整える行為ではなく、「異常に気づくための感度を高める行為」なのです。
そして、異常に早く気づける現場は、結果として設備の寿命を延ばす現場でもあります。
油の滲みや粉塵の蓄積を放置すれば、熱や摩耗が進み、機械は本来の性能を発揮できなくなる。
日々の清掃を通じて小さな変化を見逃さなければ、重大なトラブルを未然に防ぎ、保全コストを抑えることができます。
清掃とは、単なる美化ではなく、「異常の早期発見から予防保全までをつなぐ一連の行為」なのです。


清潔:汚れが発生しない仕組みづくり

いくら清掃を繰り返しても、すぐに汚れてしまう環境では意味がありません。
清潔とは、「汚れを取り除いた後、「汚れが生まれない状態を維持すること」です。

このように定義をすると、清掃と清潔が一連の取組であることがわかるのではないでしょうか?

清掃の過程で、特に汚れが頻発する箇所や機器は仕組みによる対策を講じることを検討すると良いでしょう。

  • 粉塵が多い工程であればカバーや吸引装置を設置する。
  • 油が漏れやすい機械なら、ドレンパンや吸収マットを工夫する。

“汚れる原因を断つ”ことで、清掃作業そのものを減らし、品質を安定させる仕組みをつくること、これが清潔の本質です。

人の努力ではなく、仕組みが清潔を保つようになってはじめて、5Sが現場に定着したと言えます。


形だけの清掃で終わらせないために

多くの現場では、“掃除当番”や“週1回の清掃時間”といった形だけの取り組みで満足してしまいます。

そして、その作業もルーティン的に、一定範囲を掃除するだけで終わってしまうことも珍しくありません。
確かに、床がきれいになること自体はいいことでしょう。
しかし、それだけでは「一時的にきれいになっただけ」で、現場の質は変わりません。

重要なのは、清掃を通じて「どんな異常に気づいたか」「それをどう防止したか」を考えることです。
清掃後に報告欄を設けて記録する、異常を見つけたらそのまま改善につなげる。
そうしたサイクルがなければ、清掃は“単なる作業”で終わってしまいます。

前回の記事である整理・整頓と併せて、清掃・清潔を定義すると、5Sの維持・徹底も業務の一つとして非常に重要であるとわかると思います。

清掃は点検の入口であり、清潔は維持の仕組み。
この2つをセットで考え、生産性の維持・工場のための取組であると考えると、現場の“質”が大きく変わり始めます。

清掃の導入ステップ:異常を発見する力を育てる

清掃と清潔の違いや、その重要性についてはご理解いただけましたか?

ここからは、まずは清掃をどのように職場で始めるか、そのステップについて解説をしていきます。

先程の章でも触れた通り、清掃は清潔にも繋がる取り組みになります。

まずは、この章をご一読してもらった上、実践してください。

ステップ1 「掃除」ではなく「点検」であると理解する

全員に「清掃=点検活動」という認識を職場に根付かせることが最初のステップです。

目的が“きれいにすること”ではなく、“異常を見つけること”であると理解し、

それを実践しなければ、清掃の本来の目的は達成できません。

現場ミーティングで「なぜ清掃を行うのか」を言語化し、写真や実例を使って目的を明確にします。

単なる掃き・拭き掃除とは異なる次元の取組であるという認識を全員で共有しましょう。


ステップ2 基準を決める

「どの状態が清掃が行き届いていて、どの状態が汚れているか」「どこを誰が担当するか」を曖昧にしたまま始めると、結局誰も責任を持たなくなります。

“清潔である状態”を写真で示し、ありたい姿を見える化することで、清掃の基準を全員で共有します。

理想は、「床に油がない状態を正常とする」「棚の上に埃が見えない状態を基準とする」といった具体的なレベル感で基準を示すことです。

人によって、綺麗/汚れいている の感覚は違います。個人の感性の範囲で、清掃活動、さらには5Sの達成度がずれてしまわないように可能な限り明確な基準を示しましょう。

この基準がなければ、改善の評価も継続もできませんし、モチベーションが続かず、形骸化してしまう恐れがあります。

ステップ3 Before/Afterで成果を記録する

清掃を一回きりの活動で終わらせないためには、Before/Afterの記録が効果的です。

写真で残すことで、「どの部分に汚れが集中していたか」「どんな変化があったか」を客観的に把握できます。

そして、この章の冒頭に述べた通り、清掃は清潔のためのデータ収集でもあります。

Before/Afterの記録に加え、汚れが発生する頻度やその程度、あるいはそれによって生じうる影響などを数値で管理することが出来れば、速やかかつ効果的に、清潔の徹底に入ることができるでしょう。

このような取り組みとすることで、清掃を単なる美化ではなく、改善ポイントを見える化するツールとなります。

ステップ4 成果を全員で共有する

清掃の効果を持続させるには、個人の努力を「チームの成果」として共有する仕組みが欠かせません。
ステップ3で収集したデータや、改善後の作業効率の変化などを掲示板や朝礼で共有することで、努力の成果が目に見える形で評価されます

清掃で得られた改善点を見える化すれば、「誰がどのような工夫をしたのか」が全員に伝わり、他部署への波及も期待できます。
また、成果の共有は称賛の機会にもなります。
「よく気づいた」「助かった」という一言が、次の改善意欲を引き出す最大の燃料になります。

清掃は継続的な活動だからこそ、“成果を可視化して称賛する”ことで組織のモチベーションを保つことが重要です。
結果を共有する場がある現場は、清掃が文化として根づく現場へと変わっていきます。

更には清潔に発展させる領域を議論する際にも、他の人やチームの担当領域を把握しておくことで、意思決定がスムーズに進む可能性が高いです。

そのためにも、組織として清掃の状況を把握できる体制を構築するようにしましょう。

清潔の導入ステップ:仕組みで維持する

ここからは、「清掃で発見した異常」をもとに、汚れが発生しない仕組みづくりへと進んでいきます。

先に述べた通り、清掃が「異常を見つける活動」であるのに対し、清潔は「異常を発生させない状態を保つ活動」です。

つまり、清掃と清潔は独立したものではなく、点検と予防の連続したサイクルなのです。

清潔を維持し、現場を安定稼働を維持するための導入ステップを以下に示します。

ステップ1 汚れの原因を特定する

清掃のステップ3・4で特に問題となっている汚れは把握できていることでしょう。

そしてその頻度や影響などまで集計できていれば、清潔に進む準備が整っていると言えます。

そのような汚れが特定できた後には、「なぜ汚れるのか」を明らかにすることが第一歩です。

粉塵が多い、油が漏れる、水滴が飛ぶ、原材料がこぼれやすいなど、原因はさまざまです。

ここで重要なのは、「汚れたから掃除する」という反応的な対応から、「汚れの発生を防ぐ」視点へ切り替えることです。

清掃記録やBefore/Afterの写真、日々の点検結果をもとに、どこで・いつ・どのような汚れが発生しているかを具体的に分析します。

そこで得た仮説を基に、次のステップへと着手していきます。

ステップ2 原因を断つ仕組みをつくる

汚れの原因を特定したら、それを「人の努力」ではなく「仕組み」で断ち切ります。

たとえば、作業のたびに金属粉が飛び散るようであれば、工程自体を見直し、集塵機の位置や作業姿勢を最適化する。

薬品や液体がこぼれやすい場合は、容器やノズルの形状を変えるだけでも、飛散を大幅に減らせます。

また、油脂や樹脂などの汚れが付きやすい箇所には、汚れが付着しにくい素材やコーティングを採用することも有効です。

こうした工夫は、単なる掃除の手間を省くためではなく、“汚れの発生源を工程レベルで潰す”ための設計変更です。

人が頑張らなくても清潔が保てる状態を目指し、「汚れを除去する現場」から「汚れを生まない現場」へ転換していく。
それこそが、清潔を定着させるための仕組みづくりです。

ステップ3 清潔な状態を見える化する

清潔を維持するためには、状態を“誰が見ても分かる”ようにすることが大切です。
たとえば、「床が白く見える」「部品置き場に埃がない」「配線に油染みがない」といった具体的な状態を写真で示し、清潔の基準を視覚化します。

また、点検表やチェックリストに清潔の項目を組み込み、
「清掃後に確認すべきポイント」「異常を発見したときの報告ルール」を明文化しておくと効果的です。

さらに、月次や週次で清潔度をスコア化すると、現場全体での維持状況を把握できます。
「きれいかどうか」を主観で判断しない、客観的な評価の仕組みが重要です。

ステップ4 効果を検証し、成果を全員で共有する

清潔の仕組みを整えたら、次に行うべきは効果の検証と共有です。
どんな成果が出ているのかを数字と実感の両面から把握し、全員で共有することで活動が定着していきます。

清潔の徹底は、現場のあらゆる指標に良い影響をもたらします。

汚れが減ることで故障やトラブルが減り、設備稼働率が上昇します。

また、異物混入や油滴の付着が減ることで、不良率の低下にも直結します。

さらに、床や通路の清潔さが保たれることで、安全性の向上や作業効率の改善にもつながります。

その他にも、主な評価指標としては、次のようなものが挙げられます。

  • 歩留まり
  • 事故・ヒヤリハット件数
  • 清掃・点検実施率
  • 改善提案件数
  • 作業効率(移動時間や段取り時間の短縮)

これらの数値を定期的に確認し、朝礼や掲示板などで共有することで、現場全体が「成果を実感できるサイクル」に入ります。
小さな改善であっても、効果を“見える化”して称賛することが継続の原動力になります。

清潔の成果を定期的に検証し、共有すること。
それが、5S活動を一過性の取り組みではなく、組織文化へと育てる鍵になります。ば、清潔活動は組織全体の知恵となり、継続的な進化を続けます。

清掃・清潔を実践している企業事例

ここまで、清掃・清潔のステップを見てきました。

ここからは、具体的な企業での取り組みを見ることで、先ほどまでご紹介していた効果を実際に得ている事例を見てもらいます。

これまでの内容を現実に実行していて、そのメリットを得ている企業がいることを知ることで、皆様が一歩踏み出すきっかけになれば幸いです。

トヨタ自動車――清掃=点検を起点にした「自主保全」

トヨタでは、清掃を単なる美化活動ではなく、設備の異常を早期に発見するための仕組みとして位置づけています。

現場の作業者が自ら機械を点検し、汚れやゆるみを見つけたらすぐに対策を取る。

この「自分たちで設備を守る文化」が、トヨタの生産現場を支えています。

活動の流れは、まず清掃しながら異常を見つける(初期清掃)

次に、汚れや不具合が起こりやすい原因を突き止めて対策する

そして、最後に“きれいな状態を保つ基準”を全員で共有するというものです。

こうして、清掃と点検が一体化した仕組みが整えば、
「壊れてから直す」ではなく「壊れる前に気づける」現場になります。

トヨタの現場が安定稼働を続けられる理由は、まさにこの“清掃を通じた気づきの仕組み”にあるのです。

ニチレイフーズ――“工程で品質を作り込む”清潔管理

ニチレイフーズでは、清潔を「衛生管理」ではなく品質をつくり込む仕組みとして捉えています。

最終検査で不良を見つけるのではなく、工程の中で不良を次工程に流さない

そのために、現場ごとに点検ルールや記録方法を細かく定め、清掃・点検・検査を連動させています。

さらに、異物や汚れの発生原因を突き止めるための専門ラボを本社内に設置し、
全国の工場からのデータを集めて共有。

清潔度の基準を数値で管理しながら、改善結果を全社的にフィードバックする仕組みを整えています。

「清掃を頑張る」ではなく、「清潔を仕組みで維持する」。
その考え方が全社に根づいた結果、品質の安定と安全性の両立を実現しています。

まとめ:5Sの意味を問い直す

第二回の記事と併せて、5Sが思っていたより“深い”活動だと感じた方も多いのではないでしょうか。

単なる整理整頓や掃除の話ではなく、5Sは現場を通じて組織を変えるための仕組みです。

そして、工場の生産性や安全性、利益率などにも影響を及ぼすような、地盤を固めるような動きです。

更には、5S活動を続けると、職場の景色だけでなく、人の意識も変わります。
「汚れに気づく」「異常を放置しない」「改善を自分ごととして捉える」――
その積み重ねが、企業文化そのものを形づくっていきます。

このように、5Sを通して、仕事の基本・考え方・姿勢を磨かれることは、生産性を上げる以上の効果があるのかもしれません。

5Sは、誰かに言われてやるものではなく、自分たちの仕事をより良くするための意識のアップデートです。

整理・整頓・清掃・清潔――そして次回の「習慣(しつけ)」へ。

形を整える段階から、文化を育てる段階へと、一歩ずつ進んでいきましょう。

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この記事を書いた人

コンサルティングファームに6年勤務し、大小問わず様々な企業の支援を行った後、中小企業診断士として独立。
机上論ではなく、現場で実行可能な支援を行うことを信条とし、生産性向上・5S等の製造現場支援や、モチベーションアップなどの組織構築支援を専門とする。

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