【第1回】なぜ5Sが定着しないのか?|現場改善の成功と失敗を分けるもの

【あえて言います】中小企業は5Sを目指すな!3S活動を極めて初めて見える「清潔」の本質

皆様お久しぶりです。中小企業診断士の吉岡です。

以前は、生産性の向上をテーマにブログ連載をしておりましたが、今回から、5S活動をテーマに全五回の連載を寄稿させていただきます。

さて、皆様は5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・習慣(しつけ))についてどのような印象をお持ちでしょうか?

研修等でこのようなお話をすると、下記のようなお声が聞こえてきます

・時間がなくてできない

・意識に差があって徹底されない

・一度やってもすぐに汚くなるからやる気が起きない

・最初は一生懸命だったけど、もう誰もやっていない

皆様の中にも、このような印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

実際、私自身も、5Sが徹底されている現場を訪れる前には、上記の印象を持っていました。

この5回の連載を通して、5Sの重要性や必要性について、ご認識いただいた上、現場に定着させるためにどうしたらいいのかのヒントをお伝えしていきます。

まず、初回は、5S活動を改善・定着化させる前に整備しておく必要のある、組織体制についてをテーマとします。

いくら必要性を説いたところで、従業員の方々にやる気になってもらうためには、制度設計も不可欠です。

本稿では、形骸化する5Sの共通点と、定着している現場の違いを整理します。

目次

5Sの基本とよくある誤解

さて、まずは5Sの基本についておさらいをした上で、よくある誤解を紐解いていきます。

5Sという言葉を知らない人は、製造業従事者ではいないと思いますが、その理想や思想まで知っているという方も、少数であると感じています。

最初にその点の認識を整理しましょう。

ただの掃き掃除を5Sとは言わない

少々挑発的な見出しですが、実際に私が支援をした企業の中には、朝の掃き掃除の時間を指して、5S活動と銘打っている企業がいました。

本稿を読んでいる方も、この支援先の行動を5S活動とは言わないことを直感的にご理解いただけるとは思います。

ただし、5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣(しつけ))というと、多くの人が掃除や「掃除」や「片付け」を連想することも事実です。
確かに、整理・整頓・清掃という行為そのものは、見た目を整える活動です。
しかし、それはあくまで手段であって目的ではありません。

5Sの本質は、「ムダの排除」と「異常の発見」を通じて、仕事の質を高めることにあります。
つまり5Sとは、生産性を上げるための“考え方”の訓練なのです。
敷地内を掃く、机を拭く、棚を整える──それらの行為の背後に「なぜ」「どんな効果を狙うのか」という意図が伴ってこそ、5Sになります。

形だけの5Sが現場に与える悪影響

よくある失敗は、形から入って形のままで終わることです。
「通路に線を引いた」「棚にラベルを貼った」「工具を並べた」──それで満足してしまう。
これらは一見きれいに見えますが、現場の意識が変わっていなければ、数週間で元通りになります。

また、一度会社として「やる」といったことが定着しないで尻すぼみになることは、ただ単にやっていなかった状態よりも厄介です。

形だけの5Sは、むしろ社員のやる気を奪います。
「どうせまたすぐ汚れる」「やっても意味がない」という空気が広がれば、改善の芽は摘まれてしまう。

そういった空気が蔓延してしまうと、5S以外の改善活動にも影響が及び、会社からの号令そのものに対する不信感ややらされ感が起きてしまう危険すらあります。
5Sが“苦行”になるのは、目的が共有されていないからです。

「なぜやるのか」「誰のための活動なのか」を語らないまま始めれば、形骸化は避けられません。

5Sを「目的」ではなく「手段」として捉える視点

5Sはゴールではなく、あくまで改善を回すための基礎体力づくり
整理や整頓は“見える化”の手段であり、清掃や清潔は“異常検知”の手段です。
習慣(しつけ)は、これらの行動を「自律的に続けるための文化」をつくる仕組みです。

つまり、5Sは「現場を良くするための道具」であり、「ルールを守らせるための規律」ではありません。
この発想の転換こそが、5S定着の第一歩です。

そして、5S活動によって利益を得られる主体は、他でもない自分たちであること。

この周知徹底とやり切るという覚悟を持つことが経営層の一番重要な役割といっていいでしょう。

5Sが定着しない現場に共通する課題

前章では、5Sの本質を見失い、形だけの活動に陥る危険性を整理しました。
では実際の現場では、どのような要因で5Sが続かなくなるのでしょうか。

理由を突き詰めていくと、どの職場にも共通する“3つの壁”があります。
「続かない」「伝わらない」「人任せになる」。
このうち一つでも欠けていれば、5Sは必ず形骸化していきます。

継続できない:やらされ感による形骸化

最も多いのは、「最初は盛り上がったのに、続かない」というパターンです。
実施当初は社内報に載ったり、朝礼で宣言したりと勢いがあります。
しかし、数ヶ月後には「誰もやっていない」という状況に戻ってしまう。

この背景には、やらされ感があります。
上からの号令で始めた活動は、どうしても「業務の一部」ではなく「追加作業」になってしまう。
結果として、“やらないと怒られるからやる”という消極的な行動に変わります。

本来の5Sは、「自分たちの働きやすさを自分たちでつくる活動」です。
にもかかわらず、指示命令の延長で行われると、目的と手段が逆転します。

さらに厄介なのは、形だけの活動が続くことで、「5Sは退屈で意味がないもの」という固定観念が職場に根づいてしまうことです。
この“集団的な諦め”を一度生んでしまうと、後から立て直すのは容易ではありません。

したがって、最初に「なぜやるのか」を丁寧に共有し、個人の納得感をつくることが欠かせません。
続かない5Sには、必ず「目的の不在」があります。


座学だけで終わる:現場と乖離する教育

次に多いのは、教育の方法が現場と噛み合っていないケースです。
社内研修でスライドを使い、5Sの定義を説明し、理解度テストを実施──
これで終わってしまうと、頭ではわかっても体が動かない。

5Sは「実践して初めて身につく」技能です。
たとえば整理の効果は、不要物を実際に捨ててみて初めて実感できます。
整頓の価値も、工具を探す時間を計測してみて初めて腑に落ちる。

ところが多くの会社では、教育と実践が分断されています。
管理部門が研修を企画し、現場は「言われたから受ける」。
そして受講後に「じゃあ、明日からどうする?」という問いが宙に浮く。

つまり、教育が行動設計につながっていないのです。

5S教育の本質は、「考え方の理解」ではなく「現場での成功体験づくり」にあります。
小さなエリアでもいい。
現場が自分の手で“やってみて良くなった”という感覚を得ること。
この成功体験がなければ、5Sは永遠に“知識”で終わります。


属人化:一部の熱心な人に依存してしまう

最後に、5S活動を支えているのが「一部の熱心な人」になってしまうケースです。
どの現場にも、誰よりも整理整頓に熱心な方がいます。
こうした人の存在は貴重ですが、活動がその人頼みになってしまうと、持続しません。

属人化した5Sは、「その人がいなければ止まる」活動になります。
そして往々にして、推進者が異動・退職した途端に活動が消える。
そのたびに「うちは5Sが続かない会社」というレッテルが強化されていくのです。

5Sを定着させるには、「誰でも回せる仕組み」をつくる必要があります。
たとえば、点検表や当番制を設ける、チェックリストを共有する、週次で進捗を見える化する。
こうしたルールを整えることで、人に頼らない5Sに変わります。

制度的な支えがなければ、現場の善意に依存する活動は必ず限界を迎えます。
つまり、属人化とは「組織で支えようとしない文化の結果」なのです。

5Sが定着している現場の特徴

5Sが続かない会社がある一方で、何年も安定して成果を出し続ける現場も存在します。
両者の違いは、努力量や熱意の差ではありません。
違いを生むのは、「仕組みのつくり方」です。

定着している現場では、5Sが“特別な活動”ではなく、“日常業務の一部”として組み込まれています。
ここでは、そうした現場に共通する3つの特徴を整理します。


改善を仕組みに組み込んでいる

多くの企業では、5Sを「やる/やらない」で管理しています。
しかし定着している現場では、「やる」ことを前提に仕組みを設計しています。

たとえば、
・毎日の点検表に整理整頓のチェック項目を入れる
・改善提案制度のテーマに「5S活動」を含める
・月次のミーティングで5Sの進捗を共有する
このように、5Sを“別の活動”として切り離さず、既存の業務サイクルに統合しています。

結果として、「特別な時間を取らずにできる」仕組みが定着を支えています。
5Sを継続するコツは、新しいことを増やすのではなく、既存業務の中に織り込むことです。

また、改善が自動的に回るようにするには、成果の“点検ルール”を明文化することが欠かせません。
誰が・いつ・どこを・どの基準で見るのかを決めることで、
5Sは「習慣」から「制度」に変わります。


成果を「見える化」しモチベーションにつなげる

5Sを続けるには、成果の実感が欠かせません。
努力が形として見えない活動は、どんなに意義があっても長続きしません。

たとえば、整理整頓のBefore/Afterを写真で残す。
改善ボードを作って進捗を共有する。
月間の優秀チームを表彰する。
こうした「見える化」は、現場の誇りを育てます。

また、数値化できる指標を設けるのも有効です。
「工具を探す時間」「不良発生件数」「歩行距離」など、
5Sによって変化した具体的な数値を出せば、改善の手応えが共有できます。

成果を可視化することで、「やらされている」から「成果が出るからやる」へと意識が変わります。

そして、その成果に対して、信賞必罰の評価を行うことも重要です。

社内表彰でもいいですし、人事考課の項目に加えるでも構いません。

やっている人が損をしない、やっている人が報われる会社を作り、その成果が本人の達成感としても実感でき、会社もそれに報いる、このサイクルが、従業員の自発的な行動を生み出します。
この心理的転換が、継続を支える最大のエネルギーになります。


経営層が現場と一緒に実践している

もう一つの大きな違いは、経営層の関わり方です。
5Sが根づいている会社では、経営者や管理職が現場を“見に行く”だけでなく、“一緒にやる”姿勢を示しています。

たとえば、社長が週に一度現場を歩きながら清掃を手伝う。
工場長が点検結果を自ら共有し、改善案を称賛する。
そうした日常の行動が、現場に「5Sは会社全体の文化だ」というメッセージを伝えます。

また、こういった直接的な関与だけではなく、例えば5Sの徹底を前提とした組織設計を行う、工場レイアウトを構成するといった、経営マターとしての案件に対する理解も試されます。

上述の、既存業務の中に織り込もうにも、仮に現状の業務の負荷が100%だとすると、それ以上の負荷を与えることはできませんよね。

既存業務に織り込むのであれば、会社としてもそこに対して工数やコストを掛ける意思決定が必要になります。

逆に、経営層が見ているだけでは、5Sは「現場の仕事」で終わります。
5Sの定着には、“姿勢の共有”が欠かせません。
経営が率先し、現場と同じ温度で動くこと。
それが、最もシンプルで、最も効果の高い仕組みです。

成功事例の比較

第3章では、5Sが定着している現場の共通点として、
「仕組みへの組み込み」「成果の見える化」「経営層の関与」を取り上げました。

では実際に、それらを実践して成果を上げている企業は、どのような工夫をしているのでしょうか。
ここでは、5Sの定着に成功した代表的な2社の事例を取り上げ、その共通点を探ります。

枚岡合金工具株式会社:探すムダをなくした型板管理の徹底

大阪市生野区に本社を構える枚岡合金工具株式会社は、金型・精密機械部品の製造を行う中小企業です。
同社の5S活動は、国内外からの視察が絶えないほど有名です。

きっかけは、「工具を探す時間」が膨大にかかっていたことでした。
ある社員の“探す時間”を測定したところ、一日で30分以上を費やしていたのです。
この「探すムダ」をなくすために、同社が徹底したのが型板管理です。

工具の形をトレースした型板を作成し、定位置・定品・定量を明確化。
誰が使っても、どの工具がどこにあるのか一目でわかるようにしました。
このように「使う→戻す」を仕組みで支えることで、探す時間のゼロ化を目指しています。

さらに、改善内容をデジタル化して共有する仕組みを整え、社内全員がリアルタイムで進捗を確認できるようにしました。
これにより、“気づき”が個人の努力ではなく組織の知恵として蓄積される状態が生まれています。

枚岡合金工具が特筆すべきなのは、“きれいな現場”を目指したのではなく、“考える現場”をつくった点です。
同社では5Sを「仕事の整理整頓」ではなく、「思考の整理整頓」と位置づけています。
経営層が先頭に立ち、社員一人ひとりが目的を理解して動く文化が根づいた結果、
5Sは活動ではなく、企業体質そのものとなっています。


明和工業株式会社:整理整頓を標準化し、不良率を低減

次に紹介する明和工業株式会社は、金属加工を中心とした製造業で、整理整頓を生産性向上の基盤に据えた企業です。

同社では、整理・整頓を“作業の前後工程”に組み込みました。
作業開始前に使用工具の点検と配置確認、終了後に整頓と清掃をルール化。
これを標準作業の一部として明文化し、全員が同じ手順で動く体制をつくりました。

ルールを定めるだけでなく、点検チェックシートや改善掲示板などの「見える化」も同時に進めました。
社員全員が現場の改善状況を共有できるようにしたことで、取り組みのバラつきが減少。
結果として、不良率の低減や段取り時間の短縮が実現しました。

特筆すべきは、5Sを単なる“整える活動”として扱わず、
「品質向上の仕組みづくり」として定義している点です。
この発想の転換により、5Sが“生産性を生む活動”として全社的に受け入れられたのです。

また、現場のリーダーが中心となって改善を回し、経営層が制度で支えるという“現場主導+制度化”の体制を構築。
この分担が、活動の持続性を高める鍵となっています。


成功企業に共通する「現場主導+制度化」の構造

枚岡合金工具と明和工業。
両社の取り組みには、いくつかの共通点があります。

第一に、5Sを業務に組み込む仕組みを持っていること。
日常点検や標準作業の一部として位置づけることで、継続が自然な流れになっています。

第二に、成果の見える化と共有を重視していること。
Before/Afterや数値指標を活用し、努力を可視化することで、現場に達成感が生まれています。

そして第三に、経営層の関与と支援です。
どちらの企業も、経営層が現場をよく理解し、5Sを経営戦略の一部として扱っています。
「時間を割く」「予算をつける」「仕組みにする」──この3つを実行している点が共通しています。

5Sを定着させるには、やる気や根性ではなく、制度と文化の両立が不可欠です。
現場が自ら考え、会社がそれを支える。
その構造こそ、長期的な改善を支える「本物の5S」の姿です。

まとめ:5Sは、組織を強くする出発点である

5Sは、現場改善の原点であり、どんな企業にとっても欠かせない取り組みです。
ただし、単に「やること」を増やすだけでは、成果は続きません。

整理・整頓・清掃を通じて現場を整えることは、
同時に、組織の考え方や仕組みを整えることでもあります。
5Sを継続させるには、経営が意図を示し、現場が自律的に動ける仕組みを整えることが必要です。

5Sは活動ではなく、組織を動かす土台です。
この仕組みを定着させることが、持続的な成長につながります。

次回は「整理・整頓がなぜ最優先か?」として、
5Sの中核をなす2Sを掘り下げていきます。

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この記事を書いた人

コンサルティングファームに6年勤務し、大小問わず様々な企業の支援を行った後、中小企業診断士として独立。
机上論ではなく、現場で実行可能な支援を行うことを信条とし、生産性向上・5S等の製造現場支援や、モチベーションアップなどの組織構築支援を専門とする。

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