【第4回】5Sを文化にする|習慣(しつけ)で現場を変える仕組みを作る

皆様こんにちは、中小企業診断士の吉岡です。

前回・前々回の連載では、5Sのうち、整理・整頓・清掃・清潔について触れてきました。

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どれだけ、上記の4つのSを進めようとして、一時的に状態が改善されたとしても、

それが継続できなければ、意味がありません。

そうならないように、組織への定着を図る取り組みであり、5つ目のSが「習慣(しつけ)」です。

5Sは、モノや場所を整える活動であると同時に、
人の行動や意識を整える「しつけの仕組み」でもあります。
つまり、5Sが続くかどうかは、現場の“文化”として根付くかにかかっています。

本稿では、「やらされている5S」から「やるのが当たり前の5S」へ、まさに習慣を変えるために何をすべきかについて記載していきます。
どのように、5S活動を文化として現場に定着させるか、考えていきましょう。

目次

習慣(しつけ)が5Sを左右する理由

5S活動が始まったばかりの現場では、整理・整頓・清掃が一気に進み、目に見えて成果が出ることがあります。
しかし、数か月後に同じ場所を訪れると、工具が散乱し、掲示物が剥がれかけ、いつの間にか元の姿に戻ってしまっている――そんな光景も珍しくありません。

つまり、5Sは「やり方」だけでなく「続け方」に本質があります。
いかにきれいに整えたとしても、それを維持する仕組みがなければ、元に戻るのは時間の問題です。
そして、その“維持する力”の源こそが、「習慣(しつけ)」なのです。

この章では、なぜ5Sの成否が“しつけ”によって左右されるのかを整理し、
「習慣化」と「文化化」の違い、そして“人ではなく仕組みで支える”という視点から考えていきます。

習慣化と文化化の違い

5Sにおける「習慣(しつけ)」を考えるうえで、まず理解しておきたいのが「習慣化」と「文化化」の違いです。

似たような言葉に聞こえるかもしれませんが、その中身は全く異なります。

「習慣化」とは、個人が意識して行動を繰り返す段階です。
たとえば「使ったら元の場所に戻す」「掃除の前に工具を片付ける」といった行動が、
意識しなくても自然にできるようになることが習慣化にあたります。
これは一人ひとりの訓練や意識づけ、5S活動の理解度の向上によってなされます。

一方、「文化化」とは、組織全体で“そうするのが当たり前”という状態が共有されていることです。
つまり、個人の意識と組織の意識が同じ方向を向き、周囲の雰囲気や仕組みがそれを後押ししている段階です。

習慣化が一人一人の従業員に根付いていることを前提として、
更に誰かが片付けを忘れれば、自然と誰かが声をかける。
工具が定位置にないと、違和感を覚える。
一日の終わりにはルール通り整然とした職場になっている。
こうした状態が「文化」として根付いた現場です。

習慣化は「個人の努力」、文化化は「組織の仕組み」によって成り立ちます。
5Sを本当に定着させるには、個人の努力に加え、文化として支える仕組みづくりが欠かせません。


ルールを守る仕組みがない現場の失敗例

5Sが続かない現場の多くには、「ルールを守る仕組みが存在しない」という共通点があります。
たとえば、整理整頓を始めた当初は全員が意識的に取り組みますが、時間の経過とともに“確認する人”がいなくなる、教育が行き届かず、新入社員は5Sのルールを理解していない、などの課題が起きてきます。
結果として、ルールが形骸化し、「以前ほど厳しく言われないから」「時間がないから」「そもそもルールを良く知らない」といった理由で元に戻ってしまうのです。

ある工場では、月に一度の5Sパトロールを担当者が異動した途端に形骸化してしまいました。
その結果、わずか数か月で整理区分が崩れ、備品の紛失が増加したり、過剰在庫が起きてしまいました。
いうまでもなく、生産効率が大きく下がってしまいました。

更に、一度崩れてしまった5S活動を再始動させるのは、初回の取り組みよりもはるかに困難です。
いったん「やっても続かない」という認識が現場に根づくと、改善活動そのものへの信頼が損なわれるからです。
その状態では、再び同じ意欲を引き出すことは容易ではありませんし、組織に対するダメージも甚大です。

このような状況に陥ることを避けるためにも、「習慣(しつけ)」の仕組みを整えてこそ、継続が可能になります。


5Sは「人を変える」のではなく「仕組みで支える」

「5Sは人づくり」と言われることがあります。
確かに、5Sを通じて人の意識が変わることはあります。
しかし、“人を変えること”を目的にすると、現場の定着は難しくなります。

なぜなら、人の意識は波があり、環境によって容易に揺らぐからです。
「きれいにしよう」という意識だけでは、繁忙期や人員交代のたびに崩れてしまいます。

そこで重要なのが、「人を変える」よりも「仕組みで支える」という発想です。
誰がやっても、同じように維持できる仕組みをつくる。
それが「習慣(しつけ)」の本質です。

たとえば、整理整頓のルールを見える化し、写真付きで定位置を示す。
点検項目をチェックリスト化し、朝礼で確認する。
定期的に360°評価のような仕組みで、相互に刺激しあう。
こうした仕組みがあってこそ、個人差に左右されない5Sが実現され、「文化化」に繋がっていきます。

5Sの定着のカギは、努力ではなく仕組みを以下に作るかです。
人に頼る5Sから、仕組みで支える5Sへ。
これが「習慣(しつけ)」を根付かせる第一歩です。

現場に浸透させる工夫

第一章で触れた通り、5Sを一時的な取り組みで終わらせず、
現場に根づかせるためには、仕組み化し、文化化させることが不可欠です。

しかし、どんなに仕組みを整えても、
現場の中で動かし続けなければ、形骸化してしまいます。
「最初はうまくいったのに、気づけば元通り」――
その原因の多くは、仕組みが日常に組み込まれていないことにあります。

5Sを「やらされている活動」から「自然にやる習慣(しつけ)」へと変えるには、
日々の仕事の流れの中に5Sを組み込み、小さな成功体験を積み重ねることが大切です。

この章では、現場に「習慣(しつけ)」を浸透させるための具体的な工夫を、
運用・確認・称賛の3つの視点から見ていきます。

朝礼・終礼に5分の5S確認を組み込む

最も手軽で効果的な方法が、朝礼や終礼に5S確認を取り入れることです。
特別な時間を設けるのではなく、既にある日常の動線に組み込む。
これが「続ける」ための第一歩です。

たとえば朝礼では、持ち場の整理状況を互いに確認する。
終礼では、使用した工具や備品が定位置に戻っているかを点検する。
この「始まりと終わりに見直す」というサイクルが習慣化されると、
乱れが発生してもその日のうちに修正できます。

業務が始まる前と、業務が終わった後に、ルールが守られているのであれば、
日中に5Sの仕組みが正常に運営されている可能性が高いです。
その意味でも就業前と終業後に確認を行うことは効果的です。

重要なのは、単なるチェックではなく、対話の場にすることです。
「ここが良くなった」「ここが気になる」といった声を出し合い、
現場全体で5Sを意識し続けることが、文化としての定着につながります。

5Sも業務であると理解する

5Sを“本業の合間にやるもの”と捉えている限り、定着は難しくなります。

セミナーや研修の場でも、5Sが定着しない理由を聞くと、「時間がない」という回答が非常に多いです。
しかし、これまでの連載でも触れてきた通り、5Sは「仕事の準備」ではなく、「仕事そのもの」です。

5Sは業務の生産性や機械の稼働率にも直結する取組になり、本業の土台を強化する活動です。
たとえば、図面を探す時間が減る、工具を探さず作業に集中できる、
清掃によって異常が早期に見つかる。
これらはすべて、生産性や品質に直結することはいうまでもないでしょう。

5Sを業務の一部として認識できれば、
「やらなければならない」ではなく「やった方が仕事が楽になる」に変わります。
その理解があって初めて、日常業務の中に、5Sを仕組みとして組み込む動機付けがなされると思います。
つまり、この意識の転換が、5Sを継続させる最大の推進力になります。


写真・チェックリストを用いた進捗確認

5Sの定着には、目に見える管理が欠かせません。
写真やチェックリストを活用することで、
誰が見ても状態を判断できるようになります。

たとえば整理整頓の状態を「良い例」「悪い例」として写真で掲示する。
これにより、曖昧だった基準が共有され、指摘しやすくなります。
また、5S点検表を用いて朝礼・終礼時に全員でチェックを行えば、
文化化に対して大きく貢献します。
また、写真やリストを用いて管理をすることで、担当者が変わっても
あるべき姿の共通認識を持つことができるため、基準を保ち、品質を維持することができます。

ここで大切なのは、「評価のため」ではなく「改善のため」の確認にすることです。
ミスを責めるのではなく、変化を捉えて修正する
この姿勢が現場に根づくと、点検そのものが前向きな活動に変わります。


表彰制度や称賛文化で定着を後押し

5Sを続けるうえで最も大切なのは、「できていることを認める仕組み」です。
現場では、不具合や不備はすぐに指摘されますが、
地道な改善や維持は見過ごされがちです。

たとえば、月ごとに「5S優良エリア」を表彰する。
小さな工夫や改善を朝礼で紹介する。
そうした称賛の積み重ねが、モチベーションを支えます。

称賛の文化がある職場では、5Sが「仕事の一部」として扱われるようになります。
つまり、「やるべきこと」ではなく「やって当然のこと」として受け入れられる。
この段階に達して初めて、5Sは文化として根づいたと言えるのです。

成功事例に学ぶ「習慣(しつけ)」の実践

ここまで、5Sを現場に根づかせるための仕組みや工夫について見てきました。
これまでの記載の通り、5Sを文化として定着させるためには、
「仕組みをつくる」こととあわせて、「それを動かし続ける力」が求められます。

この力を支えているのは、特別なノウハウや掛け声ではありません。
日々の小さな積み重ねを徹底し、誰が見ても“整っている状態”を保つという意志とそれが職場で共有されていることです。

本章では、そうした文化を実現した企業の実践事例を取り上げ、
どのようにして「習慣(しつけ)」を根づかせたのかを見ていきます。

トヨテック株式会社:5Sを“全員の業務”として運用する

背景

愛知県を拠点とする光学部品メーカー、トヨテックは、国内外の生産拠点を持つ中で、製造現場のムダ・ムリ・ムラを削減し、グローバル水準での競争力を高めることを課題としていました。
その中で、5S活動が“現場任せ”“やらされ感”のある活動になってしまい、初動から数か月で停滞しやすいという実情を抱えていました。

取り組み

  • 社内ニュースや掲示板に「5S活動も業務であり、当社の生産基盤である」という明確なメッセージを発信。
  • 5S委員会を設置し、各職場から代表者を選出。月1回の5Sパトロールを実施し、その結果を全社掲示する仕組みを構築。
  • 「良い例」「改善すべき例」の写真を掲示し、職場ごとに比較できるように“見える化”を徹底。
  • 成果が出ている職場を朝礼時に紹介し、他職場の改善案として共有。

定着の要因

  • メッセージの明文化と常時共有(言語化)
  • パトロール・掲示・共有という運用構造(仕組み化)
  • 成果を現場で実感できるように数値化・可視化(動機付け)

住友電装株式会社:5Sを“安全・品質の評価軸”に組み込みグローバルで運用

背景

ワイヤーハーネス等を手掛ける住友電装は、自動車関連市場の厳しい競争の中で「世界同一最高品質」を掲げてきました。
国内外の工場・サプライヤー網を抱え、品質・納期・コストの三重要求に応えるには、現場の環境・標準作業・維持管理が鍵でした。

取り組み

  • 「ピカピカ運動」と称して5Sを社運レベルで位置づけ、社内文書に明記。
  • 工場評価(PK評価)にて「5S」「日常管理」「標準作業」をチェック項目として取り入れ、各拠点に定期監査を実施。
  • 安全衛生方針にも「5Sと建屋・設備・作業の安全環境づくり」を明記し、5Sを環境・安全・品質の共通基盤としました。
  • 海外拠点でも同一基準を水平展開し、日本本社基準とのギャップをモニタリング。

定着の要因

  • 評価制度への組み込み(持続性の担保)
  • 安全・品質・生産と5Sを一体化(価値の再定義)
  • グローバル水準での統一管理(ローカル任せを防止)

OSG株式会社:QCサークルと連動し、5Sのレベルアップを制度化

背景

切削工具大手のOSGは、グローバル展開と高精度製品の提供を通じて、製造現場の凖備・環境・技能が競争力に直結するという認識を持っていました。
その中で、5Sを“単発活動”から“改善の母体”へレベルアップさせる必要がありました。

取り組み

  • 社内安全・健康管理レポートにて「5S活動を定期的に実施する」旨を明記し、工場内活動として位置づけ。
  • QCサークル活動と5Sを統合し、改善テーマの中に“5Sを起点にした改善”を設定。
  • 本社を含む監査・評価制度を持ち、5S・標準作業・技能の三位一体を進める。
  • 海外でも「世界共通品質」を掲げており、5Sを水準としてグローバルに展開。

成功の要因

  • 5Sを改善活動の起点とすることで、現場参画を拡大
  • 日常活動と制度・監査が結びついた構造化
  • グローバル統一基準によるムラ・低水準の抑止

事例に共通する「習慣(しつけ)」の設計要素

各事例に共通して見られた「習慣(しつけ)」を定着させるための設計要素は、以下の3つに整理できます。

  1. 言語化・位置づけの明確化:5Sを「ただの整理活動」ではなく、「業務そのもの」「評価軸」「改善基盤」として明文化している。
  2. 仕組みとしての運用構造:パトロール、点検、掲示、監査、改善提案という具体的な仕組みが日常動線に埋め込まれている。
  3. 価値の再定義と動機付け:5Sを「仕事を楽にする」「品質を守る」「生産性を上げる」という価値に再定義し、現場が“やらされている”ではなく“やったほうがいい”と感じる動機を創出している。

この3要素は、どれか一つでも欠けると「習慣(しつけ)」の定着率が落ちます。
「仕組みをつくったから安心」という思考ではなく、「仕組みが日々動き、現場が変わっていく」という“継続の力”こそが文化を生みます。

まとめ

5Sの最終段階である「習慣(しつけ)」は、
単にルールを守るための仕組みではありません。
それは、現場に文化を根付かせるための仕組みそのものです。

整理・整頓・清掃・清潔をどれだけ進めても、
それが一時的な行動で終わってしまえば、いずれ元に戻ります。
継続の鍵を握るのは、「人の意識」ではなく「仕組みが支える環境」です。

第1章では、5Sが続くかどうかは“習慣(しつけ)”によって決まることを確認しました。
第2章では、朝礼・チェックリスト・称賛など、
日常の中に5Sを組み込む工夫を紹介しました。
そして第3章では、企業の実践例を通じて、
「5Sを業務として位置づけ、全員で動かす」ことの重要性を見てきました。

結局のところ、5Sを文化として根付かせるために必要なのは、
“やる人”を変えることではなく、“仕組み”を変えることです。
仕組みが人を動かし、人が文化をつくる。
この循環を生み出せた現場こそが、5Sの本質を体現しています。

5Sは特別な活動ではありません。
現場を整え、働く人を支え、企業を強くする「当たり前の仕事」です。
その“当たり前”を支える力こそ、「習慣(しつけ)」なのです。

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この記事を書いた人

コンサルティングファームに6年勤務し、大小問わず様々な企業の支援を行った後、中小企業診断士として独立。
机上論ではなく、現場で実行可能な支援を行うことを信条とし、生産性向上・5S等の製造現場支援や、モチベーションアップなどの組織構築支援を専門とする。

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