「またQCの報告書を書かなきゃいけないのか……」
「現場の仕事だけで手一杯なのに、これ以上何を改善しろって言うんだ」
製造業の現場で、こんなため息をついている方も多いことでしょう。
生産性向上や品質改善のために導入されたはずの「QC活動」が、いつの間にか現場のモチベーションを奪う、ただの「お荷物」になってしまっている。
実は、私が入社した会社も、まさにそんな職場でした。
「やらされ感」と「疲弊」で一杯だった新入社員時代
当時の私は現場に配属されたのですが、そこはQC活動に対する「やらされ感」と「疲弊感」で一杯でした。
日々の生産ノルマに追われる中、業務終了後に残らされてQCの資料を作成する先輩たちの背中には、明らかな徒労感が漂っていました。
「QCなんて大嫌いだ」
現場の誰もがそう思っており、新入社員だった私も、すっかりそのネガティブな雰囲気に染まってしまいました。その後、会社のQC活動自体が徐々に低調になっていったこともあり、私自身も長らくQC活動に関心を持つことはありませんでした。
色々と経験を積む中で、気が付いた「QC活動」の価値
その後、私はさまざまな部署へ異動し、さまざまな業務を経験しました。
世の中には本当に色々な問題が山積しています。私は色々な仕事を経験する中で、色々な問題に直面しました。
そして、色々な問題を解決できる『問題解決者』になることを目指して来ました。
もともと技術者でしたので、技術の問題には向き合って来ました。しかし、問題は、技術の範囲を超え、個人の範囲を超えて行きました。そうした中、さまざまな問題をどう解決できるかをひたすら考えて来ました。
そして最近になって、改めてQC活動に触れる機会がありました。
その時、私は心の底から驚きました。
「QC活動は、私がやって来た「問題解決」と全く同じことをやっているのではないか。
そして、QC活動は既に形ができているので、より強力な手法かもしれない。」
私が長年、手探りで身につけてきた問題解決方法。でも、QCの中にすべて用意されていたのです。
これは、ビックリしました。QC活動の価値を再発見しました。
しかし、新入社員の時に見た現場の光景は、単なる「上からの押し付け」でした。
「現場の問題を、QC活動により現場で解決させたい」という当時の会社の意図は、今ならよく分かります。現場の問題は、現場で問題解決するしかないのです。しかし、うまく機能しませんでした。本当に残念でなりません。
これほど確立された「武器」が目の前にあるのなら、これを使わない手はありません。
QC活動が優れていると、私が思った点は3つあります。
まずは、そこからお伝えできればと思います。
QC活動が優れている点①:グループ(集団)で活動する
QC活動の最大の特徴であり、最も優れた点の1つ目は「グループ(小集団)で活動すること」だと思います。
「みんなで進む」仕組みが会社を永続させる
早く行きたければ一人で、遠くまで行きたければみんなで
「早く行きたければ、一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」
(If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.)
これはアフリカの諺です。岸田元首相が所信表明演説で引用しました。私は、この言葉こそが企業経営や組織運営の真理を突いていると確信しています。
会社というのは、世の中という厳しい大海を、渡って行くための「船」です。皆が使う「道具」です。短期の話とか、一過性の話でしたら、優秀な人が一人で早く進んだ方が早いです。
でも、会社は皆が乗る船です。皆が長く乗り、遠くまで進める船で無ければなりません。
属人的な「一発もの」の改善では、いずれ限界が来ます。会社が長期的に生き延びるには、課題を継続的に解決していく必要があります。みんなで進むことで、遠くまで行くことができます。

極限状態を生き抜いた「シャクルトン隊」の奇跡
氷海に沈んだエンデュアランス号と絶体絶命の28名
これに関連して、私の大好きな本を紹介します。『エンデュアランス号:シャクルトン南極探検の全記録』です。
皆さんにも是非お薦めします。
今から100年以上前、極寒の南極大陸を舞台にした壮絶な冒険が行われました。スコット隊とアムンセン隊が人類初の南極点到達を競い、アムンセン隊が先着し、スコット隊は帰路で全滅してしまいました。
スコット隊の話は悲惨な悲劇です。南極は、極めて過酷な自然環境です。
同じ頃の話です。アーネスト・シャクルトンの探検隊は、南極点到達ではなく「南極大陸横断」を目指しました。しかし、彼らの乗るエンデュアランス号は、分厚い流氷に囲まれて身動きが取れなくなり、ついには船体が砕かれ、沈没してしまいました。マイナス数十度の氷海の上に取り残された28名の隊員。生存が極めて難しい状況に置かれました。
全員生還の鍵は「皆で進むこと」
この絶望的な状況下で、彼らは決して生きることを諦めませんでした。限られた物資で野営を続け、氷の海を小さな救命ボートで決死の航海に挑み、ありとあらゆる工夫を凝らしてサバイバルしました。そして遭難から約2年後、なんと「28名全員生還」を成し遂げました。シャクルトン隊の偉業を考えると、人間は何でも可能では無いかと思います。
シャクルトン隊が何故生還できたのか。ポイントは、「皆で進むこと」だったのではと思います。
絶対的な死の恐怖の前にあっても、誰もパニックにならず、絶望してバラバラになる事も無く、皆で協力して、生き残る道を探り続けました。皆で課題を解決して行きました。シャクルトンというリーダーの統率力があったかもしれません。でも、シャクルトンがどれほど優秀でも、シャクルトン一人では生き残れなかったと思います。

「QC活動」は皆で行う「問題解決」
このエピソードを現代の企業経営に置き換えてみてください。どんなに過酷な経営環境——たとえば未曾有の不況、円安や原材料価格の高騰、競合他社の台頭、パンデミック——に直面し、会社という船が沈みかけたとしても、生き残る道は必ずあります。だって、皆で力を合わせることされできれば、南極大陸からでも生還できるのですから。
それほど、「グループで共通の目標に向かって活動できること」は、大切なのです。そして、QC活動は、QCサークルを作り、グループで問題解決を行います。最も大切なポイントを抑えた「問題解決手法」ということです。
QC活動が優れている点②:自らの問題を「自ら」解決する
つぎに2点目です。QC活動の優れた点は、「自らの問題を、自らの手で解決する」という基本理念にあります。
「誰も代わりに解決してくれない」という残酷な事実
待っていても状況は悪化するだけ
工場でも、会社全体でも、営業所の現場でも、あるいは政府や国であっても、状況は同じだと思います。私たちの目の前には常に問題が山積しています。
そして残酷な事実ですが、「誰も、あなたの問題を代わりに解決してはくれません」。
会社もあなたの問題を解決してくれませんし、本社も現場の細かい不具合を魔法のように解決してはくれません。社長も解決してくれません。政府も解決してくれません。「誰かが何とかしてくれるだろう」と待っていても、状況は悪化するばかりです。問題を解決したければ、自分で解決するしかありません。自らが「問題解決者」になるしかないのです。
「天は自ら助くる者を助く」(Heaven helps those who help themselves.)というサミュエル・スマイルズの名著『自助論』にある有名な言葉の通りです。残酷な事かもしれませんが、真実であると思います。
シャクルトン隊に学ぶ、自ら動く覚悟
救助を待たず、自らボートを漕ぎ出す
ここでも、先ほどのシャクルトン隊の行動が大きな参考になります。船が沈没したとき、彼らは氷の上で座り込んで「いつか本国から救助船が来るだろう」と待つようなことはしませんでした。誰も助けに来ないことを冷静に悟り、外からの「救助を待つ」のではなく、過酷な海へボートを漕ぎ出すという「自ら動く」決断をしたことで、奇跡的に生還したのです。
彼らは自らでできるだけのことを、すべてやり尽くしました。そこにはパニックも、泣き叫ぶような切迫感もなく、ただ淡々と、今目の前にある現実的な課題(食料の確保、防寒、ボートの修繕)に対応して行きました。
「自助の精神」こそがQCの神髄
「自らできるだけのことはやる。けれども、それで駄目なら死ぬだけだ。それで助かるなら、それはそれで良かったじゃないか」。何という、透徹な精神でしょうか。
そこには、「会社が悪い」「時代が悪い」「誰のせいだ」というような他責の念は一切ありません。誰が悪いも、誰が良いも、何もありません。あるのは強烈な「自立の精神」だけです。当時の英国の探検家たちは、そのような高く気高い精神性を持っていたのだと思います。私は、そうしたシャクルトンの在り方が本当に好きなのだと思います。
QC活動も全く同じです。「設計が悪いから不良が出る」「機械が古いから歩留まりが上がらない」と他部署や環境のせいにしていても、不良は減りません。「自分たちの工程で、自分たちの権限で変えられることは何か?」にフォーカスし、自らの手を動かして問題を潰していく。この自助の精神が、「QC活動」の神髄なのです。
QC活動が優れている点③:QC7つ道具が整備されている
最後に3点目です。QC活動が優れているのは、「QC7つ道具」などの道具や進め方が整備されていることです。
若かりし頃の私は、現場で起きる「問題」というのはどれも個別であると考えていました。個別の問題なので、創意工夫を凝らして、一つ一つ解決法を考えるものと思っていました。一つ一つ、集中して、時間を掛けて、解決法を考えて行きました。
それから、年齢を重ね、経験を積み、多くの失敗と少しの成功を積み重ねる中で、私にも分かって来ました。
世の中にはさまざまな問題がありますが、実は「幾つかのパターンに類型化できる」のではないか。所詮は人間がやる事ですから無限ではありません。勿論、解決できない問題もありますが、解決できない問題も類型化はできます。
そして、道具には、先人の経験や知恵が蓄積して行きます。先人の知恵が蓄積した道具を使うことで、先人の肩の上(先人の知恵と経験)に立ち、大きく前に進む事ができます。
私たちの人生には、限られた時間しかありません。会社が生き残るためのタイムリミットもあります。直面する問題を、一から考えていては、時間が足りません。先人の知恵と経験を生かす事で、本当の意味での「問題解決者」になれます。
QC活動の課題(私の経験から)
ここまで、QC活動がいかに優れた手法であるかを述べてきました。
しかし、「QC活動」がうまく行かない会社は多いと思います。QC活動を止めてしまった会社もあるのではないかと思います。私が新入社員時代に経験したのも、現場の「やらされ感」と「疲弊感」でした。
QC活動を進めるには、「間違ったこと」や「しょうも無いこと」を安心して自由に言える環境が大切です。若手社員も安心して物を言える環境が必要です。誰が悪い、誰が良いとか、責任を擦り付ける職場では駄目です。「心理的安全性」の確保が、QC活動の基盤だと思います。
「心理的安全性」という観点から、QC活動の阻害になりそうなことも色々と経験しました。私の経験を紹介させて頂ければと思います。
「物を言うと唇が寒い」組織
私は、「物を言うと唇が寒い」組織を経験したことがあります。
本当に唇が寒くなります。そして、二度と発言をしないと後悔したのを覚えています。
役員や部長が参加して会議をするのですが、良かれと思って改善提案をしたり、他部署への要望を話そうものなら、寄ってたかって酷く責め立てられます。特に、役員に侍る茶坊主たちに責められます。そして、そのうち、誰も発言しなくなります。
私たちは、こうした事を「北風マネージメント」と呼んでいました。イソップ寓話の『北風と太陽』です。北風がいくら冷たい風を吹きつけて無理やり旅人のマントを剥ぎ取ろうとしても、旅人は警戒してマントをきつく抑え込むだけで、決して脱がせることはできません。
「北風マネージメント」の元では、皆さんは自分の生き残りに注力します。できるだけうまく立ち回り、被害者になることを避けます。こうなると、QC活動を進める事はできません。

「上司からのストレスを、部下に転嫁する」役職者
事業をしていると、どうしてもうまく行かない時があります。上司から叱責を受ける時もあります。会社の部門間で争いになる時もあります。個人に強いストレスが掛かる局面があります。個人にも、ストレスに強い対応と弱いタイプがあります。ストレスに弱い人は、上司からのストレスを、そのまま部下に転嫁します。
当時の私の同僚は、典型的なストレスに弱いタイプでした。上司から叱責されると、そのまま部下を叱責していました。上司から叱責されると、彼自身がパニックになっていました。彼には、自分なりのストレス対処法が必要だったと、今になって思います。
まとめ:ストレスに適切に対処するには
経済活動は競争なので、どうしても勝ち負けがあります。負けると、降格や減給、左遷、解雇に繋がることもあるので、どうしてもストレスが掛かります。そして、勝たなければ企業は存続できません。業績が悪化すれば上司から厳しい叱責を受ける時もあります。
また、プロジェクトが佳境に入れば、個人に強いプレッシャーやストレスが掛かる局面が訪れます。
事業活動において「ストレスが全くない無菌状態」を作ることは不可能です。
人間には、ストレスに強いタイプと弱いタイプがあります。自分が過度なストレスを受けたとき、それをコントロールできず、そのまま感情的に部下にぶつけてしまい、結果としてパワハラや「北風マネージメント」に走ってしまう人もいます。
ストレスを無くすことはできません。「ストレスが掛かっても、うまく対処して、健やかな心身を保ち、会社の仲間と協調して『問題解決』に向かえる状態を作れるか」が、ビジネスパーソンにとって重要なスキルになると思います。
ストレスに対処する方法としては、座禅をしたり、瞑想をしたり、武術をする人がおられます。また、ランニングをしたり、山登りをする人もいます。米国西海岸のテック企業では、マインドフルネスが流行りました。アップルのスチーブ・ジョブスは瞑想をしていたと聞きます。

自分なりの「ストレス対処法」を持つことは、問題解決者になるための必須条件です。ストレスへの対処法やセルフマネジメントの手法については、また別の記事で紹介したいと思います。
QC活動は、優れた「問題解決手法」です。決して時代遅れの「やらされ仕事」ではありません。心理的安全性の高いチームで、QCサークルで問題を解決して、会社を進化させることができます。QC活動を活用して問題解決の航海へと漕ぎ出しましょう。


